オンカジ検討会中間論点整理案(骨子)について―特に通信の秘密に関して

オンカジ検討会の中間論点整理案(骨子)が公表されていましたので、主として今後の(DNS/それ以外の)ブロッキングに関する議論への示唆という観点から、簡単に紹介します。

 

論点整理案の概要

  • 「ブロッキングは、インターネット接続事業者(ISP)が、オンラインカジノの利用者だけでなく、すべてのインターネット利用者の接続先等を確認し、通信当事者の同意なく遮断等を行うものであり、電気通信事業法が規定する通信の秘密の侵害に該当する。」(6頁)ことが明記された。
  • 「①ブロッキングは、他のより権利制限的ではない対策(例:周知啓発、フィルタリング等)を尽くした上でなお深刻な被害が減らないこと、対策として有効性がある場合に実施を検討すべきものであること(必要性・有効性)、②ブロッキングにより得られる利益と失われる利益の均衡に配慮すべきこと(許容性)、③仮に実施する場合、通信事業者の法的安定性の観点から実施根拠を明確化すべきこと(実施根拠)、④仮に制度的措置を講じる場合、どのような法的枠組みが適当かを明確化すべきこと(妥当性)」(2頁)という通秘侵害の正当化の判断枠組みが示された。
  • 東京高判令和元年10月30日判決が、(児童ポルノと異なり、)「著作権者の経済的利益のために通信の秘密の制限することについて否定的な見解が示された」(9頁)、「法解釈(緊急避難の考え方)に基づき自主的にブロッキングの実施を表明した事業者が訴訟を提起され、実質的に敗訴ともいいうる判決が示された」(10頁)と位置づけられた。
  • 「賭博の保護法益は「勤労の美風」という社会的秩序であるとされること(最大判昭和25年11月22日)から、これのみで通信の秘密の侵害を正当化することは困難」(9頁)であることが明記された。
  • 「オンラインカジノは、賭け額の異常な高騰や深刻な依存症患者の発生など、きわめて深刻な弊害が報告されており、必ずしも賭博罪の保護法益(社会的法益)に留まらず、刑法上の議論に尽きるものではない」「これは、通常の賭博(合法ギャンブルのオンライン提供を含む)と異なり、①海外から日本に向けて提供されており、運営主体の適正性が担保されない、②1日当たりの賭け回数や上限額の設定、年齢確認、相談窓口の設置といった依存症を予防するための基本的な対策が講じられていない等の構造的課題に起因すると考えられ、一過性の現象と見なすことは適当ではない」(9頁)との問題提起がなされた一方、「ブロッキングは、あくまで、違法情報の流通によってもたらされる弊害を除去する目的を達成するためのアクセス抑止策の一つであり、その枠組みを検討するに当たっても、当該弊害の除去という本来の政策目的に基づく規制体系の中で位置づけられるべき…特に、カジノを巡っては、IR法制定の過程でランドカジノの合法化の要件が定められた一方、オンライン化の是非や要件については具体的な議論が先送りとなった…他の合法ギャンブルのオンライン提供において講じられているような対策がないことが、依存症をはじめとする弊害を悪化させている面があることから、ブロッキングの制度設計に当たっても、カジノ規制全般に対する議論抜きにその在り方を検討することは困難」(11頁)との意見が明記された。
  • 「仮に法解釈(緊急避難)で行う場合は、ブロッキングを実施する電気通信事業者において、個々の事案ごとに緊急避難の 要件を満たしているかを検討し、事業者自らの判断(誤った場合のリスクは事業者が負担)で実施するかどうかを決める ことになる。オンラインカジノサイトについては、無料版やゲーム等との区別が容易ではないことも指摘されているところ、 仮に法令によって遮断対象や要件等を明確にしなければ、 「ミスブロッキング」や「オーバーブロッキング」のリスクが高 まり、法的責任(通信の秘密侵害罪、損害賠償責任)を回避するために遮断すべきサイトのブロッキングを控えることが考 えられ、対策の法的安定性を欠くことになる」(10頁)、「特に、ブロッキングにおいて犠牲にされる利益は、電気通信事業者自身が処分可能なものではなく、あくまで利用者である国民一般のものであることから、電気通信事業者における法的安定性を確保することはきわめて重要」(同)と明記された。
  • 「具体的な制度を検討するに当たっては、通信の秘密の制限について厳格な要件を定めた例である「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(いわゆる能動的サイバー防御法)や、フランスをはじめ違法オンラインカジノ規制の一環としてブロッキングを法制化している諸外国の例が参考になる」(11頁)、「以下の論点について具体的な検討が必要…①遮断義務付け主体(遮断対象リストの作成・管理を適切に行う主体(オンラインカジノ規制と密接に関連)など)②遮断対象(対象範囲の明確化(国外・国内サイト、国外サイトのうち日本向けに提供するサイト、無料版の扱い等)など)③実体要件(補充性(他の対策では実効性がないこと)、実施期間、実施方法など)④手続要件(事前の透明化措置として、司法を含む独立機関の関与、遮断対象リストの公表など。事後的な救済手段として、不服申立手続・簡易な権利救済手段の創設、実施状況の報告・事後監査の仕組など)⑤その他(実施に伴う費用負担、誤遮断時の責任の所在(補償)など)」(同)との意見が明記された。

 

コメント

  • オンラインカジノが違法であることの教育・啓発や、クロスボーダー決済の規制強化等の取組み(ギャンブル等依存症対策推進基本計画参照)が進展する中で、7年前の知財本での議論と対照的に、慎重な議論がなされたのではないかと思います。
  • 特に、DNSブロッキングの有効性には疑義があること、賭博罪の保護法益が(児童ポルノによって侵害される人格的利益はもちろん)知財にすら劣後すること、緊急避難によることは適切ではなく立法によるべきことが明記されたこと、法整備に当たって検討すべき事項が具体的に示されたことは、今後のオンカジ以外も含めたブロッキング全般の議論にとって有益なのではないかと思います。
    • なお、付け加えるとすれば、正当防衛に関しては、平成29年の判例が、急迫性要件に関して、緊急行為性に着目した解釈を示しています。緊急避難の現在性要件は、急迫性と同等のものと解釈されてきており、そこでは、単に公益の侵害の時間的切迫だけではなく、立法が期待できないといった事情(前記判例にいう「急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないとき」に相当)が要求されるべきではないかと思います。
  • 依存症予防の観点からの規制の必要性は理解できるところですが、これについて、「当該弊害の除去という本来の政策目的に基づく規制体系の中で位置づけられるべき」との指摘が明記されたことは有意義だと思います。より端的に言えば、ギャンブルを規制する必要性はあるが、刑法185条、186条はその手段としてフィットしていないということです。ギャンブル等依存症対策基本法の改正は、「本来の政策目的に基づく規制体系」への第一歩となるとよいと思います。
    • なお、同様の状況は、わいせつ物頒布等(刑法175条)でも生じていると思います。「AirDrop痴漢」やメッセージングサービスを通じた性的コンテンツの送りつけ行為は禁止されるべきであり、ポルノにはゾーニングが必要であり、ポルノの制作過程で行われる不公正行為(人身取引からインフォームドコンセントの欠如までを含みます。)は処罰されるべきですが、これらは性的行為や性的コンテンツの享受に係る自己決定権の保護を目的とする規制を通じて実現されるべきであり(AV出演被害防止・救済法や性的姿態撮影等処罰法はその第一歩と考えられます。)、性的道義観念の保護を目的とする規制を「転用」して実現できるものではないと思います。