CDNプロバイダの過失責任とDNSブロッキング・本人確認義務―KADOKAWAほか対Cloudflare事件一審判決の示唆

Cloudflare判決に関するメモを公開します(2025年12月8日脱稿)。2万字超の原稿なので、先に「まとめ」を引用しておきます。

本稿で行った本判決の分析を整理すると、以下のとおりである。

第1に、本判決は、①95%以上のキャッシュヒット率、②本人確認プロセスの欠如、③DMCA通知を考慮して、情プラ法2条1項による免責を認めず、かつ過失による出版権侵害の幇助を認めた。①②は適法なコンテンツにおいても同様であることからすれば、決定的なのは③である。このように「中立的な道具」の提供者の責任が主観により左右される状況は、Winny事件決定に類似する。

第2に、CDNは他人の通信を媒介する電気通信役務であると解されているが、権利侵害通知への対応を義務付けることは、通信の秘密を侵害しない。本判決が注意義務を設定する上で通信の秘密に言及していないのは、単にそれが問題とならない場面だからである。

第3に、不法行為法上の過失(注意義務)という形であれ、CDNプロバイダにサービスの提供停止を義務付けることは、コンテンツの発信者の表現の自由の制約となる。本件で表現の自由が問題とならなかったのは、情プラ法3条1項が適用される場面では、同項の要件に、既に媒介者としての役割への配慮が織り込まれているからである。

これらの分析を前提に、関連政策への示唆を整理すると、以下のとおりである。

第1に、CDNプロバイダに情プラ法第5章を適用し、迅速化規律・透明化規律を及ぼすことは、合理的な選択肢である。そのような選択肢がある限り、「滑りやすい坂道」であり、通信サービスの信頼性を毀損する可能性の高いDNSブロッキングは、憲法上正当化されない。このことは、オンラインカジノとの関係でも同様である。

第2に、本人確認については、第三者への萎縮効果を考慮して、その要否と範囲の双方について、慎重な検討が必要である。

 

 

はじめに

KADOKAWA対Cloudflare判決は、インターネット上の権利侵害について、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)の責任を認めた我が国で最初の裁判例である。CDNは、後述のとおり、現代のインターネットにおいて重要な役割を担っており、本判決は、実務的にも理論的にも重要な意義を有する。

また、総務省においては、現在、オンラインカジノを巡って、ブロッキングの議論の「第3ラウンド」が行われている。DNSブロッキングは、そもそも有効性が疑わしい上、「滑りやすい坂道」であり、通信サービスの信頼性を毀損する可能性が高い。そうであればこそ、本判決の含意を正確に読み取り、ブロッキングとの関係を整理する必要がある。

本稿では、このような問題意識から、主として通信の秘密・表現の自由に焦点を当てて、本判決を分析する。具体的には、まず、事実の概要と判旨を紹介した上で、CDNとは何かと、本判決の構造を確認する。そして、本判決による情プラ法3条1項の解釈適用及び過失による幇助の認定の分析と、脅迫電報事件判決・DNSブロッキング、Google事件決定、Winny事件決定との比較を通じて、本判決が通信の秘密・表現の自由とどのようにして両立しているかを明らかにする。その上で、DNSブロッキングに対するLRAとしてのCDNプロバイダに対する規律の余地を検討する。

事実の概要

原告KADOKAWA、原告講談社、原告集英社及び原告小学館は、いずれも書籍出版事業を営む株式会社であり、各原告は、判決別紙著作物目録記載1~4の各漫画について、電磁的記録物を用いた公衆送信を含む出版権の設定を受けている。

海賊版サイトFの運営者(本件運営者)は、原告らの許諾を得ることなく、同サイトに対応するサーバ(本件オリジンサーバ)に本件各著作物の複製データ(本件コンテンツ)を記録し、そのURLを有する複数のウェブサイト(本件各ウェブサイト)を通じて、日本国内のエンドユーザを含む不特定多数の者がストリーミング方式で原作どおり本件各著作物を閲読できる状態に置いた。

本件各ウェブサイトは、合計4082タイトル・12万3631話のコンテンツ(本件各著作物を含む。)を、全てのエンドユーザに対して無料で配信していた。配信されていた本件各著作物の話数は、本件著作物1が46話、本件著作物2が141話、本件著作物3が1027話、本件著作物4が122話であった。コンテンツ名称欄には一律に「Raw-Free」との表示がされ、「Raw」は海賊版を意味するインターネット用語であると認められたほか、各ページには「(省略).com」との透かしが挿入されていた。これらを除き、サイトの言語は日本語であった。

被告Cloudflare, Inc.は、世界各地(東京・大阪を含む)に設置した自社サーバ(被告サーバ)を用いて、オリジンサーバに代わりコンテンツを配信するCDNサービス(被告サービス)を提供する米国法人である。本件運営者は遅くとも令和2年4月7日までに被告との間で本件各ウェブサイトにつき被告サービス利用契約を締結し、レジストラにおいて被告をネームサーバとして指定するなどの設定を行った結果、本件各ウェブサイトへのアクセスは、地理的に近接する被告サーバに向かうよう構成された。

本件各ウェブサイトのエンドユーザが本件コンテンツのページにアクセスすると、DNSの名前解決により被告サーバが窓口となり、被告サーバに当該コンテンツのキャッシュデータ(本件キャッシュデータ)が存在しない場合には、被告サーバが本件オリジンサーバに送信を要求し、オリジンサーバから送信された本件コンテンツを被告サーバがエンドユーザに送信するとともに、そのデータを記録媒体に自動的にキャッシュする(ホスト型配信)。本件キャッシュデータが記録されている場合には、被告サーバは当該キャッシュデータをエンドユーザに自動送信することにより配信を行い(キャッシュ型配信)、一定期間経過後にはキャッシュデータが自動削除され、再度ホスト型配信が行われる仕組みであった。

被告は、被告サービスの利用契約締結時の本人確認手続につき簡略な方法による運用を行っており、本件運営者との間で締結された本件利用契約の締結時も同様であった。

原告らは、各自が出版権を有する本件各著作物について、本件各ウェブサイトが無断配信を行っているとして、令和2年4月7日(小学館分)、同年12月7日(集英社分)、令和3年11月12日(KADOKAWA及び講談社分)に、DMCA第512条に基づく著作権侵害通知(本件通知)を代理人弁護士名義で被告の電子メールに送付したが、その後も本件各ウェブサイトにおいて本件各著作物の配信が継続した(なお、送付先電子メールアドレスがDMCA通知用のものであったか等は、判決文には明示されていない。)。その後、被告は令和3年2月2日に本件ウェブサイト1、令和4年3月10日に本件ウェブサイト2についてキャッシュサービス停止措置を実施し、さらに令和4年3月16日に本件ウェブサイト2、同月19日に本件ウェブサイト1について被告サービスの提供を終了した。

原告らは、被告が本件各ウェブサイトに対して被告サービスを提供し、被告サーバから本件コンテンツ又は本件キャッシュデータを日本国内のエンドユーザに自動公衆送信したことにより、各原告の出版権(公衆送信権)が侵害されたと主張し、主位的に被告を公衆送信の主体とする不法行為責任に基づき、予備的に本件運営者による出版権侵害の幇助者としての共同不法行為責任に基づき、各原告につき1億2650万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて訴えを提起した。

訴訟では、【争点1】日本の裁判所の国際裁判管轄の有無、【争点2-1】被告の公衆送信主体性、【争点2-2】特定電気通信役務提供者の責任制限規定の適用の有無、【争点2-3】出版権侵害の幇助の成否、【争点2-4】キャッシングに係る権利制限規定の適用の有無、【争点3】損害額が問題となった。

判旨

判決は、国際裁判管轄を認めた上で、被告の公衆送信主体性を否定しつつ、出版権侵害の幇助を認め、主張された損害額の大部分の賠償を命じた(請求一部認容)。以下、争点2-1から争点2-3に関する判示を引用する。

【争点2-1】被告の公衆送信主体性(消極)

「自動公衆送信が、装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると、その主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当である。そして、当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者が送信の主体であり、また、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している当該装置の公衆送信用記録媒体に情報が記録されている場合には、当該記録媒体に情報を記録する者が送信の主体であるものと解される」。

「…被告サーバはインターネットに接続されることにより、本件エンドユーザの求めに応じ、被告サーバに入力された情報(ホスト型配信における本件コンテンツ)及び被告サーバの記録媒体に記録された情報(キャッシュ型配信における本件キャッシュデータ)を自動的に送信しているといえる。/送信の主体が被告であるとしても本件運営者であるとしても、送信の相手方である本件エンドユーザが公衆に当たることは明らかであるから、被告サーバを用いて行われる自動送信は、公衆によって直接受信されることを目的とするものであり、被告サーバは自動公衆送信装置に当たる(著作権法2条1項9号の5)。そうすると、ホスト型配信においては被告サーバへの入力をする者、キャッシュ型配信においては被告サーバの記録媒体に記録をする者が、自動公衆送信の主体である。/そこで、まず、ホスト型配信における被告サーバから本件エンドユーザへの送信について検討するに、…ホスト型配信における被告サーバへの本件コンテンツの入力は、本件エンドユーザからの求めに応じ、本件オリジンサーバから被告サーバに本件コンテンツが自動送信されることにより行われている。そして、…このような自動送信は、本件運営者が、自ら本件コンテンツを本件オリジンサーバに記録し、被告サービスを利用するための設定をすることにより可能になったものといえるから、被告サーバへの入力をする者は本件運営者であるというべきである。/次に、キャッシュ型配信について、…キャッシュ型配信において送信される本件キャッシュデータは、ホスト型配信の際に被告サーバに入力された本件コンテンツが、被告サーバの記録媒体に自動的に記録(キャッシュ)されたものである。…ホスト型配信において被告サーバに本件コンテンツを入力する者は本件運営者であるといえること、上記の記録(キャッシュ)は、被告サーバのキャッシュ機能によって自動的にされるものであることに照らせば、被告サーバの記録媒体に本件キャッシュデータを記録する者も本件運営者であるというべきである。/以上によれば、ホスト型配信及びキャッシュ型配信における自動公衆送信の主体は被告ではなく本件運営者であったといえる。」。したがって、被告による出版権侵害は認められない。

【争点2-2】特定電気通信役務提供者の責任制限の適用の有無(消極)

情プラ法3条1項2号の要件について、「…本件通知の内容からすれば、本件通知により、①日本の弁護士が通知人であり、通知人が原告らを代理し、原告らが本件各著作物の著作者を代理していること、②本件各著作物が著作権者及び原告らの許諾なく違法に本件各ウェブサイトにおいて掲載されているとして著作権侵害を通知するものであることを理解することができる。/また、電子メールによる本件通知には、本件各ウェブサイト上の本件コンテンツのページのURLも記載されていたのであるから、当該ページにアクセスすれば、本件コンテンツのタイトル欄に無料の海賊版であることを示す「Raw-Free」という記載があり、各頁に本件各ウェブサイトのドメイン名の透かしが挿入されていることを、さらに、同ページを起点とすれば、本件各ウェブサイトにおいて、本件コンテンツを含む多数(4000タイトル以上)のコンテンツが全て無料で配信され、全てのコンテンツについて「Raw-Free」の記載やドメイン名の透かしが挿入されていることを読み取ることができたといえる…。/そして、通常、これほど多数のタイトルの漫画の複製データが全てのエンドユーザに対して無料で配信されることは考え難いから、上記記載や透かしと相まって、本件各ウェブサイトがいわゆる海賊版サイトであることは一見して明らかであったといえる。/以上によれば、被告は、通常の注意を払っていれば、被告サービスを利用する本件各ウェブサイトにおける本件コンテンツの配信により、本件各著作物に係る他人の著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができたと客観的に考えられるから、「当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった」」といえ、同号の要件を満たす。

情プラ法3条1項柱書の要件について、「同項所定の送信防止措置とは、特定電気通信による情報の流通による権利の侵害を防止するために必要な限度において、関係役務提供者が当該措置を講ずることが技術的に可能なものを指す」。「まず、被告サービスの提供を停止すれば、本件コンテンツ(4タイトル)のみならず、本件各ウェブサイト上の他の4000タイトル以上のコンテンツについても、被告サービスを通じた配信が停止される。しかし、…海賊版サイトである本件各ウェブサイトにおいて、本件コンテンツ以外のコンテンツについて、権利者の許諾を得ていたとは通常考えられないところ、海賊版サイトでは、多くのコンテンツが配信されていることにより、より多くのアクセスを集め、その結果、各コンテンツを単体で配信するよりもアクセス数が増加するという関係にあるものといえる。そうすると、本件コンテンツ以外のコンテンツの配信は本件コンテンツの配信による出版権の侵害を助長するものであり、それらのコンテンツについて被告サービスを通じた配信を停止することになったとしても、まったく無関係な情報の配信を停止するものとまではいえない。/また、被告サービスの提供が停止されれば、本件各ウェブサイトからの被告サービスを通じた情報の送信は、その内容を問わず、将来にわたってできなくなる。しかし、本件運営者は、本件各ウェブサイトについて、引き続き、本件オリジンサーバからコンテンツの配信をすることは妨げられない…から、本件運営者の表現の自由を不当に制限するものであるとはいえない。以上によれば、被告サービスの提供の停止は、ホスト型配信及びキャッシュ型配信による原告らの出版権の侵害を防止するために必要な限度の措置であったというべきであり、「技術的に可能」(同項柱書)といえる。」。したがって、被告の出版権侵害の幇助による損害賠償責任について、責任制限規定の適用はない。

【争点2-3】出版権侵害の幇助の成否(積極)

幇助の事実について、「…被告サービスにより、本件運営者は多数の分散配置された被告サーバから本件キャッシュデータを送信することが可能となったといえるところ、本件各ウェブサイトのアクセス数は最大で月間合計3億回を超え…、これに対するキャッシュヒット率は95~99パーセントであった…のであるから、被告サービスの利用による本件オリジンサーバの負荷の分散の程度は大きく、本件運営者は、被告サービスにより、多くの配信を効率的に行うことができたものといえる。/そして、被告は、被告サービスの利用契約を締結する際の本人確認手続を簡略化する方針を採用していたところ…本件情報開示命令に対する開示結果に照らせば、本件利用契約に際して何らの本人確認手続が行われなかったものと推認され、これを覆す的確な証拠は見当たらない。そうすると、本件運営者は、オリジンサーバのIPアドレスが明らかにならないというリバースプロキシが一般に備える匿名性に加え、本件利用契約に関する法的な開示手続がされたとしても権利行使を受けるおそれがないという強度な匿名性が確保された状況下で、上記のような効率的な配信をすることができたものといえる。/以上によれば、被告は、本件各ウェブサイトについて被告サービスを提供することにより、本件運営者による原告らの出版権の侵害を容易にしたということができ、これは、本件運営者による原告らの出版権の侵害の幇助行為に当たるといえる。」

過失について、「被告は、本件通知により、本件各著作物に係る著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができ、…被告は、被告サービスの提供を停止することによって、原告らの出版権の侵害を回避することが可能であったといえる。/そして、本件通知の受領から被告サービスの提供を停止するまでに必要な期間については、本件通知の受領後、その内容を確認して権利の侵害を判断し内部的な手続をするために必要な期間を考慮し、1か月と認めるのが相当である。/以上に照らせば、被告は、本件通知の受領から1か月を経過した時点(以下「本件時点」という。)で、被告サービスの提供を停止することができたと認められるから、同時点で被告サービスの提供を停止する義務を負うところ、これを怠ったものといえる。」したがって、被告の出版権侵害の過失による幇助が認められる。

解説

CDNとは何か*1

CDNは、エンドユーザーの近くでコンテンツをキャッシュする地理的に分散したサーバ群である。ユーザー(=コンテンツの発信者)は、自らWebサーバを設置するか、ホスティングサービスプロバイダが提供するWebサーバを利用してコンテンツをインターネット上に公開するが(これらのサーバはオリジンサーバと呼ばれる。)、地理的に遠くにいるエンドユーザー(=コンテンツの受信者)がアクセスする場合、伝送に起因する遅延が生じる。また、アクセスが集中した場合、オリジンサーバとその周辺のネットワークの処理能力に起因する遅延が生じたり、応答不能となることがある(逆に、それに耐えるようにしようとすれば、広い帯域の回線が必要になる。)。CDNを使うことで、大半のアクセスに対してはキャッシュサーバのみが応答し、キャッシュサーバにキャッシュが存在しない場合やキャッシュの有効期限が切れた場合にのみ、キャッシュサーバからオリジンサーバへのアクセスが発生するようになるため、ロード時間が短縮され、可用性が向上する。なお、CDNのキャッシュサーバを含め、あるサーバに代わって他のサーバが応答することや、そのようなサーバを、リバースプロキシと呼ぶ。

通常、我々がWebサイトにアクセスする場合、我々は、ドメイン名を入力し、DNSサーバに名前解決を要求し、DNSサーバが応答したIPアドレスにアクセスすることで、当該Webサイトに係るリソースを取得する。CDNを使用する場合、オリジンサーバとキャッシュサーバには、当然ながら異なるIPアドレスが割り当てられるが、CDNプロバイダにDNSの機能の一部を委譲する(Akamai等の場合)か、CDNプロバイダが提供するDNSを使用し(Cloudflareの場合)、CDNプロバイダが名前解決要求に対し最適なキャッシュサーバのIPアドレスを応答することで、エンドユーザーは、キャッシュサーバにアクセスするよう誘導される。

このことは、ユーザーからは、オリジンサーバのIPアドレスが隠蔽されることを意味する。すなわち、海賊版サイトによって権利を侵害された者は、キャッシュサーバのIPアドレスしか観測できないが、当該IPアドレスを管理しているISPに照会しても、CDNプロバイダが契約者であることしか分からない。CDNプロバイダに対しては、契約者情報やオリジンサーバのIPアドレスの開示を要求することが考えられるが、これらによってコンテンツの発信者の身元を特定できるかは、CDNプロバイダや(オリジンサーバに係る)ホスティングサービスプロバイダが本人確認を実施しているか等に依存する。

なお、このことは、必ずしもCDN固有の問題ではない。オリジンサーバ(ホスティングサーバ)のみを使う場合でも、ホスティングサービスプロバイダが適切に本人確認を実施していなければ、発信者の身元を特定することはできない(ISP経由での身元特定の余地はある。)。しかしながら、漫画の海賊版サイトのように大量のトラフィックを処理する必要がある場合、単なるホスティングサービスだけでは足りず、CDNが不可欠である。

法的背景と本判決の構造*2

出版権は、著作権の支分権である複製権(著作権法21条)又は公衆送信権(同法23条1項)の保有者(「複製権等保有者」と総称される。)が出版又は公衆送信(≒オンラインパブリッシング)を引き受ける者に設定することができる、制限物権的な権利である(同法79条1項)。出版権者は、設定行為で定めるところにより、著作物について、原作のまま公衆送信を行う権利の全部又は一部を専有する(同法80条1項2号)。出版権が侵害されたときは、出版権者は、侵害者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)及び差止請求をすることができる(著作権法112条1項)。本件は、出版社が出版権侵害を主張し、損害賠償を請求した事案である。

本件で、原告は、損害賠償請求の根拠として、①被告(Cloudflare)自らが公衆送信を行ったという主張と、②公衆送信を行ったのは海賊版サイトの運営者だが、被告はこれを幇助したという主張の2つを行った。幇助とは、他人の不法行為を容易にすることであるが、その効果は、当該他人と連帯して損害賠償債務を負うことであり(民法719条1項)、少なくとも本件のような事案では、①との間で認められる賠償額に変わりはない。裁判所は、①について、まねきTV事件判決*3を引用してこれを否定し*4(争点2-1)、②について、CDNによる負荷分散の度合いと本人確認のプロセスの欠如に基づいて幇助の事実を認め、DMCA通知に基づいて過失を認めた(争点2-3)。

もっとも、本件では、キャッシング(caching)という行為態様に起因して、被告は、①情プラ法(旧プロ責法)上の関係役務提供者の損害賠償責任の制限(情プラ法3条1項)、②著作権法上の電子計算機における著作物の利用に付随する利用に係る権利制限(著作権法47条の4第1項)という、2つの特別な主張をなし得た。裁判所は、①について、DMCA通知とそこにURLが記載されたサイトの外観から、免責の要件を満たさないとし(争点2-2)、②について、キャッシュされたデータの自動公衆送信が権利制限の対象となるのは、それが記録に際して行われる場合に限られるが、CDNによるコンテンツ配信はそれを満たさない*5として(争点2-4)、いずれも否定した。

以上のとおり、裁判所は、出版権侵害の過失による幇助を認め、ライセンス料相当額による損害額算定規定(著作権法114条3項)に基づき算定される損害額の賠償を被告に命じた。

情プラ法3条1項の解釈・適用及び過失による幇助の認定と通信の秘密・表現の自由

判決の読解

情プラ法3条1項柱書及び2号は、「①特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、②当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(…関係役務提供者…)は、これによって生じた損害については、③権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。…」「二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。」とされている。本件では、柱書の「技術的に可能」要件と、2号の要件が問題となった。

裁判所は、2号の要件に関して、DMCA通知の内容が、弁護士が著作者を代理して著作権侵害を通知するものであったこと、コンテンツのページのURLが記載されており、当該ページにアクセスすれば海賊版サイトであることは一見して明らかであったことから、「相当の理由」があったと認めた。柱書の要件に関しては、従来、「関係役務提供者に期待される措置は、あくまで権利の侵害を防止するために必要な限度にとどまる」、「例えば、問題とされる情報の送信を防止するためには他の関係ない大量の情報の送信を停止しなければならないような場合や、インターネットへの接続自体をさせない等、当該情報の発信者の情報発信のすべてを停止するしかない場合には、関係役務提供者がその措置を講ずることが「技術的に可能」とは言えない」と解されてきたが*6、裁判所は、これを踏襲しつつ、本件では、ドメイン全体のキャッシングを止めることになるとしても*7、CDNの提供停止は「技術的に可能」な措置に当たるとした。このような判断方法は、情プラ法3条1項の解釈に照らして不合理なものではないと思われる。

また、裁判所は、過失による出版権侵害の幇助に関して、①(a)95%以上のキャッシュヒット率から推認される負荷分散の度合いと、(b)本人確認(身元確認)プロセスの欠如による匿名性を理由に、幇助の事実(すなわち、被告が出版権侵害を容易にしたこと)を認めた上で、②DMCA通知から1か月が経過した時点で、CDNサービスの提供を停止することで出版権侵害を回避できたとして、幇助に係る過失を認めている。この点についても、(読み方には注意する必要があるにせよ)不合理なところはないと考えられる。

以下、通信の秘密*8及び表現の自由との関係について、関連する3つの判例との関係を検討する。

脅迫電報事件判決・DNSブロッキングからの検討

脅迫電報事件判決*9は、闇金業者から脅迫電報を受けた債務者が、NTT東西に対し、当該電報を受け付け、配送したことが不法行為に当たるとして慰謝料を請求した事案において、「原告が作為義務の内容としている被告らの行為は、要するに、被告らが受付ないし配達を行おうとする電報の電文が脅迫を内容とすることを覚知した場合に、当該電報の受付ないし配達を差し止めるべきとするものであるが、仮にそのような作為義務を認めるとすれば、被告らがそのような行為を行うためには、被告らの取り扱う電報全てにつき、事前にその内容を個別的に審査せざるを得ないことになる」、「電気通信事業者ないしその従業者が電気通信役務を提供するに際し、その取扱いの過程において通信内容を事実上覚知することがあり得るとしても、その通信に係る情報の内容面については全く関知せず、受信者にそのまま伝達することが当然に求められている」、「原告らの主張するような作為義務を電気通信事業者である被告らに課するとすれば、被告らとしては、…取り扱う全ての電報についてその内容を個別的に把握し、審査しなければならないことになるところ、このことによる社会的な悪影響は極めて重大であり、ひいては電報、葉書といった社会的に有用な通信手段の存立を危うくする」などとして、NTT東西の注意義務を否定した。これらのことは、基本的にDNSブロッキングにも当てはまると考えられる*10

DNSブロッキングと比較すると、CDNの提供停止には、いくつかの重要な違いがある。

まず、事実関係として、DNSブロッキングにおいては、コンテンツの受信者とISPの契約関係は継続し、当該契約に基づくサービスの提供に際してブロッキングが行われ、このことが、通信の秘密の侵害(知得・窃用)に当たるとされる*11。一方、CDNの提供停止においては、コンテンツの発信者とCDNの契約関係は解消され、サービスの提供が終了する。これまでのところ、通信の秘密は、通信サービスの提供それ自体を求める権利を含むとは(憲法上も電気通信事業法*12上も)考えられていない。このような事実関係の違いは、DNSブロッキングは、受信者側のサービス提供者(ISP)が実施するのに対して、CDNの提供停止は、発信者側のサービス提供者が実施するという違いに起因するものといえる。

もちろん、サービス提供の停止それ自体が通信の秘密の侵害とならないとしても、サービス提供を停止すべきコンテンツをキャッシングしていないか体系的に監視することは、通信の秘密を侵害するか、少なくとも自由な表現を損なうことになる。例えば、CDNは、「正規版」のコンテンツ配信サイトの運営にとっても不可欠な存在であるが、CDNプロバイダがコンテンツの体系的な監視に基づいて「ブロッキング」を実施したり、ブロッキングを実施する能力を背景にコンテンツの取り下げを求めるようになるとすれば、決済において既に生じている*13のと同様の大きな問題が生じる。しかしながら、本判決が設定した注意義務は、実質的には、権利者からの個別の通知に誠実に対応すべきというものであり、そのような体系的監視を求めるものではない。情プラ法3条1項は、米国の通信品位法、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)、EUの電子商取引指令などと同様に、まさしくそのような体系的監視を回避しつつ、個別の権利侵害に対応するインセンティブは損なわないようにするという思想の下で規定されたものであり*14、通信の秘密や表現の自由への配慮は、同項が定める具体的な要件に織り込み済みであるといえる。したがって、同項の要件を満たす以上、通信の秘密や表現の自由との関係は問題とならないと考えられる。

Google事件決定からの検討

Google事件決定*15は、逮捕されその事実を報道された者が、Googleに対し、検索エンジンの検索結果からの関係記事のURL等の削除を求めた事案において、「検索事業者による検索結果の提供は、公衆が、インターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たして」おり、「検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する(注:検索事業者自身の)表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる」として、「検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、…当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」とし、当該事案において、削除を否定した。

Google事件決定では、検索エンジンの「情報流通の基盤」としての役割が、「明らか」要件を導いている*16。別の言い方をすれば、検索エンジンが多くの人々の情報発信や情報摂取*17に貢献しているという事実が、「天秤」をデフォルトで検索エンジン側に傾けている*18。CDNは、現代のインターネットにおいて極めて重要な役割を担っており*19、検索エンジンと同様の「情報流通の基盤」と言って差し支えないと思われる。

もっとも、このことが、直ちにCDNの責任を緩和すべき(例えば、情プラ法3条1項の要件を緩和すべき)ことを意味するわけではない。この点について議論の蓄積は乏しいが、法体系に即して考えると、情プラ法第2章及び第3章は、コンテンツの媒介者(法律上は特定電気通信役務提供者)を対象としているが、検索エンジンにおける検索結果は、検索事業者自身が発信するコンテンツであり*20、Google事件決定は、このことを前提に、媒介者に類似する側面を考慮して*21、「明らか」要件を課したものと言える。これに対し、CDNの提供者は、まさしく媒介者であり、媒介者としての側面は、情プラ法3条1項の立法に当たって考慮済みである。同項は、典型的には個別のホスティングサービスにも適用されるものであり、CDNの重要な役割を考慮していないようにも思われるが、同項は、CDNと比べても中立的な媒介者としての側面がより強いと思われるISPにも同様に適用されるものであり(その結果、CDNと異なり、ISPに責任が認められる可能性はほぼなくなる。)、CDNを特別扱いしないことも必ずしも不合理ではない(言い換えれば、立法に当たって考慮済みであると考えてよい)と思われる。

Winny事件決定からの検討

Winny事件決定*22は、「Winny」が海賊版コンテンツの共有に使われ、その開発者が著作権侵害罪の幇助(故意が必要である。)で起訴された事案において、「新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る一方で、その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば、かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも、単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり、それを提供者において認識、認容しつつ当該ソフトの公開、提供をし、それを用いて著作権侵害が行われたというだけで、直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない」として、「かかるソフトの提供行為について、幇助犯が成立するためには、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、また、そのことを提供者においても認識、認容していることを要する」、「①(a)ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合や、(b)当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、②実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たる」とし、当該事案において、幇助犯の成立を否定した。

Winny事件決定では、Winnyがいわゆる中立的な道具であることが、故意(=認識・認容)の内容として、上記①(a)(b)のとおり具体的なものを要求する解釈を導いている。CDNも中立的な道具であり、同様な解釈が必要ではないかとも思われるが、私見を述べれば、このことも、情プラ法3条1項に織り込み済みであると思われる。Winny事件決定は、相当に具体的な認識・認容を要求しているのに対し、情プラ法3条1項(2号)は「相当の理由」で足りるとしており、情プラ法のほうがCDNプロバイダに不利にも見えるが、これは、Winny事件では、ソフトウェアの公開が問題となっており、その提供に当たってユーザーを選択したり、後から提供を停止することはできなかったのに対し、CDNではサービス(特定電気通信役務)の提供が問題となっており、その提供に当たってユーザーを選択したり、後から提供を停止することができた、という事案の違いに基づくものであり、不合理なものではないと考えられる。

小括

以上のとおり、本判決は、(基本的には)通信の秘密や表現の自由に直接には言及していないが、情プラ法3条1項という枠組みや、注意義務の設定を通じて、これらの権利・自由への配慮を織り込んでいると言える。本判決を他の事件に応用したり、政策立案において参照するに当たっては、このような背景に十分留意する必要があると思われる。

なお、判決が出版権幇助を認定するに当たって、本人確認プロセスの欠如を考慮しているが、このことは、CDNによる負荷分散それ自体が違法とは言えないのと同様に、本人確認を行わなかったこと自体を違法とするものではないと解される。被告は、適法なコンテンツの発信者に対しても、本人確認なしにCDNによる負荷分散を可能にしていたのであり、違法性を基礎づけているのは、あくまで通知に誠実に対応しなかったことである。

関連政策への含意―DNSブロッキングのLRAとしてのCDN「ブロッキング」

海賊版ブロッキングを巡っては、2019年、政府が法律に基づかないDNSブロッキングを慫慂し、通信事業者が実質的に敗訴する事態が生じた*23。また、現在、オンラインカジノに係るアクセス抑止のあり方が検討されており、DNSブロッキングやCDNの提供停止も選択肢とされている*24。後者に係る検討会の中間整理(2025年9月)では、ブロッキングについて、有効性(手段が目的を促進するか*25)、必要性(より権利制限的でない他の手段(LRA)が存在しないか)、許容性(狭義の比例性)、実施根拠(立法の必要性)、妥当性(制度的枠組み)が論点とされている。

LRAに関して、(エンド)ユーザーへの影響度は、これまで述べたDNSブロッキングやCDNの仕組みに照らすと、大まかに言えば、DNSブロッキング>CDNプロバイダへのコンテンツの監視の義務付け>CDNプロバイダの通知への対応の義務付け(通知に適切に対応するための体制整備義務)であり、これらとは別次元の問題として、CDNにユーザーの本人確認義務を課すかどうかという問題があると思われる。このため、IP通信というより低い(つまり、基層的な)レイヤーに働きかけるものであり、そのため「滑りやすい坂道」であり、長年にわたり築かれてきた通信サービスの信頼性を毀損する可能性の高いDNSブロッキングに踏み込む前に、決済サービス(オンラインカジノの場合。既に令和7年資金決済法改正が行われたところである。)やインターネット広告(海賊版サイトの場合)*26と合わせて、まずはCDNプロバイダへの働きかけを検討する必要があると思われる。

CDNへの働きかけとして、最も端的なのは、まずは、情プラ法施行規則8条6項を改正した上で、情プラ法第5章の大規模特定電気通信役務提供者として指定することだと思われる。すなわち、CDNプロバイダはコンテンツの媒介者であり、現状においても、権利侵害通知に適切に対応することが期待されている。コンテンツの媒介者に対する規律としては、もともと、私法上のセーブハーバールールとしてのプロ責法3条のみが置かれてきたが、テラスハウス事件を契機として*27、令和6年プロ責法改正が行われた。具体的には、同改正においては、①大規模SNS・掲示板の提供者を総務大臣が「大規模特定電気通信役務提供者」(以下「指定役務提供者」と略称する。)として指定し(同法21条)、②指定役務提供者に、(a)権利者からの通知(法律上は被侵害者からの申出)を受け付ける方法の公表(同法22条)、(b)当該方法により通知を受けた場合の調査の実施(同法23条)*28、(c)調査専門員の選任(同法24条)、(d)7日以内の権利者に対する通知(同法25条、情プラ法施行規則16条)、(e)投稿の削除等(法律上は送信防止措置の実施)の基準の公表とそれによらない削除等の禁止(同法26条)、(f)削除等を行った場合の発信者に対する通知(同法27条)、(g)削除等の実施状況等(いわゆる透明性レポート)の公表(同法28条)を義務付け((a)-(d)が迅速化規律、(e)-(g)が透明化規律と呼ばれる。)、③総務大臣に行政的な監督権限を付与することとされた(裏を返せば、体制整備義務ないし手続的な行為規制というアプローチを通じて、総務大臣の介入を構造的・手続的なものに限定し、個別のコンテンツの削除は裁判所のみが命令できることとする配慮が行われた。)。情プラ法施行規則8条6項は、指定役務提供者の指定要件として、「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたもの」であることを定めており、それ自体は、誹謗中傷対策という令和6年プロ責法改正の本来の文脈に即したものであるが*29、基本的な指定要件である「情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性」(情プラ法21条1項柱書)や、情プラ法施行規則8条6項の委任の趣旨である「その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれ」(同法21条1項3号)(当該権利には当然知的財産権も含まれる。)の観点からは、CDNをカテゴリカルに除外する理由はなく、具体的な義務規定に照らしても、指定は一定の効果があると思われる(実際、EUのデジタルサービス法の「通知と対応」メカニズムは、CDNにも当然に適用される*30。同法前文28項、29項、16条、17条参照。)。なお、この場合、大規模SNS・掲示板と大規模CDNでは、「大規模」性を測定するために適切な指標は異なると思われることには留意する必要がある。

現行の迅速化規律は、専ら権利侵害情報を対象としているが*31、現在、法令違反情報の通知についても、迅速化規律に相当する規律を設けることが検討されている*32。仮にそのような規律を設けることとなった場合、オンラインカジノのような必ずしも権利侵害を伴わない違法サイトについても、サイト全体が違法コンテンツである限り、CDNプロバイダを通じたアクセス抑止が可能になると思われる。

一方、本人確認については、第三者への萎縮効果を考慮すると、慎重に検討する必要があり*33、仮に導入する場合でも、料金やトラフィック量によって対象を合理的な範囲に限定できないかも検討する必要があろう。例えば、(サブ)ドメインを単位として、明らかに商業ベースのもののみを対象とすることでも実効性が確保できるのであれば、萎縮効果を最小限に抑えることができる可能性がある。

まとめ

本稿で行った本判決の分析を整理すると、以下のとおりである。

第1に、本判決は、①95%以上のキャッシュヒット率、②本人確認プロセスの欠如、③DMCA通知を考慮して、情プラ法2条1項による免責を認めず、かつ過失による出版権侵害の幇助を認めた。①②は適法なコンテンツにおいても同様であることからすれば、決定的なのは③である。このように「中立的な道具」の提供者の責任が主観により左右される状況は、Winny事件決定に類似する。

第2に、CDNは他人の通信を媒介する電気通信役務であると解されているが、権利侵害通知への対応を義務付けることは、通信の秘密を侵害しない。本判決が注意義務を設定する上で通信の秘密に言及していないのは、単にそれが問題とならない場面だからである。

第3に、不法行為法上の過失(注意義務)という形であれ、CDNプロバイダにサービスの提供停止を義務付けることは、コンテンツの発信者の表現の自由の制約となる。本件で表現の自由が問題とならなかったのは、情プラ法3条1項が適用される場面では、同項の要件に、既に媒介者としての役割への配慮が織り込まれているからである。

これらの分析を前提に、関連政策への示唆を整理すると、以下のとおりである。

第1に、CDNプロバイダに情プラ法第5章を適用し、迅速化規律・透明化規律を及ぼすことは、合理的な選択肢である。そのような選択肢がある限り、「滑りやすい坂道」であり、通信サービスの信頼性を毀損する可能性の高いDNSブロッキングは、憲法上正当化されない。このことは、オンラインカジノとの関係でも同様である。

第2に、本人確認については、第三者への萎縮効果を考慮して、その要否と範囲の双方について、慎重な検討が必要である。

*1:Cloudflare, What is a content delivery network (CDN)?, https://www.cloudflare.com/learning/cdn/what-is-a-cdn/

*2:本件類似の仮想事例を検討したものとして、丸橋透「プロバイダ責任制限法」ジュリスト1573号78頁(2022)。

*3:最判平成23年1月18日民集65巻1号121頁。

*4:本判決が、規範的侵害主体論をこのように簡単に排斥したことの評価は分かれうる(東京高判平成17年3月3日判時1893号126頁(罪に濡れたふたり事件)、知財高判平成24年2月14日判時2161号86頁(Chupa Chups事件)参照)。

*5:本判決は、争点2-4に関し、①フォワードプロキシによるキャッシングは著作権法47条の4第1項2号、リバースプロキシによるキャッシングは同項柱書の問題とした上で、②いずれにおいても、自動公衆送信が権利制限の対象となるのは、それが「記録に際して」行われる場合に限られるとし(松田政行編『著作権法コンメンタール 別冊 平成30年・令和2年改正解説』48頁(勁草書房、2022)〔澤田将史〕参照)、③CDNにおいては、「記録に際して」公衆送信が行われるのではないとして、同項の適用を否定した。しかしながら、仮に規範的侵害主体論が認められるのでない限り、そもそも被告の行為に出版権の権利制限規定である47条の4第1項を適用する余地はないのではないか。

*6:総務省総合通信基盤局消費者行政第二課「プロバイダ責任制限法逐条解説」(2023年3月)14頁。「技術的に可能」というと、比較衡量を許さない趣旨にも見えるが、むしろ逆である。

*7:出版権は著作物ごとに設定されるものであり、同一ドメインに他者の出版権を侵害するコンテンツが存在するとしても、そのことが原告との関係で違法となるわけではないことに留意すべきである。

*8:通信の秘密に関する基本的文献としては、以下がある。概説書として、曽我部真裕ほか『情報法概説〔第2版〕』(弘文堂、2019)の3章2節(曽我部真裕)、小向太郎『情報法入門〔第7版〕』(NTT出版、2025)の3-1節。電気通信事業法上の通信の秘密について、多賀谷一照監修・電気通信事業法研究会編著『電気通信事業法逐条解説〔再訂増補版〕』74頁以下(情報通信振興会、2024)、鎮目征樹ほか編『情報刑法Ⅰ―サイバーセキュリティ関連犯罪』(弘文堂、2022)の5章(西貝吉晃)。論文として、宍戸常寿「通信の秘密について」企業と法創造9巻3号14頁(2013)、宍戸常寿「通信の秘密に関する覚書」高橋和之先生古稀記念487頁(有斐閣、2013)、曽我部真裕「通信の秘密の憲法解釈論」Nextcom 16号14頁(2013)、曽我部真裕「通信の秘密」法学セミナー786号(2020)、神足祐太郎「通信の秘密をめぐる議論の諸相」レファレンス834号43頁(2020)。

*9:大阪地判平成16年7月7日判例時報1882号87頁。

*10:安心ネットづくり促進協議会児童ポルノ対策作業部会法的問題検討サブワーキング「法的問題検討サブワーキング報告書」(2010年3月30日公開)4頁、オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会 中間論点整理」(2025年9月)(「オンカジ中間整理」)3頁、14頁。

*11:安心ネットづくり促進協議会児童ポルノ対策作業部会法的問題検討サブワーキング・前掲注(10)4頁。

*12:CDNは、他人の通信を媒介する電気通信事業であるとされている( 総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」(2023年1月30日最終改訂)20頁)。ただし、このことが直ちにCDNプロバイダがISP類似の機能を果たしていることを意味するわけではないことについて、石田慶樹ほか「インターネットにおけるCDNの役割に関する考察」情報法制レポート2号41頁(2021)。

*13:例えば、落合早苗「「金融検閲」から生まれつつある「言葉狩り」」コピライト770号1頁(2025)。

*14:媒介者責任全般に関して、神足祐太郎「諸外国におけるインターネット媒介者の「責任」」レファレンス839号131頁(2020)、丸橋透「媒介者の責任―責任制限法制の変容」ジュリスト1554号(2021)。

*15:最決平成29年1月31日民集71巻1号63頁。

*16:比較衡量テスト自体は、逆転事件(最判平成6年2月8日民集48巻2号149頁)、長良川事件(最判平成15年3月14日民集57巻3号229頁)を通じて形成されてきたものである。

*17:最大判昭和56年4月14日民集35巻3号620頁。

*18:博多駅事件決定(最大決昭和44年11月26日刑集23巻11号1146頁)との関係を含め、曽我部真裕「「インターネット上の情報流通の基盤」としての検索サービス」論究ジュリスト25号47頁(2018)参照。タトゥー医師法違反事件(最判令和2年9月16日刑集74巻7号805頁)における草野補足意見も参照。

*19:石田ほか・前掲注(12)42頁。

*20:したがって、仮に検索事業者に(差止めではなく)損害賠償を請求した場合、情プラ法3条1項ただし書きに該当し、同項の責任制限は適用されないと考えられる。その上で、不法行為法上、検索事業者にどのような注意義務が課されるのか(例えば、民法709条の解釈として、情プラ法3条1項が適用される場合と同等の水準まで緩和された注意義務が課されるのか)は、別途問題となりうる。

*21:成原慧「検索エンジンをめぐる表現の自由と人格権―平成29年最高裁決定及び同決定以降の検索結果削除に関する裁判例の検討」情報法制研究7号50頁(2020)。

*22:最決平成23年12月19日刑集65巻9号1380頁。

*23:東京高判令和元年10月30日公刊物未登載(令元(ネ)2753 号)(オンカジ中間整理25頁注19に引用されている。)。成原慧「海賊版サイトのブロッキングをめぐる法的問題」法学教室453号45頁(2018)、曽我部真裕「2018年情報通信法制タスクフォース 著作権侵害サイトのブロッキングに対する意見表明」情報法制レポート1号118頁(2021)も参照。

*24:オンカジ中間整理。

*25:オンカジ中間整理18頁〜20頁において、iCloudプライベートリレーに言及があるが、プライベートリレーは、AppleとCloudflareを含むCDNプロバイダの連携によって構築されている。すなわち、ユーザー→Apple管理下の入口プロキシ(Ingress Proxy)→CDNプロバイダ管理下の出口プロキシ(Egress Proxy)→接続先サーバ、という順でリレーし、AppleとCDNプロバイダの間で情報を遮断することで、Appleに対しては接続先サーバが隠蔽され、CDNプロバイダに対してはユーザーが隠蔽される(言い換えれば、通常のVPNサーバを入口サーバと出口サーバに分離することで、VPNプロバイダによる検閲を不可能にしているといえる。)。名前解決には、CDNプロバイダのDNSサーバが使用される(したがって、ISPのDNSブロッキングが回避される。)。本稿執筆時点で、プライベートリレーは、iCloud+(オンラインストレージ、プライベートリレーなどからなり、月額150円からである。)に加入している全てのユーザーが利用でき、設定も極めて容易である。Apple, iCloudプライベートリレーについて, https://support.apple.com/ja-jp/102602; Cloudflare, iCloud Private Relay: information for Cloudflare customers, https://blog.cloudflare.com/icloud-private-relay/.

*26:デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ 中間取りまとめ」(2025年9月17日)。

*27:なお、テラスハウス事件は、第一義的には、放送事業者の「システミックリスク」ないしガバナンスの問題である。

*28:調査義務が課されるのは、「被侵害者から前条第一項の方法(注:指定役務提供者が定め、公表した方法)に従って侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出があったとき」に限られる。通知の窓口の一本化は、実務上重要である。

*29:なお、情プラ法施行規則8条6項は、「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものであって前号の特定電気通信役務に専ら付随的に提供されるもの」(同項2号)を規制対象から除外している。例えば、ヤフーコメント(ヤフーニュースのコメント欄)が該当すると考えられる。

*30:Cloudflare自身の対応として、Cloudflare, All you need to know about the Digital Services Act, https://blog.cloudflare.com/digital-services-act/; Cloudflare’s 2024 Transparency Reports - now live with new data and a new format, https://blog.cloudflare.com/cloudflare-2024-transparency-reports-now-live-with-new-data-and-a-new-format/; EU Digital Services Act, https://www.cloudflare.com/ja-jp/eu-digital-services/.

*31:総務省「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン」(令和7年9月25日最終改訂)のうち法令違反情報に関する部分は、迅速化規律とは関係がない。

*32:デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ 中間取りまとめ」(2025年9月17日)。

*33:デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ・前掲注(31)67頁〜68頁。