3月に出た医療法人の社員総会の招集に関する判例について書いていきます。
前提
- 医療法上、医療法人社団は、一般社団法人類似の法人であり、社員総会、理事、理事会、監事が必須機関である。社員総会は、全社員からなる合議体であり、役員(理事、監事)の選解任、事業報告書等の承認、定款変更等の権限を有する。社員総会における議決権は、社員1人につき1個である。
- 理事長は、少なくとも毎年1回、定時社員総会を開かなければならず、また、必要と認めるときは、いつでも臨時社員総会を招集できる。理事長は、総社員の5分の1以上の社員から招集を請求されたときは、請求日から20日以内にこれを招集しなければならない。
- 理事は原則として3人以上でなければならない。理事長は理事会により選出され、原則として医師又は歯科医師でなければならない。病院・診療所等の管理者(医師又は歯科医師でなければならない。)は、理事に加えなければならない。
- 医療法人は、都道府県知事の監督の対象となる。例えば、医療法人の設立(認可が必要)、理事を2人以下とすること(同前)、役員の員数が欠けた場合の職務代行者の選任(都道府県知事が選任する)、非医師を理事長とすること(認可が必要)、事業報告書等(届出義務がある)、定款変更(認可が必要)について、都道府県知事の関与が法定されているほか、都道府県知事には、立入検査、措置命令、業務停止・役員解任勧告、認可取消し等の権限が与えられている(その上で、これらを背景とした様々な通達が発せられており、それに基づく監査・指導がなされている。また、医療法人のほとんどは病院開設者・保険医療機関としての監督にも服することから、それらを通じた監督も事実上なされている)。
- 一般社団法人や会社においては、社員(株主)は、理事(取締役)に社員総会(株主総会)の招集を請求した後6週間(8週間)以内の非を社員総会(株主総会)の日とする招集通知が発せられない場合には、裁判所の許可(当事者対立構造ではない非訟手続により行われる。)を得て、自ら社員総会(株主総会)を招集することができるが、医療法人社団については、このような規定は置かれていない。
本件の概要
- 「本件は、医療法人早明会の社員である抗告人らが、当該医療法人の理事長に対して社員総会の招集を請求したが、その後招集の手続が行われないと主張して、裁判所に対し、社員総会を招集することの許可を求める事案であり、社団たる医療法人(以下、単に「医療法人」という。)の社員が一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)37条2項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することができるか否かが争われている」(決定文)。決定はこれを否定した。
- 法廷意見は、その理由として、「このような医療法の規律(注:一般法人法37条2項の準用規定がないこと)は、社員総会を含む医療法人の機関に関する規定が平成18年法律第84号による改正をはじめとする数次の改正により整備され、その中では一般法人法の多くの規定が準用されることとなったにもかかわらず、変更されることがなかったものである。他方、医療法は、医療法人について、都道府県知事による監督(第6章第9節)を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図ることとしている。」ことを挙げている。
- 渡邉補足意見は、「同項(注:46条の3の2第4項。請求を受けた場合の理事長の招集義務の規定)は、社員が医療法人の運営に関与する必要性があるというべき場合には、社員において理事長に対して臨時社員総会の招集を請求することができることとしたものと解することが相当であり、社員において臨時社員総会の招集を図るために採り得る法的手段として、訴訟手続により理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得ることが考えられる。/なお、上記の訴訟手続によるときは、医療法が本来予定している臨時社員総会の招集を図るものであって、同法の現行規定における医療法人の社員総会に関する規律に混乱を生じさせるものではない。これに加え、上記訴訟手続は、一般法人法37条2項に基づく非訟事件手続とは異なり、理事長において、当事者として臨時社員総会の招集請求に応じない理由等を含めて主張立証を尽くすことが期待され、また、社員も理事長もその判決に対する控訴をすることができることからすれば、これらの審理を通じて、より医療法人についての適正手続を確保することができ、上記医療法46条の3の2第4項の趣旨、ひいては同法の現行規定にも整合するものということができる。」とする。
コメント
- 多数意見のロジックは、次のように言い換えることができる。すなわち、立法者は医療法の医療法人関係部分を一般法人法の特別法と位置付け、累次の改正により準用規定を置いてきているのだから、準用されていない条文は、立法者による利益衡量がなされていない(=法の欠缺)のではなく、医療法人の特殊性(40条の2は、運営基盤の強化、医療の質の向上、運営の透明性の確保を医療法人の責務とする。)を考慮した利益衡量の結果として、そのようにされている(=intentionally blank)と見るべきである。
- 個人的に興味を持ったのは、渡邉補足意見である。補足意見は、46条の3の2第4項に基づき、理事長に対して臨時社員総会の招集を命ずる旨の判決を得ることができるとしている。渡邉裁判官は、①医療法が本来予定する招集手続を利用するものだから、混乱を生じさせることはないこと、②訴訟手続によれば、理事長にも主張立証の機会が与えられることから、そのような方法が許されると考えているようである。
- しかしながら、補足意見のロジックが法廷意見と整合するかについて、若干の疑問がある。すなわち、法廷意見によれば、医療法が「都道府県知事による監督(第6章第9節)を予定するなど、一般法人法にはない規律を設けて」いるのは、「医療法人の責務を踏まえた適切な運営を図る」ためであり、端的に言えば、医療を受ける者の利益(医療需要者利益と呼ぶことにする)を図るためである。それでは訴訟手続によれば医療需要者利益を図ることができるのかというと、必ずしもそうではないように思われる。すなわち、理事長が必ずしも医療需要者利益に忠実であるとは限らないし、その点を措いて、社員・理事長それぞれがいかに自身の対応(招集、不招集)が医療需要者利益に適うかについて主張立証を尽くしたとしても、受訴裁判所はそれによって招集を命じるかどうかを判断するではないからである(すなわち、適法な招集請求があり、かつ、適法な招集通知がされていないのであれば招集を命じ、そうでなければ請求を棄却するだけである)。
- 個人的な仮説は、(厚生労働省のことなので書き忘れたのではないかということを措くと、)医療法は、社員による招集でも、訴訟手続による意思表示の擬制でもなく、都道府県知事による監督に期待しているのではないかということである。すなわち、都道府県知事は、法令違反に関し、医療法人に対し、措置命令を発することができ(64条1項)、不服従の場合には、役員の解任を勧告することができる(同条2項)。勧告を超えて解任命令(例えば金商法には存在する)を発することまではできないが、認可取消し(66条)によって事実上勧告に従うことを強制できる。これらの行政処分には裁量が認められるから、都道府県知事は、医療需要者利益の最大化の観点から、理事長が不当に招集を拒絶していると考える場合には、招集を命じればよいし、その必要まではないと考える場合には、何もしなければよい。これらの措置は取消訴訟や義務付け訴訟の対象となるが、そこでは、裁判所は、裁量の逸脱濫用という形で審査を行うことになる。
- このような処理は、特に不招集のケースで社員に酷なのではないかとも思われるが、そもそも医療法人は、上記のとおり、運営基盤の強化、医療の質の向上、運営の透明性の確保のために設立が認められた法人であり、その社員権も、財産権としての性質は弱い(現在設立できる「持分なし」の医療法人においてはそもそも財産権としての性質がないし、かつて設立できた「持分あり」の医療法人においても資本多数決は行われていない)。このような性質から、一般法人法や会社法と異なる規律が正当化されるのではないかと思われる。