DMA7条の概要ー番号非依存通信サービスの相互運用性義務

DMA7条はWhatsApp、Facebook Messengerのような番号非依存通信サービスについて、相互運用性の義務を課しているのですが、それについて書いていきます。

 

背景

過去の2つの記事

において、要旨、

  • LINEの件については、「番号非依存通信サービスである→市場支配力と競争可能性の欠如→投資インセンティブの低下→セキュリティレベルを含むユーザビリティの抑制」という背景にこそ総務省は対処すべきであること、
  • それは具体的には電気通信事業法の非対称規制として、DMA7条を参考にした互換性義務を課すことであること、
  • スマホ競争法の制定によりその素地は整いつつあること

を書きました。もっとも、DMA7条について日本語文献が見当たらなかったので、書いていくというのが本記事の趣旨です。

 

EECCと番号非依存通信サービス(NI-ICS)

  • 番号非依存対人通信サービス(number-independent interpersonal communications services, NI-ICS)は、EECC(European Electronic Communications Code。Codeとあるが文書形式はDirective。概要資料はこちら)で定義された概念である。従前、EUの電気通信政策は、Framework Directiveを含む2002年の4つの指令により規律されていた。しかし、そこではNI-ICSが明確に規制対象(正確にはEUが加盟国に規制を義務付ける対象)とされておらず、実際上、一部の加盟国はNI-ICSに対して実質的な規制を行っていなかった。そこで、2018年のEECCは、NI-ICSが規制対象であることを明確にし、NI-ICS特有の規制を課した。
  • EECC3条2項(c)は、一般的な目標(general objectives)の一つとして、競争促進を挙げている。
  • EECC61条は、加盟国当局は、適切なアクセスと相互接続、及びサービスの相互運用性を奨励し、それが適切である場合には確保するものとし(1項前段)、特に、対人通信サービス間の相互運用性の欠如によりエンドユーザー間のエンドツーエンドの接続性が危険にさらされている場合に、エンドユーザー間のエンドツーエンドの接続性を確保するために必要な範囲で、相当のレベルの(地域)カバー率とユーザー利用率を達成している番号非依存対人通信サービスの関連プロバイダーに、サービスを相互運用可能にする義務を課すことができるとしている(2項(b))。このように、EECC上は、相互運用性の強制は基本的には加盟国の裁量である。一方、DMA7条は、ゲートキーパーが提供する番号非依存対人通信サービスについて、相互運用性の義務を課している。
  • 一方、EECC68条以下は、加盟国当局は、顕著な市場支配力を有する事業者(undertakings with significant market power, SMP)について、透明性義務(取引条件の明示等)、差別禁止、会計分離、土木インフラへのアクセス等の規制を課すものとしている(非対称規制)。ここでは加盟国に非対称規制を課すかどうかの裁量は認められていない。

 

DMA7条

前文11項、32項

DMA前文11項、32項は、DMAの目的の1つ(もう1つは公正性)である競争可能性(contestability)について、以下のように述べています。

TFEU​​第101条及び第102条並びに反競争的な多国間及び一方的行為並びに合併規制に関する対応する国内競争ルールは、市場における歪められていない競争の保護を目的としている。本規則は、競争法の用語で定義される特定の市場における歪められていない競争の保護とは補完的であるが異なる目的を追求しており、その目的は、本規則の対象となる特定のゲートキーパーの行為が特定の市場における競争に及ぼす実際の、潜在的な、または推定される影響とは関係なく、ゲートキーパーが存在する市場が競争可能かつ公正であり続けることを確保することである。したがって、本規則は、それらのルールによって保護されるものとは異なる法的利益を保護することを目的としており、それらのルールの適用を妨げることなく適用されるべきである。(11項)

この規則において、競争可能性は企業が参入や拡大の障壁を効果的に克服し、自社の製品やサービスのメリットでゲートキーパーに対抗できる能力に関連する。デジタル分野の主要なプラットフォームサービスの特徴、例えばネットワーク効果、強力な規模の経済、データから得られる優位性などは、これらのサービスおよび関連するエコシステムの競争可能性を制限している。このような競争可能性の弱さは、ゲートキーパー、そのビジネスユーザー、挑戦者及び顧客に対する製品及びサービスの革新及び改善のインセンティブを減少させ、それによって広範なオンラインプラットフォーム経済の革新の可能性に悪影響を及ぼす。デジタル分野におけるサービスの競争可能性は、主要なプラットフォームサービスに複数のゲートキーパーが存在する場合にも制限される可能性がある。したがって、この規則は、参入や拡大の障壁を増加させる可能性があるゲートキーパーの特定の行為を禁止し、これらの障壁を低減する傾向にあるゲートキーパーに対して特定の義務を課すべきである。また、その義務は、ゲートキーパーの地位が短期的に効果的なプラットフォーム間競争が不可能なほど強固である状況に対処し、プラットフォーム内競争を創出または強化する必要がある状況にも対応すべきである。(32項)

 

前文64項

DMA前文64項は、7条の背景について、以下のとおり述べています。

相互運用性の欠如により、番号非依存対人通信サービスを提供するゲートキーパーは、強力なネットワーク効果の恩恵を受けることができ、これが競争可能性の弱体化に寄与している。さらに、エンドユーザーが「マルチホーム」であるかどうかに関係なく、ゲートキーパーはプラットフォームエコシステムの一部として番号非依存対人通信サービスを提供することが多く、これにより、そのようなサービスの代替プロバイダーの参入障壁が強化され、エンドユーザーのスイッチングコストが増加する。したがって、欧州議会及び理事会の指令 (EU) 2018/1972 (14)(注:EECC)、特にその第61条に規定されている条件と手順を損なうことなく、ゲートキーパーは、自社のエンドユーザーに提供する番号非依存対人通信サービスの特定の基本機能との相互運用性を、無償で要求に応じて、そのようなサービスのサードパーティプロバイダーに確保する必要がある。

ゲートキーパーは、EU内のエンドユーザー及びビジネスユーザーに番号非依存対人通信サービスを提供している又は提供しようとしている番号非依存対人通信サービスのサードパーティプロバイダーの相互運用性を確保する必要がある。このような相互運用性の実際の実装を容易にするために、関係するゲートキーパーは、番号非依存対人通信サービスとの相互運用性の技術的詳細と一般条件を規定する参照オファーを公開する必要がある。該当する場合、委員会は、ゲートキーパーが実装する予定である又は実装した参照オファーで公開された技術的詳細と一般条件がこの義務の遵守を保証するかどうかを判断するために、電子通信に関する欧州規制機関の機関と協議できる必要がある。

全ての場合において、ゲートキーパー及び要求プロバイダーは、相互運用性が、本規則及び適用されるEU法、特に規則 (EU) 2016/679(注:GDPR)及び指令 2002/58/EC(注:eプライバシー指令)に規定された義務に従って、高いレベルのセキュリティとデータ保護を損なわないようにする必要がある。相互運用性に関する義務は、本規則及びその他のEU法、特に規則 (EU) 2016/679に基づき、ゲートキーパー及び要求プロバイダーの番号非依存対人通信サービスのエンドユーザーに提供される情報及び選択肢に影響を与えないものとする。

 

7条

  • DMA7条1項は、「ゲートキーパーが第3条第9項に基づく指定決定に記載された番号非依存型対人通信サービスを提供する場合、ゲートキーパーは、要求に応じて無償で相互運用性を促進する必要な技術的インターフェース又はこれと同等のソリューションを提供することにより、EU域内でそのようなサービスを提供している又は提供しようとしている他のプロバイダーの番号非依存型対人通信サービスと、その番号非依存型対人通信サービスの基本的機能を相互運用可能にするものとする」としている。
  • 7条2項は、「ゲートキーパーは、ゲートキーパー自身が自らのエンドユーザーに対して以下の基本機能を提供する場合、少なくとも第1項に規定する以下の基本的機能を相互運用可能にしなければならない」とし、以下のとおり定めている。
    • (a) 第3条第9項の規定に基づく指定決定のリストへの記載後:
      • (i) 2人のエンドユーザー間のエンドツーエンドのテキストメッセージング
      • (ii) 2人のエンドユーザー間のエンドツーエンド通信における画像、音声メッセージ、ビデオ、その他の添付ファイルの共有
    • (b) 指定後2年以内に:
      • (i)個々のエンドユーザーのグループ内でのエンドツーエンドのテキストメッセージング
      • (ii) グループチャットと個々のエンドユーザー間のエンドツーエンドの通信における画像、音声メッセージ、ビデオ、その他の添付ファイルの共有
    • (c) 指定後4年以内に:
      • (i) 2人のエンドユーザー間のエンドツーエンドの音声通話
      • (ii) 2人のエンドユーザー間のエンドツーエンドのビデオ通話
      • (iii) グループチャットと個々のエンドユーザー間のエンドツーエンドの音声通話
      • (iv) グループチャットと個々のエンドユーザー間のエンドツーエンドのビデオ通話
  • 7条3項以下は、セキュリティに配慮しつつ、ゲートキーパーが提供するNI-ICSへのアクセスを保障するための詳細を規定している。「参照オファー」とは、デフォルトの取引条件を記載した文書である(前文64項)。
    • 「ゲートキーパーが自社のエンドユーザーに提供するセキュリティのレベル(該当する場合、エンドツーエンドの暗号化を含む)は、相互運用可能なサービス全体で維持されなければならない。」(3項)
    • 「ゲートキーパーは、セキュリティレベル及びエンドツーエンドの暗号化に関する必要な詳細を含む、番号非依存対人通信サービスとの相互運用性の技術的詳細及び一般的な条件を規定する参照オファーを公表しなければならない。ゲートキーパーは、第3条(10)に規定された期間内にその参照オファーを公表し、必要に応じて更新しなければならない。」(4項)
    • 「第4項に従って参照オファーが公表された後、EU内で番号非依存対人通信サービスを提供している又は提供を予定しているプロバイダは、ゲートキーパーが提供する番号非依存対人通信サービスとの相互運用性を要求することができる。このような要求は、第2項に記載されている基本機能の一部又は全てを対象にすることができます。ゲートキーパーは、要求を受け取った後3か月以内に、要求された基本機能を運用可能にすることで、相互運用性に関する合理的な要求に応じなければならない。」(5項)
    • 「委員会は、ゲートキーパーからの合理的な要請に基づき、例外的に、効果的な相互運用性を確保し、エンドツーエンドの暗号化を含む必要なレベルのセキュリティを維持するために必要であるとゲートキーパーが証明した場合、第2項又は第5項に基づく遵守の期限を延長することができる。」(6項)
    • 「ゲートキーパーの番号非依存型対人通信サービス及び番号非依存型対人通信サービスの要求プロバイダーのエンドユーザーは、第1項に従ってゲートキーパーが提供する相互運用可能な基本機能を使用するかどうかを自由に決定できるものとする。」(7項)
    • 「ゲートキーパーは、相互運用性を要求する番号非依存対人通信サービスのプロバイダーとの間で、効果的な相互運用性を提供するために厳密に必要なエンドユーザーの個人データのみを収集し、交換しなければならない。エンドユーザーの個人データのこのような収集及び交換は、規則 (EU) 2016/679及び指令 2002/58/EC に完全に準拠するものでなければならない。」(8項)
    • 「ゲートキーパーは、相互運用性を要求する番号非依存対人通信サービスの第三者プロバイダーがそのサービスの完全性、セキュリティ及びプライバシーを危険にさらさないことを保証するための措置を講じることを妨げられない。ただし、そのような措置が厳密に必要かつ適切であり、ゲートキーパーによって正当であると証明される場合に限る。」(9項)