標記について、若干考えたことがあるので備忘として簡単に書き残しておきます。
- 総務省は、2000年代後半の通信・放送法制の見直し(平成22年放送法・電波法改正として結実した。)において、
- EU法を参考に、
- 放送のハード・ソフト分離、コンテンツ・伝送インフラそれぞれの横断化(「情報通信法」の制定)という基本的な方針の下に、
- (従来放送法の番組編集準則を中心とする内容規制の正当化根拠については複数のものが挙げられてきたところ)特別の社会的影響力の有無とその程度に着目して、①基幹放送に相当するものを特別メディアサービス、②それ以外の放送に相当するものを一般メディアサービス、③放送以外のコンテンツをオープンメディアコンテンツと分類し、
- ①について番組編成準則・番組調和原則を含む内容規制を維持し、②についてはそれらの規制は緩和し、③については違法有害情報対策を義務付けることを提案したが(通信・放送の総合的な法体系に関する研究会 報告書(平成19年12月6日))、
- ③について特に強い反対に遭い、基本的には放送法のハード・ソフト分離にとどまった(さしあたり情報通信審議会「通信・放送の総合的な法体系の在り方 <平成20年諮問第14号> 答申」(平成21年8月26日)、影井敬義「通信・放送の法体系の見直しについて~「放送法等の一部を改正する法律」による制度改正~」、荒井透雅「通信と放送の法体系の見直し〜放送法等の一部を改正する法律案〜」)。
- また、この際、EUと日本では沿革や規制環境が異なることが指摘され、独立行政委員会の必要性が議論された(さしあたり清水直樹「情報通信法構想と放送規制をめぐる論議」74頁)。
- また、放送法の内容規制を巡っては、2015年の安全保障法制の議論に関連して、不当な圧力が疑われる事態が生じ、再度議論が活発化した(さしあたり清水直樹「放送番組の規制の在り方についての議論―放送法における番組編集準則の法規範性を中心に―」、笹田佳宏「番組編集準則の政府解釈の変遷一国会審議を中心に一」)。
- 現在検討されている偽情報対策ないし違法有害情報対策は、これらの延長上にある。筆者は健全性検討会報告書案のパブコメにおいて、EUと日本では規制環境(端的に言えば政府による規制権限濫用リスク)が異なることを指摘しており、また現在提案されている情プラ法26条ガイドライン案にはガイドラインを示すことの是非及びその内容の双方において問題があると考えているが、この問題を考えるに当たっては、上記のような経緯も考慮に入れるべきだと思われる。