【最高裁】亡母が受けたいじめの調査記録が子に関する保有個人情報に当たらないとした判決について

2月に出た保有個人情報開示請求に関する判例について書いていきます。

 

前提

  • 本件では、廃止された行個法が適用されている。
  • 行個法12条1項(開示請求権)は、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。」としていた。
  • 行個法45条1項(適用除外)は、「第四章(注:12条を含む)の規定は、刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分、刑若しくは保護処分の執行、更生緊急保護又は恩赦に係る保有個人情報(当該裁判、処分若しくは執行を受けた者、更生緊急保護の申出をした者又は恩赦の上申があった者に係るものに限る。)については、適用しない。」としていた。
  • 行個法2条2項1号は、個人情報を、「生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。」「一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等…により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」と定義していた。
  • これらの規定は、行個法廃止後も、実質的に維持されている(個情法2条1項1号(ただし、「容易に」の文言あり)、76条1項、124条1項)。

 

本件の概要

  • 「1 本件は、上告人が、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの。以下「法」という。)12条1項に基づき、処分行政庁に対し、上告人の死亡した母(以下「亡母」という。)が収容されていた刑務所(以下「本件刑務所」という。)において同室者から受けたいじめに関する事案を調査した記録(以下「本件調査記録」という。)に記録されている情報(以下「本件情報」という。)等の開示を請求したところ、その全部を開示しない旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため、被上告人を相手に、その取消しを求める事案である。」
  • (事実関係略)
  • 「3 原審は、上記事実関係等の下において、(①)亡母が、同室者から受けたいじめに関し、同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権を有していた場合には上告人がこれを相続するところ、本件調査記録は上記請求権の存否を判断するための最も重要な証拠の一つであるから、本件情報は上記請求権の存否に密接な関連を有する情報として、上告人を本人とする保有個人情報に当たるとした上で、(②)刑の執行に係る保有個人情報が開示されれば、刑の執行を受けた者が生存するか否かにかかわらず、そのプライバシー権や名誉権が著しく侵害されるおそれがあることなどから、本件情報は法45条1項所定の保有個人情報に当たるとして、本件決定のうち本件情報を開示しないものとした部分に係る上告人の請求を棄却した。所論は、本件情報が同項所定の保有個人情報に当たるとした原審の判断には、同項の解釈適用の誤りがあるというものである。」
  • 「4 法は、生存する個人に関する情報であって、所定の要件に該当するものを 「個人情報」と定義した上で(2条2項)、個人情報のうち、刑の執行に係る保有 個人情報については、当該執行を受けた者に係るものに限り、第4章の規定を適用しないこととして開示請求等の対象から除外している(45条1項)。/亡母は生存する個人ではなく、本件情報が亡母に関するものとして法45条1項所定の保有個人情報に当たるものということはできず、また、上告人は刑の執行を受けた者ではなく、本件情報が上告人に係るものとして同項所定の保有個人情報に当たるとみる余地もない。したがって、本件情報が同項(注:45条1項。2条2項ではない。)所定の保有個人情報に当たるとした原審の判断(注:上記②の判断)には、同項の解釈適用を誤った違法がある。
  • 「5 もっとも、法12条1項に基づく開示請求が認められるためには、開示請求 に係る保有個人情報が開示請求者を本人とするものであることを要する(注:上記①はこれを肯定)。そして、本件情報が開示請求者である上告人を本人とする保有個人情報に当たるか否かを判断するに当たっては、本件情報が、上告人に関する情報であって、これに含まれる記述等により上告人を識別することができるものであるか否かを検討する必要がある(法2条2項)。/そこで検討すると、亡母の同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権は、上告人がその発生の可能性を主張しているにとどまるものであって、上告人がこれを有しているとはいえない。そうである以上、本件調査記録に記録された亡母に関する情報は、上告人が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはできず、上告人に関する情報であるとはいえないし、本件調査記録に記録された亡母に関する情報をもって上告人を識別することができるということもできない。このことは、本件調査記録が上記請求権の存否に関する重要な証拠であるか否かや、本件情報が上記請求権の存否に密接に関連する情報であるか否かによって、左右されるものではない。/そして、他に、本件調査記録に、上告人に関する情報であって、氏名、生年月日その他の記述等により上告人を識別することができるものが記録されていることをうかがわせる事情も見当たらない。/したがって、本件情報は、上告人を本人とする保有個人情報に当たらないというべきである。」

 

コメント

  • 本判決は、本件情報(≒本件調査記録の記載内容)が上告人に関する情報であるかについて、「亡母の同室者又は被上告人に対する損害賠償請求権は、上告人がその発生の可能性を主張しているにとどまるものであって、上告人がこれを有しているとはいえない」から、「本件調査記録に記録された亡母に関する情報は、上告人が有する損害賠償請求権に関する情報であるということはでき」ないとしている。これは、いわば、損害賠償請求権の発生が立証されていないことを理由に、本件情報が上告人に関する情報であることを否定したものであり、裏を返せば、損害賠償請求権の発生を立証すれば、本件情報が上告人に関する情報に当たる余地を認めているようにも見える。しかしながら、仮にそのような解釈が取られているのだとすれば、次の疑問がある。すなわち、第1に、本件情報が損害賠償請求権の存否に関わるからといって、相続が生じた場合には、それだけで、本件情報が相続人に関する情報に「も」なるというのは、不合理ではないか。第2に、仮に上記のような解釈を取る場合、損害賠償請求権の発生を立証するために本件情報の開示を求めている上告人に、損害賠償請求権の発生の立証を求めることになるが、これは、不合理ではないか。
  • 個情法の感覚からすると、上告人に関する個人情報該当性を否定した結論自体に違和感はない。本件は、不法行為に係る紛争の一部であり、本来的には、民事訴訟法上の証拠収集制度を充実させることで解決すべき問題だと思われる。民事訴訟法上の証拠収集制度が不十分であるがゆえに、他の制度に過剰な期待が持たれる場面は多い。
  • なお、行個法(それを引き継いだ個情法第5章も同様)は、いわゆる制度の谷間を埋めるべく、「保有個人情報」を主たる規律の対象とし、行政文書への記録を要求する代わりに、個人情報ファイルに記録されていない個人情報についても規律を及ぼしたが、本判決は、それでも解決しない問題があることを示しているように思われる。