ログ保存WGにおける電通個情GL解説改正案について

ログ保存WGにおける電通個情GL解説改正案について書いていきます。

 

解説改正案の概要

  • GL38条1項は、以下のように述べている。
    • 「電気通信事業者は、通信履歴(利用者が電気通信を利用した日時、当該電気通信の相手方その他の利用者の電気通信に係る情報であって当該電気通信の内容以外のものをいう。以下同じ。)については、課金、料金請求、苦情対応、不正利用の防止その他の業務の遂行上必要な場合に限り、記録することができる。」
  • 解説は、同項について、以下のように述べている。
    • 「通信履歴は、通信の構成要素であり、通信の秘密として保護され、これを記録することも通信の秘密の侵害に該当し得る。しかし、課金、料金請求、苦情対応、自己の管理するシステムの安全性の確保その他の業務の遂行上必要な場合には、必要最小限度の通信履歴を記録することは、少なくとも正当業務行為として違法性が阻却される。
    • 【正当業務行為として違法性が阻却される事例】(略)いったん記録した通信履歴は、記録目的の達成に必要最小限の範囲内で保存期間を設定し、保存期間が経過したときは速やかに通信履歴を消去(通信の秘密に該当する情報を消去することに加え、該当しない部分について個人情報の本人が識別できなくすることを含む。)しなければならない。また、保存期間を設定していない場合であっても、記録目的を達成後は速やかに消去しなければならない。/保存期間については、提供するサービスの種類、課金方法等により電気通信事業者ごとに(※1)、また通信履歴の種類ごと(※2)に異なり得るが、業務の遂行上の必要性、保存を行った場合の影響、社会環境の変化(※3)等も勘案し、その趣旨を没却しないように限定的に設定すべきである。」
      • なお、※1〜3と「社会環境の変化」というフレーズは、今回の改正において追加されたものである。※2に対応する注はもともと存在していたが、本文のどの箇所に対応するものなのかが明示されていなかった。
  • 解説(の注)への追加が提案されている記載は、以下のとおりである。
    • 「(※1)インターネット上のSNSや掲示板等のサービスを提供する事業者(いわゆる「コンテンツプロパイダ」。以下「CP」という。)とインターネット接続サービス提供事業者(いわゆる「アクセスプロバイダ」。以下「AP」という。)では、提供するサービスの内容等に違いがあることから、各サービスの内容に応じた業務の遂行上必要な範囲で、通信履歴の保存期間を設定することが考えられる。」
    • 「(※3)社会環境の変化として、CPが提供するSNSや掲示板等における誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報の流通の高止まりを背景として、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成13年法律第137号)が相次いで改正されている。また、SNSや掲示板等で著しく高額な報酬の支払いを示唆するなどして犯罪の実行者を募集する投稿等が掲載され、そのような投稿等に接して実際に犯行に及んだ者もいるなど、違法情報の流通が社会問題となっている。/CPについては、上記社会環境の変化を勘案すれば、CPにおける違法・有害情報への対策の必要性が高まるとともに、社会的にも期待されているといえるから、自社サービス内で生じた誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報への対策のために不可欠な情報である通信履歴を保存することは、業務の一環と位置付けられる。これを踏まえると、CPが、誹謗中傷等の違法・有害情報に係る投稿への対応を行うという目的で、各CPのサービス内容に応じた業務の遂行上必要な通信履歴、例えば、アカウント情報、ログイン情報、投稿情報等について、必要な範囲内で保存することが考えられ、その保存期間は、少なくとも3~6か月程度とすることが社会的な期待に応える望ましい対応と考えられる。/また、APについても、その業務の過程でインターネット上の投稿等に関する発信者情報を保有しているところ、例えば、誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報への対応には、通常、CPだけではなく、APが保有する通信履歴が必要不可欠であるなど、APも違法・有害情報への対応に重要な役割を果たしており、そのために不可欠な情報である通信履歴の保存をすることも社会的に期待されている。そのため、APにおいても、CP同様に、必要な範囲内で、接続認証ログの通信履歴を保存することが考えられ、その保存期間は、少なくとも3~6か月程度とすることが社会的な期待に応える望ましい対応と考えられる。/上記については、一般に電気通信事業法における通信の秘密との関係において許容されると考えられる。上記期間は、近年の社会環境の変化を踏まえたCP及びAPにおける通信履歴の保存期間として望ましい期間の目安であり、より長期の保存をする業務上の必要性があるとき(※2参照)には、これを超えた期間を設定することも許容されると考えられる。」
    • なお、※2は、もともと存在していたものに若干の加筆がなされたものである。

 

コメント

  • 電通法は、通秘保護を命じる一方、通信履歴の保存(data retentionなどと呼ばれることがある。)は命じていない。後者については、情プラ法も同様である。
    • なお、2法の適用関係は複雑であるので、詳細には立ち入らない。原則を述べれば、APは法律上の電気通信事業者に該当する一方、CPは3号事業者として法律上の電気通信事業者には該当しない。GLの「電気通信事業者」は3号事業者も含むが、電通法4条1項は専ら「電気通信事業者の取扱中に係る」通秘に適用されることに留意する必要がある。
  • GL及び解説を前提とすると、通信履歴の保存は通秘侵害に該当するが、上記のとおり、電通法・情プラ法は通信履歴の保存を命じていないので、法令行為としての違法性阻却は困難である。また、一般的な形での保存は、緊急行為としての違法性阻却も困難である。このため、正当業務行為が検討されているものと思われる。
    • そもそも刑法の枠組みで議論するのが適切かという問題が指摘されているが、一旦置いておく。
  • (刑法の正当業務行為の解釈論が固まっていないため論証が難しいが、)このような解釈には、以下のとおり、疑義がある。
    • 第一に、「誹謗中傷等の違法・有害情報に係る投稿への対応を行う」ことは、電気通信事業や特定電気通信役務の提供に本質的に必要な行為とは言い難い。もちろん、「危険源」を管理しているAP/CPが、そこから生じる危険に対処するのは正当な行為であるが、そのことと、通秘侵害の違法性阻却事由としての正当業務行為に当たるかは、別の話である。仮にそれが成り立つのであれば、通信履歴をマーケティング(それ自体は一応正当な行為であろう。GDPRにおいても一応legitimate interestとして認められている。)に使うことも、正当業務行為となりうることとなってしまうであろう。そのように根拠の曖昧な解釈を(日本の)裁判所が認めるかは、明らかではない。
    • 第二に、「社会的な期待」という極めて薄弱な根拠に基づいて正当業務行為としての違法性阻却を認めることは、近時の関係者の努力を無にしかねない。特に、アドホックな通秘侵害の違法性阻却は、事業者を危険に晒す。すなわち、
      • オンカジに関するブロッキングの議論は、検討会内で曽我部委員が指摘しているとおり、児童ポルノ、海賊版対策に続く「3周目」であり、立法が前提となることを含め、相応に慎重な議論がされているように思われるが(「オンカジ検討会中間論点整理案(骨子)について―特に通信の秘密に関して」を参照)、ここで「社会的な期待」という極めて薄弱な根拠に基づいて正当業務行為としての違法性阻却を認めれば、それがバイパスとなってしまう(刑法の文言に即して言えば、正当業務行為においては、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する…危難」も、「現在の危難」も、「やむを得ずにした行為」も、「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」ことも、明示的には要求されない。)。
      • また、能動的サイバー防御においては、第三者機関の設立を含め、有識者会議において慎重な議論がなされたが、3か月間AP/CPが保存する通信記録に警察がアクセスでき、かつ、その適切性について実効的な監督がなされなければ(なお、令状審査は、独立性は保障されるが、アドホックな審査であり、構造的な問題には対処できない。)、それらの努力が意味がなくなってしまう。
    • 第三に、通信履歴の保存は、EUにとってセンシティブな領域であり、安易にこれを行えば、十分性認定を危うくする。すなわち、EUの対日十分性認定においては、刑事訴訟法に基づく証拠収集が問題とされ、警察庁、都道府県公安委員会、裁判所が適切に監督しているという理由で十分性が認められているが、実際にそう言えるかは大いに疑問がある(捜査関係事項照会に関し、CCCのTカード情報提供、違反ではないが「十分性」に反する | 日経クロステック(xTECH)小向太郎「捜査機関による第三者保有の個人情報に対するアクセスと本人の保護」など参照。また、令状審査については前記の限界がある。)。一方で、CJEUは、  Schrems II事件はもちろん、EU内部においても、Digital Rights Ireland事件(Joined Cases C‑293/12 and C‑594/12)、Tele2 Sverige AB事件(Joined Cases C‑203/15 and C‑698/15)、Prokuratuur事件(Case C‑746/18)などにおいて、EU指令の無効化を含め、通信履歴の保存やガバメントアクセスに対し厳格な態度を取ってきている。政府が解説改正案を通じてAP/CPにおける通信履歴の保存を慫慂することは、制度を変更するものではないが、運用を変更するものであり、それによりガバメントアクセスのリスクが増大する。GL解説は総務省と個情委の共管であり、個情委は個情法6条と基本原則を軸として行動する必要があると思われる。

オンカジ検討会中間論点整理案(骨子)について―特に通信の秘密に関して

オンカジ検討会の中間論点整理案(骨子)が公表されていましたので、主として今後の(DNS/それ以外の)ブロッキングに関する議論への示唆という観点から、簡単に紹介します。

 

論点整理案の概要

  • 「ブロッキングは、インターネット接続事業者(ISP)が、オンラインカジノの利用者だけでなく、すべてのインターネット利用者の接続先等を確認し、通信当事者の同意なく遮断等を行うものであり、電気通信事業法が規定する通信の秘密の侵害に該当する。」(6頁)ことが明記された。
  • 「①ブロッキングは、他のより権利制限的ではない対策(例:周知啓発、フィルタリング等)を尽くした上でなお深刻な被害が減らないこと、対策として有効性がある場合に実施を検討すべきものであること(必要性・有効性)、②ブロッキングにより得られる利益と失われる利益の均衡に配慮すべきこと(許容性)、③仮に実施する場合、通信事業者の法的安定性の観点から実施根拠を明確化すべきこと(実施根拠)、④仮に制度的措置を講じる場合、どのような法的枠組みが適当かを明確化すべきこと(妥当性)」(2頁)という通秘侵害の正当化の判断枠組みが示された。
  • 東京高判令和元年10月30日判決が、(児童ポルノと異なり、)「著作権者の経済的利益のために通信の秘密の制限することについて否定的な見解が示された」(9頁)、「法解釈(緊急避難の考え方)に基づき自主的にブロッキングの実施を表明した事業者が訴訟を提起され、実質的に敗訴ともいいうる判決が示された」(10頁)と位置づけられた。
  • 「賭博の保護法益は「勤労の美風」という社会的秩序であるとされること(最大判昭和25年11月22日)から、これのみで通信の秘密の侵害を正当化することは困難」(9頁)であることが明記された。
  • 「オンラインカジノは、賭け額の異常な高騰や深刻な依存症患者の発生など、きわめて深刻な弊害が報告されており、必ずしも賭博罪の保護法益(社会的法益)に留まらず、刑法上の議論に尽きるものではない」「これは、通常の賭博(合法ギャンブルのオンライン提供を含む)と異なり、①海外から日本に向けて提供されており、運営主体の適正性が担保されない、②1日当たりの賭け回数や上限額の設定、年齢確認、相談窓口の設置といった依存症を予防するための基本的な対策が講じられていない等の構造的課題に起因すると考えられ、一過性の現象と見なすことは適当ではない」(9頁)との問題提起がなされた一方、「ブロッキングは、あくまで、違法情報の流通によってもたらされる弊害を除去する目的を達成するためのアクセス抑止策の一つであり、その枠組みを検討するに当たっても、当該弊害の除去という本来の政策目的に基づく規制体系の中で位置づけられるべき…特に、カジノを巡っては、IR法制定の過程でランドカジノの合法化の要件が定められた一方、オンライン化の是非や要件については具体的な議論が先送りとなった…他の合法ギャンブルのオンライン提供において講じられているような対策がないことが、依存症をはじめとする弊害を悪化させている面があることから、ブロッキングの制度設計に当たっても、カジノ規制全般に対する議論抜きにその在り方を検討することは困難」(11頁)との意見が明記された。
  • 「仮に法解釈(緊急避難)で行う場合は、ブロッキングを実施する電気通信事業者において、個々の事案ごとに緊急避難の 要件を満たしているかを検討し、事業者自らの判断(誤った場合のリスクは事業者が負担)で実施するかどうかを決める ことになる。オンラインカジノサイトについては、無料版やゲーム等との区別が容易ではないことも指摘されているところ、 仮に法令によって遮断対象や要件等を明確にしなければ、 「ミスブロッキング」や「オーバーブロッキング」のリスクが高 まり、法的責任(通信の秘密侵害罪、損害賠償責任)を回避するために遮断すべきサイトのブロッキングを控えることが考 えられ、対策の法的安定性を欠くことになる」(10頁)、「特に、ブロッキングにおいて犠牲にされる利益は、電気通信事業者自身が処分可能なものではなく、あくまで利用者である国民一般のものであることから、電気通信事業者における法的安定性を確保することはきわめて重要」(同)と明記された。
  • 「具体的な制度を検討するに当たっては、通信の秘密の制限について厳格な要件を定めた例である「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(いわゆる能動的サイバー防御法)や、フランスをはじめ違法オンラインカジノ規制の一環としてブロッキングを法制化している諸外国の例が参考になる」(11頁)、「以下の論点について具体的な検討が必要…①遮断義務付け主体(遮断対象リストの作成・管理を適切に行う主体(オンラインカジノ規制と密接に関連)など)②遮断対象(対象範囲の明確化(国外・国内サイト、国外サイトのうち日本向けに提供するサイト、無料版の扱い等)など)③実体要件(補充性(他の対策では実効性がないこと)、実施期間、実施方法など)④手続要件(事前の透明化措置として、司法を含む独立機関の関与、遮断対象リストの公表など。事後的な救済手段として、不服申立手続・簡易な権利救済手段の創設、実施状況の報告・事後監査の仕組など)⑤その他(実施に伴う費用負担、誤遮断時の責任の所在(補償)など)」(同)との意見が明記された。

 

コメント

  • オンラインカジノが違法であることの教育・啓発や、クロスボーダー決済の規制強化等の取組み(ギャンブル等依存症対策推進基本計画参照)が進展する中で、7年前の知財本での議論と対照的に、慎重な議論がなされたのではないかと思います。
  • 特に、DNSブロッキングの有効性には疑義があること、賭博罪の保護法益が(児童ポルノによって侵害される人格的利益はもちろん)知財にすら劣後すること、緊急避難によることは適切ではなく立法によるべきことが明記されたこと、法整備に当たって検討すべき事項が具体的に示されたことは、今後のオンカジ以外も含めたブロッキング全般の議論にとって有益なのではないかと思います。
    • なお、付け加えるとすれば、正当防衛に関しては、平成29年の判例が、急迫性要件に関して、緊急行為性に着目した解釈を示しています。緊急避難の現在性要件は、急迫性と同等のものと解釈されてきており、そこでは、単に公益の侵害の時間的切迫だけではなく、立法が期待できないといった事情(前記判例にいう「急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないとき」に相当)が要求されるべきではないかと思います。
  • 依存症予防の観点からの規制の必要性は理解できるところですが、これについて、「当該弊害の除去という本来の政策目的に基づく規制体系の中で位置づけられるべき」との指摘が明記されたことは有意義だと思います。より端的に言えば、ギャンブルを規制する必要性はあるが、刑法185条、186条はその手段としてフィットしていないということです。ギャンブル等依存症対策基本法の改正は、「本来の政策目的に基づく規制体系」への第一歩となるとよいと思います。
    • なお、同様の状況は、わいせつ物頒布等(刑法175条)でも生じていると思います。「AirDrop痴漢」やメッセージングサービスを通じた性的コンテンツの送りつけ行為は禁止されるべきであり、ポルノにはゾーニングが必要であり、ポルノの制作過程で行われる不公正行為(人身取引からインフォームドコンセントの欠如までを含みます。)は処罰されるべきですが、これらは性的行為や性的コンテンツの享受に係る自己決定権の保護を目的とする規制を通じて実現されるべきであり(AV出演被害防止・救済法や性的姿態撮影等処罰法はその第一歩と考えられます。)、性的道義観念の保護を目的とする規制を「転用」して実現できるものではないと思います。

諸課題検討会広告WG中間取りまとめについて

総務省の諸課題検討会広告WG中間取りまとめデジタル広告モニタリング指針案広告主等向けガイダンスが出揃いましたので、それについて書いていきます。

なお、前回、「アドネットワークはDSA/情プラ法の規制対象となる(べき)か?」という記事を書いており、そちらもご参照ください。

 

文書の位置付け

  • 総務省は、2023年10月から、健全性検討会を開催し、誹謗中傷対策(特に令和3年プロ責法改正で手当されなかった投稿の削除)と偽情報対策について検討を始めた。検討過程で、なりすまし広告や闇バイト、災害時・選挙時等における偽情報(伝統的には流言飛語と呼ばれてきたものだと思われる。)などの問題が浮上し、これらも対処すべき課題に含まれるようになった。健全性検討会は、7月に取りまとめを行い、パブコメを経て、9月に終了した。取りまとめでは、概ね、偽情報対策と広告に関する弊害への対処がが課題とされた。
  • その後、2024年10月以降、諸課題検討会と、その小会議である制度WG・広告WGが開催され、検討が行われた。制度WGでは、主に違法情報対策(偽情報対策から重点がシフトしたと思われる。)が、広告WGでは、主に広告に関する弊害への対処が議論された。
  • 制度WGでは、EUのデジタルサービス法(DSA)を参考に、情プラ法を再改正することが議論された(中間取りまとめ案)。
  • 広告WGでは、広告に関する弊害を、①悪質な広告の表示と、②悪質な媒体への資金提供という2つの問題に区別して議論が行われた。このうち、①に関するアウトプットがデジタル広告モニタリング指針案であり、②に関するのが広告主等向けガイダンスであり、これらに至る議論や今後の方向性をまとめたものが、広告WG中間取りまとめだと言える。広告WG中間取りまとめは、前半(第2章)と後半(第3章)に分かれており、前半は①に関するもの、後半は②に関するものである。

 

コメント

悪質広告関係

  • 上記の①悪質な広告に対する総務省の基本的なアプローチは、「SNS等を提供する大規模なプラットフォーム事業者」(大規模特定電気通信役務提供者と同視してよいと思われる。)に対し、広告の審査を求めるというものである。
    • 指針案は情プラ法への言及を意図的に避けているように見えるが、「SNS等を提供する大規模なプラットフォーム事業者」の定義(脚注2)は、大規模特定電気通信役務提供者の指定基準と一致しており、かつ、対象とする広告も、「他人の権利等を侵害する広告」と、情プラ法の迅速化規律が適用されるものに限られている。
    • 大規模特定電気通信役務提供者には、大規模なSNS・掲示板・ホスティングサービス等が該当する。一覧はこちら
    • なお、法律の根拠に基づかない行政指導という建て付けとするのであれば、対象を権利侵害広告に限定する意味はよく分からない。総務省は、既に違法情報ガイドラインにおいて、情プラ法の趣旨を超えた対応を求めているからである(それが望ましいかはさておき)。
  • もっとも、大規模な広告媒体の運営者が必ずしも大規模特定電気通信役務提供者に該当するとは限らない。例えば、新聞社のニュースサイトは、基本的には大規模特定電気通信役務提供者に係る規制の対象とならないと思われる。しかし、そのようなサイトが詐欺や消費者被害の入口となっていることはしばしばあると思われ、大規模特定電気通信役務提供者を通じた適正化のみで足りるのか、継続的に検討する必要がある。仮に足りないのであれば、選択肢としては、大規模媒体全般を規制対象とするか、アドネットワークを規制対象とすることを検討する必要があると思われる。
    • 新聞社は、偽情報の文脈では、SNSは信用できないが自分たちは信用できると主張してきており、それ自体が間違っているとは思われないが、そうであれば、新聞社のサイトにはより脆弱な市民もアクセスすることになるのだから、アドネットワークを使っているからという理由で「ご注意ください。」で済ませるのは、無責任と言わざるを得ない。
  • なお、広告WG(議事録は未公表)で金融庁がIOSCOのオンラインハームに関するステートメントを紹介しているのは興味深い。当該ステートメントについては、「証券取引とデジタル技術・ソーシャルメディアに関するIOSCOの4文書の紹介」を参照。

 

悪質媒体関係

  • 上記の②悪質な媒体に対する総務省の基本的なアプローチは、広告主にとっての損害(信用の毀損、コンバージョン率の低下)と企業の社会的責任を強調することにより、「良質な」媒体やアドネットワークを選択すること(アドネットワークを使う場合、媒体をコントロール可能なアドネットワークを選択し、実際にコントロールを行うこと)を求めるというものである。
  • もっとも、実際のところ、そのような選択やコントロールがどこまで実効的に可能なのかは疑問があり、また、全ての広告主がブランディングによって収益を上げている(つまり、ガイダンスが期待するように行動するインセンティブがある)わけではない。その意味で、アドネットワークを規制対象とすることや、場合によっては広告主に対する制裁は、なお検討すべき課題として残るのではないか。

アドネットワークはDSA/情プラ法の規制対象となる(べき)か?

前回、「デジタルサービス法に関するメモ:基本構造、違法情報の範囲、オンラインマーケットプレイス」という記事を書きましたが(なお、追記しています。)、その後、アドネットワークのオンラインプラットフォーム該当性という興味深い論文"The EU Digital Services Act: what does it mean for online advertising and adtech?"を見つけましたので、それについて簡単に書いていきます。

 

論文の概要とDSAの関係箇所の補足説明

  • 論文は、DSAは広告媒体を規制することで広告を適正化しようとしているが、定義に照らすとアドネットワークもオンラインプラットフォームに該当するのではないか、というもの。
  • オンライン広告は、基本的には、広告主→アドネットワーク→広告媒体、という商流で取引される。広告媒体とは、WebサイトやSNSなどの、広告が掲載されるサイトである。アドネットワークは、無数にいる広告主・広告媒体をマッチングする機能を提供する。広告主はDSP (Demand-Side Platform)、広告媒体はSSP (Supply-Side Platform)を使用してアドネットワークに参加する。
  • アドネットワークと媒体は、垂直統合で提供されることもある(むしろ、垂直統合が原始的なモデルであり、広告主と媒体が増え、個々に取引するのが現実的でなくなってきたことから、アドネットワークが登場した。)。特に、Google検索、YouTube、Intagram、Yahooニュースのような巨大なPVを有する媒体は、垂直統合モデルを採用している。
    • 論文では、このような垂直統合の媒体は、online platforms with integrated advertising servicesと呼ばれている。
  • DSAの立案者は、オンラインプラットフォームたる媒体に対する規制を通じて、オンライン広告を適正化しようとしていたと思われる。このような手法は、垂直統合モデルでは、ある程度機能する。
  • 一方で、媒体がアドネットワークを使用している場合には、媒体の広告を適正化する能力は限定されており、アドネットワークこそがその能力を持っている可能性がある。また、オンライン広告全体にフォーカスすると、そもそも媒体がオンラインプラットフォームに該当しない場合も多い(例えば新聞社や放送事業者が運営するニュースサイトは通常オンラインプラットフォームに該当しない)。仮にそうだとすれば、アドネットワークに直接規制を課すことには、一定の合理性がある。もっとも、現行のオンラインプラットフォームに課される行為規制のリストが、アドネットワークに対して有効かつ適切なものとなっているかは、別問題である。論文は、アドネットワークがオンラインプラットフォームに該当することを示しつつ、行為規制がどのように適用されるかが不明確であることを指摘している。

 

日本における検討状況

  • 日本においては、現在、諸課題検討会制度WGで、情プラ法を改正し、違法情報に係る迅速化規律を導入することが検討されているが、これとは別次元の問題として、アドネットワーク(の提供者)が大規模特定電気通信役務提供者に該当するかが問題となる。現状を述べると、(広告WGで議論された)モニタリング指針は、基本的に媒体を対象としており、制度WGの議論においても、アドネットワークを直接に規制すべきかが正面から取り上げられているわけではないようである。
  • 仮にアドネットワークを規制するのであれば、発信者ベースで「大規模」かどうかをカウントすることの適切性や、大規模特定電気通信役務提供者に課される規制がアドネットワークにフィットしているかを検証する必要があると思われる。
  • また、アドネットワークを規制するかどうかにかかわらず、広告が媒体を対象とする迅速化規律の対象となるかも検討する必要がある。もっとも、この点については、広告WGの議論においては、対象となることが前提とされているように思われる(モニタリング指針は情プラ法への言及を意図的に避けているように見えるものの)。

デジタルサービス法に関するメモ:基本構造、違法情報の範囲、オンラインマーケットプレイス

DSAの基本構造と日本法にとって示唆的と思われる点に関するメモです。後者においては、諸課題検討会で明示的に議論されている論点には立ち入らず、違法情報の範囲と、オンラインマーケットプレイスに対する規制の2点を取り上げます。

 

DSAの基本構造

  • DSAの実体的部分は、主として第2章と第3章からなっている。
    • 前者は仲介(intermediary)サービスの提供者の責任を定めるもので、電子商取引指令(Directive 2000/31/EC。DSAの前身である。)に引き続き、仲介サービスの提供者は、原則として、伝送、保存等される情報について責任を負わないことを定めている(DSAにおいては、当該原則に対する例外が極めて大きくなっているのであるが)。
    • 後者は「透明で安全なオンライン環境のためのデューデリジェンス義務」を定めるもので、言い換えれば、仲介サービスの提供者の行為規制を定めるものである。この章は、全ての仲介サービスの提供者に課される義務を定めた上で、ホスティングサービスの提供者、オンラインプラットフォームの提供者、BtoC取引を可能にするオンラインプラットフォーム、VLOPs/VLOSEsについて、追加的・段階的な義務を課している。
      • 日本では、金商法の業規制(第3章)がこのような構造になっている。同法は、金融商品取引業を広く定義した上で、その下位概念である第1種金融商品取引業、第2種金融商品取引業、投資運用業、投資助言・代理業を定義し、行う金融商品取引業の種類に応じて、段階的な参入規制・行為規制を課している。このような立法政策は、金融規制の文脈では、「柔構造化」と呼ばれている。
      • 各サービスに適用される義務規定については、詳述しない。NRIが健全性検討会に提出した資料が参考になる。検索すると三菱総研の資料も出てくるが、対象としているDSAのバージョンが古いので注意。
  • 「仲介サービス」は、単純伝送(mere conduit)サービス、キャッシュ(caching)サービス、ホスティング(hosting)サービスの総称である(3条(g))。
    • DSA 3条(a)はDirective (EU) 2015/1535第1条(1)(b)のinformation society serviceの定義を引用しているが、DSA 3条(g)柱書は"one of the following information society services:"となっており、mere conduit/caching/hosting serviceは当然にinformation society serviceに該当すると考えられているのかもしれない。そうだとすると、あるサービスがDSAの対象となるかを検討するとき、information society serviceに該当するかを検討する意味はあまりないことになる。
  • このうち、「ホスティングサービス」は、サービス受領者(recipient of the service)によって提供される情報を、その要求に基づいて保存(storage)するサービスとされている(3条(g)(iii))。
  • 「オンラインプラットフォーム」は、ホスティングサービスの下位概念であり、サービス受領者の要求に基づいて、情報を保存し、公衆に拡散する(disseminates to the public)ものをいい、他のサービスの軽微かつ純粋に付随的な機能である場合等を除くとされている(3条(i))。公衆への拡散とは、情報を提供したサービス受領者の要求に基づいて、潜在的に無制限の数の第三者に情報を利用可能にすることとされている(同条(k))。
  • 一方、「オンライン検索エンジン」は、概ね、クエリに基づいて任意の主題について全てのWebサイトを検索し結果を返す仲介サービスとされている。
    • このように、「オンライン検索エンジン」は、オンラインプラットフォームと異なり、「仲介サービス」の下位概念とされており、「ホスティングサービス」の下位概念とはされていない。これはホスティングサービスには該当しないということなのか、仮にそうだとするとそれ以外の何(単純伝送、キャッシュ)に該当するのかは、よく分からない。
  • DSAの規制の中で最もよく知られているのは、超大規模オンラインプラットフォーム(Very Large Online Platforms, VLOPs)及び超大規模オンライン検索エンジン(Very Large Online Search Engines, VLOSEs)に対する規制だと思われるが、実は、VLOPs/VLOSEsの定義規定は存在しない。これらは一般用語として用いられており、規制対象者の指定においては、オンラインプラットフォーム・オンライン検索エンジン該当性と、月間アクティブユーザー数(DSA上はユーザーではなく受領者(recipient)という言葉が使われている)に(のみ)意味がある。

 

違法情報の範囲

  • DSAにおいては、「違法コンテンツ」は、
    • 情報自体又は製品の販売及びサービスの提供を含む活動に関連して(in relation to an activity, including the sale of products or the provision of services)、EU法又はEU法に準拠した加盟国法に違反するあらゆる情報を意味し、その法令の具体的な対象や性質を問わない。」と定義され(3条(h))、
    • 「安全で予測可能かつ信頼できるオンライン環境を確保するという本規則の目的を達成するため、「違法コンテンツ」という概念は、オフライン環境における既存の規則を広く反映するものでなければならない。特に、「違法コンテンツ」という概念は、違法なコンテンツ、製品、サービス及び活動に関連する情報を幅広く含むように定義されるべきである。この概念は、適用法の下で違法とされる情報、すなわち、違法なヘイトスピーチやテロリストコンテンツ、違法な差別的コンテンツのように情報自体が違法である場合、又は違法な活動に関連するという理由で適用規則によって違法とされる情報を指すものとして理解されるべきである。/例示としては、児童の性的虐待を描写する画像の共有、同意なしに私的画像を不法に共有する行為、オンラインストーキング、適合していない製品又は偽造製品の販売、消費者保護法に違反する製品の販売又はサービスの提供、著作権保護対象物の無許可使用、違法な宿泊サービスの提供、又は生きた動物の違法販売などが含まれる。…この点において、当該情報又は活動の違法性がEU法によるものか、又はEU法に準拠した加盟国法によるものか、またその法の正確な性質や対象が何であるかは問題ではない。」とされている(Recital 12)。
  • 一方、情プラ法(経緯、趣旨等について立案担当者解説を参照)においては、
    • 「侵害情報」、「侵害情報送信防止措置」、「送信防止措置」が定義されている。一方、「違法情報」は定義されていない。
    • 「侵害情報」とは、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報」であり(情プラ法2条6号)、「侵害情報送信防止措置」とは、侵害情報の送信を防止する措置である(同条8号)。損害賠償責任の制限(第2章)、発信者情報開示請求権(第3章)、迅速化規律(第5章の半分)においては、これらの概念が使われている。つまり、これらの規律は、情報流通による権利侵害を対象としている。
    • 一方、「違法情報」は、上記のとおり情プラ法上定義された概念ではないが、実務上使われている概念であり、例えば、「「違法情報」とは、名誉権、著作権等の他人の権利を侵害する「権利侵害情報」と、権利侵害情報には該当しないものの刑法等の法令でその情報を流通させることが違法とされている「その他違法情報(法令違反情報)」に分類される。」とされている(諸課題検討会制度WG中間取りまとめ案6頁)。つまり、当該情報を流通させることが私法上又は公法上違法とされている情報が「違法情報」である。
    • 「送信防止措置」は、「侵害情報送信防止措置その他の特定電気通信による情報の送信を防止する措置」である(情プラ法2条9号)。
      • つまり、広く特定電気通信による情報の送信を防止する措置が「送信防止措置」であり、侵害情報の送信を防止する措置(=侵害情報送信防止措置)と、その他違法情報の送信を防止する措置は、その例である。また、利用規約により独自のコンテンツモデレーションを行っている場合における当該利用規約違反を理由とするコンテンツモデレーション(投稿の削除等)も、送信防止措置に該当する。
      • 透明化規律(第5章の残り半分)は、この「送信防止措置」を対象としている。言い換えれば、情プラ法の中で、透明化規律のみが、違法な情報流通を対象としている。
        • 総務省は、3月、違法情報ガイドラインを公表したが、これは、このように透明化規律が「送信防止措置」全般を対象としており、事前に公表した基準によらずに送信防止措置を取ることが許される場合の一つとして、「他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務がある場合その他送信防止措置を講ずる法令上の義務(努力義務を除く。)がある場合において、当該義務に基づき送信防止措置を講ずるとき。」を挙げていたことを利用したものである(ガイドラインは、「その他送信防止措置を講ずる法令上の義務(努力義務を除く。)がある場合」を例示するという建て付けとなっている)。
  • このように、DSAと情プラ法の適用範囲に関する現時点での最大の違いは、(権利侵害情報以外の)違法情報を対象とするかどうかである。プロ責法は権利侵害に対処することを目的として制定され、情プラ法への改正後もそのことは変わっていない。一方で、情プラ法の運用においては、違法情報に対処するために同法が利用されており、かつ、諸課題検討会において、違法情報を迅速化規律の対象に含める(または違法情報についても迅速化規律に相当する規律を設ける)ことが検討されている。
  • その上で、上記の違いは、今後、違法情報に、情報流通自体が違法であるものを含めるかどうかにシフトする可能性がある。すなわち、DSAにおいては、違法な活動に関連する情報を広く「違法コンテンツ」に含めているのに対し、諸課題検討会における検討においては、あくまで情報流通自体が違法であるもののみを「違法情報」とし、迅速化規律の対象に含めようとしているように見える。このような限定が、意識的になされているのかは分からないが(違法情報は、諸課題検討会以前から、「違法・有害情報」という形で、総務省や警察の生活安全部門により、伝統的に用いられてきた概念である。)、DSAのような定義はあまりに広く、予期しない結果に繋がる可能性が高く、ひとまず情報流通自体が違法であるもののみに限定して議論することは、適切だと思われる。
    • その上で、前回の記事で書いたとおり、「それでも情報(発信)自体を間接的・付随的にであるにせよ違法とする法律は数多い。…少なくとも、違法情報は権利侵害情報と比べても政府による権限濫用リスクが大きいこと、日本の裁判所は欧州というよりは米国を参照し、表現の自由の優越的地位を明示的に承認してきたことを踏まえた慎重な議論を経るべきだと思われる。また、表現行為を規制する実体法に過不足がある可能性があるのであれば、その合理化と併せて検討すべきであると思われる。」(ベルリン州データ保護コミッショナーによるApple及びGoogleに対するDeepSeekアプリの削除要請について - Mt.Rainierのブログ)。
    • 迅速化を求める違法情報の範囲を列挙する方式(制度WG中間取りまとめ23頁注33)は、一つのバランスの取り方だと思われる。

 

(違法情報の範囲に関する追記)

  • 違法情報の定義の仕方について
    • 広告が詐欺の実行行為の一部を構成している場合、それが権利侵害情報に当たるかは微妙である。権利侵害情報(法律上は侵害情報)は、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報」と定義されているが、「によって」は比較的狭く、少なくとも単なる因果関係(情報流通が財産権侵害の手段として利用されたこと)以上の要件と解されている。モニタリング指針も、そのような広告を正面から「他人の権利等を侵害する広告」と明示的に位置づけることは避けているように見える。
    • 一方、違法情報を対象とする場合、「によって」要件は課されない可能性があるが、その書き方次第では、DSAのように違法行為に関連する情報を広く「違法情報」とすることとなりうる。「違法情報」を定義するに当たっては、このことに留意すべきである。
  • 実体法の改正について
    • 情プラ法を通じた刑罰法規・行政法規のエンフォースメントに当たっては、併せて、エンフォースされる刑罰法規・行政法規を適切に見直す必要がある。伝統的な表現規制には、(少なくとも今のままの形では)正当化根拠が疑わしくなっているものも多く含まれており、これをそのまま情プラ法を通じてエンフォースすると、不当な規制を実質的に強化してしまう可能性がある。逆に、必要な規制について、特に情プラ法を通じたエンフォースメントを考えた場合に、刑罰法規・行政法規が十分な規制をしていない場合(過剰な要件を課している場合を含む。)があり、これをそのままエンフォースすると、無理な認定が必要となったり、逆に、迅速な削除ができないこととなる可能性がある。
    • 後者の例として、金商法31条の3の2が参考になる。金商法は、もともと無登録金商業を禁止していたが、それだけでは金商業に該当する行為(広告や勧誘はそれ自体ではこれに該当しない。)が業として行われていることを立証する必要があり、迅速な摘発ができなかった。平成23年改正において、無登録の者に対し、金商業を行う旨の表示と、金融商品取引契約の締結の勧誘を禁止したことにより、より低い立証ハードルでの摘発が可能になった。
    • 有害情報は合意形成し違法化した上で削除等を促進すべきという議論(制度WG中間取りまとめ34頁)は、これと同じ発想だと思われる。

 

オンラインマーケットプレイス

  • DSAは、オンラインマーケットプレイスにも適用される。特に3章2節(ホスティングサービスに関する義務)、3節(オンラインプラットフォームに関する義務)はBtoC取引とBtoB取引の双方に適用され、4節(BtoC取引を可能にするオンラインプラットフォームに関する義務)はBtoC取引に適用される。
    • 特に、苦情処理システム(20条)、ADR(21条)、信頼できる通報者(trusted flagger, 22条)、不正利用に対する措置(23条)、欺瞞的・操作的なUIの禁止(25条)、広告の透明性(26条)、レコメンダーシステムの透明性(27条)などは、3章3節に規定されており、BtoCとCtoCの区別なく適用される。
    • また、事業者のトレーサビリティ(30条)においては、開示(同条6項、7項)だけでなく、その前提としてのKYBCが義務付けられている(同条1項、2項)。
  • これに対し、情プラ法の規制対象は、特定電気通信役務提供者、侵害情報、侵害情報送信防止措置、送信防止措置という基本概念によって画されており、特に侵害情報の定義中の「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」という要件のため、オンラインマーケットプレイスへには適用されないとみなされてきた。
  • 一方、別途、取引DP法が制定されている(立案担当者解説)。この法律は、特商法の通信販売規制(日本版電子商取引法と言いうる。)を補完するものであるが、そのこともあってか、表示以外の苦情処理は定められておらず(取引DP法3条1項2号参照)、KYBCも直接には義務付けられていない(同項1号、5条参照)。ADRも義務付けられていない(金商法37条の7、5章の5参照)。
  • 第7回取引デジタルプラットフォーム官民協議会では、「隠れB」(事業者でありながら消費者であるかのように振る舞う者)への対処とともに、CtoC取引の適正化のために期待される取り組み(苦情処理、取引モニタリング)をガイドラインに記載することが検討されている。自主的に取り組みが奏功しなかった場合、取引DP法を改正し、CtoC取引についてもオンラインマーケットプレイスの提供者が責任を果たすことを求めることになるのだと思われるが、その場合、DSAや、SheinやTemuに対するエンフォースメントが一つの参考となると思われる。

ベルリン州データ保護コミッショナーによるApple及びGoogleに対するDeepSeekアプリの削除要請について

越境移転規制、域外適用、(検討中の)個情法の第三者命令、(検討中の)情プラ法の再改正(特に迅速化規律の違法情報への拡張)に関して興味深かったので、紹介します。

 

プレスリリースについて

  • Berlin Commissioner for Data Protection notifies Apple and Google in Germany of AI app DeepSeek as illegal contentには、以下の記載がある。
    • DeepSeek社は「は欧州連合(EU)内に拠点を有していないが、このサービスはGoogle Play StoreおよびApple App Storeにおいてドイツ語の説明文付きで提供され、ドイツ語で利用可能である。そのため、当該サービスは欧州一般データ保護規則(GDPR)の適用対象となる。」
    • (コミッショナーのコメントとして)「DeepSeekによるユーザーデータの中国への移転は違法である。DeepSeekは、ドイツのユーザーのデータが中国においてEUと同等の水準で保護されているとする合理的な証拠を示すことができなかった。中国当局は、中国企業が保有する個人データに対して広範なアクセス権を有している。さらに、DeepSeekの中国国内ユーザーには、EUで保障されているような強制力のある権利や効果的な法的救済手段が存在しない。以上の理由から、私は、主要なアプリプラットフォーム運営者であるGoogle及びAppleに対し、違反を通知し、速やかなブロッキングの検討を求める。」
    • 「具体的に言えば、Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.は、そのDeepSeekサービスに関連して、GDPR 46条1項に違反している。これを受けて、ベルリンデータ保護コミッショナーは、2025年5月6日、同社に対し、自主的にドイツ向けアプリストアからアプリを削除し、中国への違法な個人データの移転を停止するか、または適法な第三国移転に必要な法的要件を満たすことを要請した。同社がこれに応じなかったため、コミッショナーは、デジタルサービス法(DSA)16条に基づくプラットフォーム上の違法コンテンツの通報権を行使した。この通報は、2025年6月27日、Apple App Storeの運営者であるApple Distribution International Ltd.およびGoogle Play Storeの運営者であるGoogle Ireland Ltd.に対して送付された。両社は現在、速やかにこの通報を精査し、対応を決定しなければならない。」
    • 「この措置は、バーデン=ヴュルテンベルク州、ラインラント=プファルツ州及び自由ハンザ都市ブレーメンのデータ保護コミッショナーと緊密に連携して講じられたものであり、また、ドイツにおけるDSAの執行を担当するドイツ連邦ネットワーク庁のデジタルサービスコーディネーターに通知した上で実施された。」
  • なお、
    • ベルリンはドイツ連邦共和国の16の州の一つであり、ベルリンデータ保護コミッショナーは、州レベルのデータ保護当局である。ドイツにおいては、連邦レベルのデータ保護当局と州レベルのデータ保護当局が併存している。
    • 連邦ネットワーク庁は、通信行政を所管する官庁である。

 

DSAの規定

  • DSA 16条は、「通知及び措置のメカニズム」を定めている。具体的には、
    • 「ホスティングサービスの提供者は、任意の個人又は団体が、当該サービス上に存在する特定の情報(specific items of information)について、違法コンテンツであると思料する旨を通知できるようなメカニズムを整備しなければならない。」とし(同条1項前段)、
    • 「ホスティングサービスの提供者は、第1項に基づいて受け取った全ての通知を処理し、通知に関連する情報についての決定を、適時かつ注意深く、恣意性なく客観的に行わなければならない。」としている(同条6項前段)。
  • 「違法コンテンツ」は、「情報自体又は製品の販売及びサービスの提供を含む活動に関連して(in relation to an activity, including the sale of products or the provision of services)、EU法又はEU法に準拠した加盟国法に違反するあらゆる情報を意味し、その法令の具体的な対象や性質を問わない。」と定義されている(DSA 3条(h))。
  • また、「違法コンテンツ」に関する前文の記載は、次のとおりである(DSA recital 12)。
    • 「安全で予測可能かつ信頼できるオンライン環境を確保するという本規則の目的を達成するため、「違法コンテンツ」という概念は、オフライン環境における既存の規則を広く反映するものでなければならない。特に、「違法コンテンツ」という概念は、違法なコンテンツ、製品、サービス及び活動に関連する情報を幅広く含むように定義されるべきである。この概念は、適用法の下で違法とされる情報、すなわち、違法なヘイトスピーチやテロリストコンテンツ、違法な差別的コンテンツのように情報自体が違法である場合、又は違法な活動に関連するという理由で適用規則によって違法とされる情報を指すものとして理解されるべきである。
    • 例示としては、児童の性的虐待を描写する画像の共有、同意なしに私的画像を不法に共有する行為、オンラインストーキング、適合していない製品又は偽造製品の販売、消費者保護法に違反する製品の販売又はサービスの提供、著作権保護対象物の無許可使用、違法な宿泊サービスの提供、又は生きた動物の違法販売などが含まれる。…この点において、当該情報又は活動の違法性がEU法によるものか、又はEU法に準拠した加盟国法によるものか、またその法の正確な性質や対象が何であるかは問題ではない。」

 

コメント

  • 越境移転の違法性について
    • ベルリンのデータ保護当局がどのような具体的根拠に基づいて対中越境移転を認定したのかは興味深いが、詳細には説明されていない。対中越境移転に関しては、アイルランドのデータ保護当局であるDPCが5月2日にTikTokに制裁金を課した(プレスリリース)ところであるが、こちらも決定文全文は現時点では公開されていない。越境移転規制違反の法執行は、直接には事業者を対象としつつ、実態としては移転先の国を対象とするものなので(Schrems II判決が示唆し、その後のMetaに対するDPCの制裁金決定が確認したとおり、補完的措置によってガバメントアクセスリスクを低減することは困難である。)、中国のどのような制度がどのように評価されたのかは、興味深い(なお、DPCのプレスリリースは、ベルリンのプレスリリースよりは詳細に制度を摘示している。)。特に、日本は対米越境移転はあまり問題としない一方、対中越境移転は問題としてきたので(例えば2021年のLINEの件;電通法の問題になっており、個情法のエンフォースメント強化には繋がっていないようであるが)、その意味でも興味深い。
  • 域外適用について
    • 日本では、2月、個情委が、「DeepSeekに関する情報提供」と題する注意喚起を行った。これについて、個情委の幹部が、日経に、「「DeepSeekのプライバシーポリシーは中国語と英語のみだ。そのため…現時点で個人情報保護法の規制対象にならないとの立場」を示したことが報道されている
    • しかし、1月28日の時点で日本のApp Store(Webと異なり、明らかに日本所在者に対してアプリという役務を提供するための場である。)の無料アプリランキングで1位となっていたことが報道されており、仮にプラポリが中国語・英語のみであることのみをもって域外適用要件を満たさないと判断したのだとすれば、適切ではなかったと思われる(むしろ、日本所在者に向けて役務提供しているのに日本語での情報提供をしていないという点で、積極的に法執行すべき場面ですらあるようにも思われる。)。
    • また、仮に域外適用要件を満たすかが不明だったのであれば、まさしくそれを判断するために、まずは報告徴収を行うといった対応は考えられたのではないか。
  • ブロッキングについて(個情法の第三者命令、情プラ法の再改正含む)
    • DSAによるGDPRのエンフォースメントという現象は興味深い。
    • DSAは、VLOPs/VLOSEsの提供者に対する規制が注目されがちであるが、①媒介サービス、②オンラインプラットフォーム(OLP)を含むホスティングサービス、③OLP、④BtoC取引を可能にするOLP、⑤VlLOPs/VLOSEs(ここだけ欧州委員会による指定が要件とされている。)のそれぞれの提供者に対し、段階的に追加的な規制を課す構造となっている。「通知及び措置のメカニズム」に関する16条は、このうち比較的基本的な②に属する。
      • なお、EUにおいても、スマホアプリが「情報」に含まれるかは問題となりうるのだと思われるが、違法コンテンツを広く定義した以上、WebアプリとiOS/Androidのネイティブアプリで扱いを分ける意味はないことになるのかもしれない(その前提として、Web/ネイティブアプリ上で流通する情報と、そこで提供される情報処理サービスは違うのだという区別はありうるかもしれないが)。
    • このため、今回のような手法は、広くホスティングサービス全般に応用されうる。一方で、アプリストアは、検索エンジンと並んで、少数の、比較的法令遵守の意思と能力のある事業者によって提供されており、当局にとってゲートキーパーとして使いやすいのだと思われる。DNSブロッキングと比較すると、通信の秘密の侵害を通常伴わない点ではより望ましいが、表現の自由に対する効果という意味でそうかは別論である。
    • 日本においては、個情法の3年ごと見直しにおいて、ホスティングサービスや検索エンジンの提供者に対する要請の仕組みを整備することが検討されている。このような仕組みは、薬機法72条の5第2項で既に(比較的謙抑的な形で)導入されている。どうせ行政指導をするのであれば、そしてそれが奏功しないとすると(予測可能性に欠ける)刑法の共犯規定に一足飛びに頼らざるを得なくなるのだとすれば、このような形で一定のコントロールの下で要請を行うとすることは、むしろ望ましいのではないか。
    • 一方、情プラ法の再改正も検討されている。そこでは、権利侵害情報の削除に関する迅速化規律を違法情報にも適用することが検討されている。EU法と異なり、情報(発信)自体の違法性に着目する点(EU法は前文も考慮すると、違法な活動に関連する情報を広く違法コンテンツとしているように見える。)、迅速に対応すべき通報の主体を行政機関に限定する点で、より謙抑的な方向での検討がなされていると思われるが、それでも情報(発信)自体を間接的・付随的にであるにせよ違法とする法律は数多い。こちらもどうせ行政指導を(透明化規律の趣旨と情プラ法の手続的アプローチと矛盾しかねない形で)するのであれば、仕組みを整備したほうがよいとは思われるが、少なくとも、違法情報は権利侵害情報と比べても政府による権限濫用リスクが大きいこと、日本の裁判所は欧州というよりは米国を参照し、表現の自由の優越的地位を明示的に承認してきたことを踏まえた慎重な議論を経るべきだと思われる。また、表現行為を規制する実体法に過不足がある可能性があるのであれば、その合理化と併せて検討すべきであると思われる。

リクナビ事件・再訪

JILISレポートのリクナビ事件に関する記載をまとめました。

 

JILISレポートの記載

「リクナビ事件におけるスコアリングは…「「リクナビ2020」の会員となった学生等の人生をも左右しうる」というハイリスクな状況で、利用目的の達成に厳密に必要とは言えないデータをもとに個人の評価を行っていたもので、「社会通念に基づき合理的に判断」すると、「利用目的の達成に必要な範囲」を超えた「取扱い」であった、と評価されるのではないか」(p.7)

「〔リクナビ〕事件の問題の本質は、関連性を欠き、(社会通念に基づき合理的に判断して)利用目的の達成に必要とはいえないデータに基づいて、正確性も担保されていないスコアを算出し、それにより学生が内定先から不利益に扱われかねなかったことにあると思われる(同意取得や情報提供をしなかったことは、そのような不適正な利用についての拒否権行使の機会を奪った点で問題とされる)」(p.8)

「〔スコアの信頼性が担保されていないという〕観点からは、この種のスコアないしサービスは、ユーザー企業への説明の仕方次第では、個人情報保護だけでなく、不公正な取引方法(ぎまん的顧客誘引)の問題ともなりうると思われる。」(p.8, note 83)

「仮に処理の法的根拠を導入する場合、リクナビ事件におけるスコアリングは…同意又は契約履行によることが考えられるが、十分な情報提供を行い、かつ契約締結の条件としない形でなければ、同意は無効とされ、また、スコアリングが契約の本質的内容となっていなければ、契約履行に必要な範囲を超えるとされると考えられる(しかし、スコアリングの影響に鑑みれば、いずれも満たすことが困難だったと思われる。)。」(p.8)

「EUのAI法は、ソーシャルスコアリングを「受け入れ難い」として禁止しているが、そこで禁止されるのは、データが生成・収集された文脈とは無関係な文脈における不利益取扱いと、(スコアの元となった)社会的行動の重大性に釣り合わない不利益取扱いである。リクナビ事件は、このどちらにも該当しうるものであり、個情委が「法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービス」と批難し、厚生労働省が「募集情報等提供事業や職業事業等の本旨に立ち返り、このような事業を行わないようにすること」まで要求したことは、既にそのような価値判断を前提としていたのではないか。」(p.10)

 

引用した文書

個情委8月勧告

リクルートキャリアが大量に取り扱う個人情報は、求人企業の採用活動に関わる情報であり、「リクナビ2020」の会員となった学生等の人生をも左右しうることから、その適正な取扱いについては重大な責務を負っていると認められる。また、リクルートキャリアは、自らが個人情報を取得するだけでなく、多くの個人情報取扱事業者からの委託を受け、個人情報を取り扱っており、これらの情報を適切に区分し、安全に管理する必要がある。」

(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律第42条第1項の規定に基づく勧告等について」(令和元年8月26日)

 

個情委12月勧告

「2018年度卒業生向けの「リクナビ2019」におけるサービスでは、個人情報である氏名の代わりにCookieで突合し、特定の個人を識別しないとする方式で内定辞退率を算出し、第三者提供に係る同意を得ずにこれを利用企業に提供していた。/リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」(令和元年12月4日)

 

厚労省通達

本人同意なく、あるいは仮に同意があったとしても同意を余儀なくされた状態で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に募集企業に提供することは、募集企業に対する学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働くおそれが高い。このことは本人同意があったとしても直ちに解消する問題ではなく、職業安定法第51条第2項に違反するおそれもあるため、今後、募集情報等提供事業や職業紹介事業等の本旨に立ち返り、このような事業を行わないようにすること。

厚生労働省職業安定局長「募集情報等提供事業等の適正な運営について」(職発0906第3号、第4号)(令和元年9月6日)

 

立案担当者解説

「利用目的の達成に必要な範囲」とは、第15条に基づいて特定された利用目的に照らして必要となる利用の範囲のことである。…どこまでが「必要な範囲」かについては、当該個人情報と利用目的に則し、個別具体的に判断する必要がある。例えば、配送先の管理という利用目的のために年齢、性別、家族構成の取得・蓄積は必要か、信用付与という利用目的のために信用情報がどの程度必要か、また、顧客管理という利用目的のための取扱いに顧客に対する情報提供サービスの実施は含まれるか、等について、社会通念に基づき合理的に判断する必要がある。

(園部逸夫=藤原靜雄編著『個人情報保護法の解説 第三次改訂版』153頁(ぎょうせい、2022))

 

職安指針

第五 求職者等の個人情報の取扱いに関する事項(法第五条の五)
一 個人情報の収集、保管及び使用
(二) 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、特定募集情報等
提供事業者、労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者は、その業務の目
的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集することとし、
次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存
在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人か
ら収集する場合はこの限りでないこと。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるお
それのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況

「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号)(最終改正:令和4年厚生労働省告示第198号)

 

業務運営要領

(ロ) 有料職業紹介事業者は、求職を受理する際には、当該求職者の能力に応じた職業を紹介 するため必要な範囲で、求職者の個人情報(以下「個人情報」という。)を収集すること とし、次に掲げる個人情報を収集してはならない。
ただし、特別な業務上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠で あって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りではない。
(a) 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
(b) 思想及び信条
(c) 労働組合の加入状況

(a)から(c)については、具体的には、例えば次に掲げる事項等が該当する。
(a)関係
a 家族の職業、収入、本人の資産等の情報(税金、社会保険の取扱い等労務管理を適切
に実施するために必要なものを除く。)
b 容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報
(b)関係 人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書
(c)関係 労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報

厚生労働省職業安定局「職業紹介事業の業務運営要領」

 

AI法5条1項(c)(ソーシャルスコアリング)

1. The following AI practices shall be prohibited:

(c) the placing on the market, the putting into service or the use of AI systems for the evaluation or classification of natural persons or groups of persons over a certain period of time based on their social behaviour or known, inferred or predicted personal or personality characteristics, with the social score leading to either or both of the following:

(i) detrimental or unfavourable treatment of certain natural persons or groups of persons in social contexts that are unrelated to the contexts in which the data was originally generated or collected;

(ii) detrimental or unfavourable treatment of certain natural persons or groups of persons that is unjustified or disproportionate to their social behaviour or its gravity;

 

証券取引とデジタル技術・ソーシャルメディアに関するIOSCOの4文書の紹介

証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)は、5月、証券会社等によるデジタル技術の使用やソーシャルメディアのリスクに関する4つの文書を公表しています:オンライン模倣取引慣行、デジタルエンゲージメント慣行、フィンフルエンサー、オンライン・ハームとプラットフォーム提供者の役割。

デジタル法制(特にEUのDSA;日本でも論点整理案が公開されたところです。)との関係でも興味深いと思いますので、エグゼクティブサマリー(online harmの件については全文)の訳文を掲載します。なお、訳文は自動翻訳で作成したものをベースにしており、逐語的な確認はしていませんので、ご留意ください。

 

オンライン模倣取引慣行

FR/06/2025 Online Imitative Trading Practices: Copy Trading, Mirror Trading, Social Trading (19 May 2025)

オンライン取引プラットフォームとモバイル取引アプリの普及は、小売取引環境を再構築した。これらの取引モデルは、個人投資家にとって金融市場をより利用しやすくした。模倣取引戦略(コピー取引、ミラー取引、ソーシャル取引など)は、コピー取引者として知られる個人投資家が、リード取引者と呼ばれるより経験豊富または専門的な取引者の取引を自動的に複製することを可能にすることを意図している。このアプローチは、広範な市場投資知識や積極的な意思決定を必要とせずに、個人投資家が金融市場に投資する簡単な方法として販売されることが多い。

しかし、模倣取引戦略は主に短期的で潜在的により高リスクな取引戦略と関連して、外国為替や暗号資産などのより複雑で潜在的に変動性の高い金融商品を含むことが多い。これは、レバレッジ商品からの損失や頻繁な取引による高い取引手数料によるリターンの侵食を含む重大なリスクに個人投資家をさらす可能性がある。

本最終報告書で強調された重要な懸念は、これらの戦略の自動化された性質が投資家に害を及ぼす可能性である。個人投資家は、特に積極的な監視や介入なしに自動的に取引を模倣している場合、投資の意味を完全に理解していない可能性がある。

これは、個人投資家が自分の財務状況(損失を負担する能力を含む)や投資目標(リスク許容度を含む)に沿わない戦略を模倣し、特にリード取引者が高リスク戦略に従事したり、関連するリスクやコストについて適切な開示を提供しなかった場合に、重大な損失をもたらす可能性がある戦略を模倣することにつながる可能性がある。

しばしば経験豊富または成功した投資家として提示されるリード取引者の認識された信頼性は、特に彼らの資格や実績が独立して検証されていない場合、真のリスクレベルをさらに曖昧にする可能性がある。

さらに、本最終報告書は、模倣取引戦略とソーシャルメディアを通じて取引プラットフォームや戦略を宣伝するフィンフルエンサー(いわゆるフィンフルエンサー)の活動との間の接点の拡大を特定している。これは、認可され規制された金融助言の提供と一般的な金融情報の提供との間の境界線を曖昧にし、個人投資家にとってさらなるリスクを生み出す可能性がある。

これらの課題に対応して、本最終報告書はIOSCOメンバーと市場仲介業者にとって有用である可能性があるガイダンスとしてグッドプラクティスを特定している。グッドプラクティスは、模倣取引戦略の領域における投資家保護の強化を目的としている。

本最終報告書において、「オンライン模倣取引戦略」または「オンライン模倣取引慣行」という用語は、コピー取引、ミラー取引、ソーシャル取引を包括的な用語として含むことがある。IOSCOアンケートに回答した規制当局の大部分は、コピー、ミラー、ソーシャル取引を区別していなかった。これらの用語はしばしば互換可能に使用されており、これは部分的に、これらの取引戦略が自らの管轄区域の市場仲介業者によって広く提供されていないという事実によるものである。

「コピー取引」と「コピートレーダー」は「オンライン模倣取引戦略」または「オンライン模倣取引慣行」に最も一般的に使用される用語であるため、これらの用語は本最終報告書を通じて互換可能に使用されている。

■オンライン模倣取引戦略に関するグッドプラクティス

コピー取引を提供する市場仲介業者は、以下を行うべきである。

  • 関連する管轄区域の適用される法律および規制を遵守するために、自らのコピー取引サービスが投資助言の提供および/または個別ポートフォリオ管理および/または登録またはライセンスを必要とするその他の規制活動またはサービスの提供に該当するかどうかを検討する。
  • コピー取引サービスの宣伝に関する自らのマーケティング活動および市場仲介業者のプラットフォームで活動するリード取引者によって実施されるマーケティング活動を、該当する場合には、仲介業者がリード取引者に支払いまたは提供する報酬およびインセンティブならびにコピー取引者に悪影響を与える可能性のある利益相反の開示要件を含む、管轄区域の規制要件への遵守について監視する。
  • リード取引者の資格、知識および能力のレベル、ならびにリード取引者に関する苦情の数と性質を特に考慮して、市場仲介業者のプラットフォームで活動するリード取引者の選定と除名のための手続きを設定する。
  • 可能であれば強化された監視のためのテクノロジーを使用して、関連する管轄区域の適用される法律および規制への遵守について、市場仲介業者のプラットフォームでのリード取引者の行動およびコピー取引者の結果を定期的に審査する。
  • 市場仲介業者のリード取引者の報酬構造がリード取引者とコピー取引者の間または市場仲介業者とコピー取引者の間で利益相反を生じさせる可能性がある場合を含む、コピー取引サービスの提供において生じる可能性のある利益相反を評価する。

さらに、本最終報告書は、投資家がオンライン模倣取引戦略に関連するリスクを理解するのを助ける手段として投資家教育の促進の重要性を強調している。検証されていないリード取引者に従うことの潜在的なリスクや基礎となる金融商品の複雑さを含む、そのような慣行の潜在的な落とし穴について投資家を教育することは、投資家がより情報に基づいた決定を行うことを可能にする。

強化された投資家教育イニシアティブは、個人投資家がフィンフルエンサーの宣伝活動および市場仲介業者のマーケティング活動に対してより批判的な視点を開発するのにも役立つ。

 

デジタルエンゲージメント慣行

FR/07/2025 Digital Engagement Practices (DEPs) (19 May 2025)

※engagementはひとまず「エンゲージメント」と訳したが、「働きかけ」と訳すのがよいか。

デジタルエンゲージメント慣行(DEP)は個人投資家のアクセスを改善し、選択肢を拡大しうる。適切に使用された場合、DEP(例:通知、ナッジ、ゲーミフィケーションなどのデジタルエンゲージメント技術)は、エンゲージメント、金融リテラシーの構築、および前向きな成果の推進のための強力なツールとなり得る。金融サービスの文脈において、ゲーミフィケーションは若い個人投資家など新しい層を投資に引き付けうる。DEPによる取引活動の増加は流動性を改善し、取引コストを削減する可能性がある。

しかし、DEPは投資家の利益にならない場合でも個人投資家による頻繁な取引を促す可能性があるため、投資家の損害をもたらす場合もある。また、個人投資家をリスクの高い商品への投資に誘導したり、リスクを認識または理解することなく投資戦略を変更させたりする可能性もある。同様に、市場仲介業者が個人投資家の行動に影響を与えて個人投資家の不利益となる収益成長を推進するためにDEPを使用する場合、DEPは潜在的な利益相反を生み出す可能性がある。

個人投資家に対するDEPの潜在的影響(プラスとマイナスの両方)の結果として、IOSCOはDEPに関する共通理解を構築し、新興のDEP技術および関連する行為と個人投資家保護の問題を検討し、市場仲介業者によるDEPの使用の増加が個人投資家に与える影響を理解することが有益であると考える。

この目的のため、本最終報告書は、既存のIOSCOの業務、メンバーのDEPに対する規制アプローチ、およびその他の国際基準とガイダンスを検討して潜在的な問題とギャップを特定している。ただし、市場仲介業者によるDEPの使用増加から生じる可能性のある課題に規制当局およびその他の利害関係者がどのように対処すべきかについて、現在のところ世界的な基準は存在しないことに留意すべきである。

 

フィンフルエンサー

FR/08/2025 Finfluencers (19 May 2025)

フィンフルエンサーは、ソーシャルメディアプラットフォームを活用して投資関連コンテンツを共有する個人であり、一般的な金融教育から具体的な株式の推奨まで幅広い内容を扱っている。彼らはしばしば専門家として自らを提示し、個人的な経験、市場分析、投資のヒントを魅力的でアクセスしやすい方法で共有している。

彼らの存在感の高まりは、リテール投資家、特に若い世代の投資決定の仕方を変革している。彼らは金融トピックの普及と投資情報へのアクセス拡大において重要な役割を果たしている一方で、その活動はリテール投資家に新たなリスクももたらしている。これらのリスクには、誤解を招く情報や偏った情報の拡散の可能性、より高リスクまたは複雑な商品の宣伝、利益相反の不十分な開示が含まれる。

証券監督者国際機構(IOSCO)の本最終報告書は、フィンフルエンサーの発展の状況、関連する潜在的利益とリスク、および各管轄区域における現在の規制対応を検討している。報告書は、多くのフィンフルエンサーが従来の金融規制枠組みに精通しておらず、それらの枠組みの外で活動している可能性がある(証券法制に違反しているか、またはそのような規制枠組みが彼らの活動に適用されない)ことを強調し、執行および監督に課題をもたらしている。

本最終報告書は、特に登録された投資助言専門家に求められる専門資格や監督なしにリテール投資家に影響を与える未登録の個人について、規制対象範囲の潜在的なギャップを特定している。さらに、ソーシャルメディアの世界的な広がりは管轄区域の監督と執行を複雑にし、証券規制当局間の国際協力の強化を必要としている。

これらの課題にもかかわらず、様々な管轄区域の証券規制当局は、監督措置、執行措置、教育イニシアティブの組み合わせを通じてフィンフルエンサー現象に対処し始めている。本最終報告書は、フィンフルエンサーおよびフィンフルエンサーを使って商品を宣伝する市場仲介業者に対して取られた執行措置の例を概説している。これらの措置には、不正行為を抑制し投資家を保護することを目的とした停止命令、金銭的制裁、公的警告が含まれる。

さらに、一部の管轄区域では、特にライセンス、開示、利益相反管理の問題を中心に、フィンフルエンサーの活動をより適切に包含するために既存の規制枠組みを適応させている。

教育は、フィンフルエンサーに関連するリスクを軽減する上で重要な役割を果たしている。本最終報告書は、証券規制当局によって実施された様々な投資家教育イニシアティブを詳述しており、これにはソーシャルメディアキャンペーン、インタラクティブツール、フィンフルエンサーのアドバイスに従うことの潜在的な落とし穴への認識を高めるための教育機関との協力が含まれる。

フィンフルエンサーについては、一部の証券規制当局が法的・倫理的基準の理解を向上させるための対象を絞った教育コンテンツを開発し、透明性とバランスの取れたコミュニケーションの重要性を強調している。

フィンフルエンサーによって生じる新たな課題に対処するため、本最終報告書は証券規制当局、市場仲介業者、およびフィンフルエンサー自身のための包括的なグッドプラクティスのセットを提案している。これらの提案されるグッドプラクティスは、フィンフルエンサーが投資家保護措置を含む証券規制に準拠して活動する、より透明でアカウンタブルな環境を促進することを目的としている。

本報告書が提案するグッドプラクティスには、以下のものが含まれる。

  • 規制の明確性と監督:それぞれの委任事項と規制権限に合致して、証券規制当局は、管轄区域内に該当するフィンフルエンサー活動の範囲を明確に定義し、ギャップが存在する可能性がある場合にはこれらの活動を対象とするために既存の枠組みを適応させることを検討すべきである。これには、規制枠組みがフィンフルエンサーにどのように適用されるかについての具体的なガイドラインの設定、およびデータ分析とソーシャルメディア監視ツールを通じた監視と執行能力の強化が含まれる。
  • 利益相反の検出、開示、管理:それぞれの委任事項と規制権限に合致して、証券規制当局は市場仲介業者に利益相反を特定し対処するためのすべての適切な措置を取ることを要求することを検討するよう奨励される。例えば、規制義務に合致して、IOSCOメンバーは、フィンフルエンサーを使用する市場仲介業者が利益相反を管理し、投資家保護に関連する要件を含む規制要件と一致するように宣伝を確保するための堅牢なコンプライアンス措置を実施するガイダンスを提供することを検討すべきである。
  • 開示と透明性の強化:それぞれの委任事項と規制権限に合致して、証券規制当局は、投資家が消費しているコンテンツの性質を理解できるよう、フィンフルエンサーによる標準化された免責事項と明確で簡潔な開示の使用を要求することを検討すべきである。これには、アドバイスが提供されているかどうか、およびフィンフルエンサーが推奨に対して報酬を受けているかどうかの明確化が含まれる。
  • 積極的な投資家およびフィンフルエンサー教育:投資家とフィンフルエンサーの両方に対する継続的な教育が重要である。証券規制当局は、リテール投資家の金融リテラシーと批判的評価スキルを向上させるために、インタラクティブなオンラインツール、公的認識キャンペーン、教育機関との協力プロジェクトなどの革新的な教育イニシアティブを引き続き開発することを検討すべきである。それぞれの委任事項と規制権限に合致して、証券規制当局は規制義務に関するフィンフルエンサーへのアウトリーチも検討すべきである。

これらの提案されるグッドプラクティスに加えて、本最終報告書はフィンフルエンサーをフォローしまたは影響を受けるリテール投資家のための実践的なヒントを提供している。リテール投資家は以下のことが推奨される。

  • 資格の確認:フィンフルエンサーが金融アドバイスを提供するライセンスまたは資格を持っているかどうかを常に確認する。信頼できる情報源を探し、登録された投資専門家と推奨事項を相互参照する。
  • 高収益の約束への懐疑:迅速な利益や保証された収益の非現実的な約束をするフィンフルエンサーには注意を払う。これらは潜在的に高リスクまたはより複雑な商品や詐欺的スキームの一般的な指標である。
  • 利益相反の理解:フィンフルエンサーが特定の商品を宣伝することに対して報酬を受け取る可能性があることを認識する。有料宣伝に関する開示を探し、アドバイスが自分の金融目標とリスク許容度と一致するかどうかを検討する。
  • 独立した調査の実施:フィンフルエンサーのアドバイスのみに依存してはならない。信頼できる情報源から独自の調査を行い、十分な情報に基づいた投資決定を行うために登録された金融専門家からアドバイスを求める。

フィンフルエンサーの影響が成長し続ける中、規制当局、市場参加者、およびフィンフルエンサー自身が、投資家保護を優先する十分に規制された環境を確保するために本最終報告書で示されたフィンフルエンサーのためのグッドプラクティスを採用することを検討すべきである。これらのベストプラクティスを検討することにより、フィンフルエンサーの利益を活用しながら同時にリテール投資家への潜在的リスクに対処すべきである。それにより、より透明で強靭な金融エコシステムを促進すべきである。

 

オンライン・ハームとプラットフォーム提供者の役割

IOSCO's Statement on Combatting Online Harm and The Role of Platform Providers (21 May 2025)

リテール投資家は資本市場への参加を増加させており、この傾向は、金融商品およびサービスの宣伝と購入のためのモバイルアプリ、ソーシャルメディア、プラットフォームプロバイダーのオンラインプラットフォームの使用を含むデジタル化によって加速されている。

デジタル化による利用しやすさの向上は資本基盤を拡大し、競争を激化させ、コストを削減した一方で、新たなリスクも生み出している。リテール投資家は、オンライン有料広告およびユーザー生成コンテンツを通じて組織された投資詐欺により重大な金額を失っている。

規制当局とプラットフォームプロバイダーは、これらのリスクから生じる潜在的な投資家被害を軽減するために戦略的に位置づけられている。IOSCOは現在の脅威を懸念し、プラットフォームプロバイダーが提供するサービスへの公共の信頼をも脅かす投資家への金銭的被害のリスク削減を目的とした努力を、現地法に合致して強化することをプラットフォームプロバイダーに求めている。

協力することで、我々はリテール投資家を支援し、市場の健全性を維持し、特にオンライン被害の越境性を考慮して、世界的に金融被害を防ぐことができる。

これらの努力を促進するため、IOSCOは2025年3月にIOSCO国際証券商品警告ネットワーク(I-SCAN)を開始した。これは、投資サービスを提供または違法な金融活動に従事する無免許企業のグローバルデータベースである。プラットフォームプロバイダーは現在、I-SCANに自動的に接続してプラットフォームから違法な投資募集をブロック、警告、または除去することにより、投資家保護において重要な役割を果たす機会を有している。

IOSCOは、リテール投資家を標的とする悪意のある行為者による商品およびサービスの悪用を阻止するために一部の管轄区域の一部のプラットフォームプロバイダーによる現在の努力を歓迎し強く支持しているが、具体的な成功を達成するためには継続的に改善されるアプローチが必要である。

IOSCOは、金融不正行為を含むオンライン被害を阻止するのに役立つ、一部の管轄区域で現在使用されている以下の措置を特定し、プラットフォームプロバイダーが現地法に合致してこれらの措置を採用することを検討するよう奨励する。

  • 無許可募集に対するデューデリジェンス:I-SCANの使用を含むデューデリジェンスを実施し、プラットフォーム上で有料コンテンツの広告を求める事業体が対象管轄区域において法的に営業を許可されており、規制当局による投資家警告の対象となっていないことを確保する。
  • ユーザーコンプライアンス:プラットフォームポリシーに違反する投資詐欺コンテンツまたは広告を監視し迅速に除去することにより、適用されるサービス利用規約を厳格に執行する。
  • 内部プロセス:詐欺を検出するための適切な内部規則、ポリシー、プロセス、およびツールを開発し定期的に更新する。
  • 法的要件:プラットフォームプロバイダー会社が事業を行う管轄区域におけるすべての適用される現地法および規制の知識と遵守を確保する。
  • 規制当局との直接的関与:特定された詐欺活動の紹介を含む効果的な情報共有を可能にするために、金融規制当局および政府当局との積極的なコミュニケーションチャネルを確立する。国内規制当局との協力は、オンライン金融不正行為と闘うための調整された管轄区域固有の戦略の作成に役立つ。

したがって、IOSCOは本日、プラットフォームプロバイダーに対し、オンライン被害と闘い、詐欺を行うために彼らのサービスが悪用されることを阻止するこの緊急の努力に参加することを呼びかける。

MCデータプラスに対する排除措置命令の一部執行停止決定について

一部執行停止決定がされていたのでメモです。

 

事実関係に関するメモ

  • 公取委は最新のデータの提供を命じようとしたが、誤ってユーザーが入力したデータ(第三者により上書きされていることがあり、その場合上書き前のデータを復元する必要があるので、多大な労力を要する。)の提供を命じてしまった。
  • 対象者は上記多大な労力を「重大な損害」と主張して、執行停止を申し立てた。
  • 公取委は最新のデータの提供を命じる趣旨と主張したが、裁判所はこれを認めず、上書きされたデータの提出を命じた限りで排除措置命令の執行停止を命じた。
  • また、対象者は上書きされていないデータについて、これをユーザーに提供することは、
    • 第三者提供制限違反であり、また、
    • ユーザーが第三者提供制限に違反してスイッチ先のクラウドサービス提供者に第三者提供することを予見しながらユーザーに提供することであって、不適正利用であること
      を主張した。
  • 裁判所はこれを認めず、残りの申立て(つまり排除措置命令のうち上書きされていないデータに係る部分の執行停止の申立て)は棄却した。

 

判示(個情法関係)

長いので【】で見出しを付けた。

  • 第三者提供制限関係
    • 「申立人は、ユーザーが作業員情報を利用できる目的は、申立人のサービスにおける利用に限定されているから、本件命令(主文第1項)により、本人の事前の同意を得ないまま作業員情報を提供することが避けられないこととなり、個人情報保護法27条1項に違反する行為を強制されると主張する。」
    • 「しかしながら、【考慮要素1】前提事実⑵のとおり、関係法令上、元請会社に作成が義務付けられている施工体制台帳や施工体系図は、協力会社から提出される再下請通知書等の労務安全書類を基に作成されるものであり、各協力会社は、当該工事現場の工事に関与する自社の作業員に関する名簿(作業員名簿)を作成し、元請会社に提出しているものであることからすれば、別紙3記載の項目に係る情報については、作業員からユーザーの労務管理一般のために提供されることが想定されているものであるといえる。【考慮要素2】現に、元請会社の中には、協力会社及び各作業員から、工事施工に関して取得する個人情報があり、それについては、施工監理、安全管理の遂行、連絡及び建設業法、労働安全衛生法等の関係法令の要望事項を履行するために利用することなどを公表している事業者が見受けられる(乙4、5、11)。【考慮要素3】そして、申立人の営業担当部長も、ユーザーは社会通念上、自社の作業員から雇用契約等で自社の事業活動のために作業員の個人情報を利用することについて同意を得ていると考えられると述べているところである(甲27の6・7頁、乙13・5頁)。【結論】以上の事情を総合すると、提供先ユーザーが登録した作業員情報については、当該作業員は、自身の安全や仕事の遂行に関わる個人情報である当該情報を、自らに対する労務安全管理のために必要であることから、自己の雇用主等に提供(伝達)していることが一応認められ、当該作業員は、その提供(伝達)の際、提供先ユーザーが、当該作業員の労務安全管理のために、当該情報を取得及び利用することに黙示的に同意しているものと一応推認される。そして、当該作業員が、本件サイトにおける利用のためだけに限定して当該情報を提供(伝達)した事実は認められず、上記推認を覆すに足りる疎明資料はない。」
  • 不適正利用関係
    • 「申立人は、本件命令(主文第1項)により、提供先ユーザーに第三者・提供を行おうとする際に、提供先ユーザーが他社サービスの運営事業者に対して個人情報保護法27条1項に違反して個人情報データの提供を行うことが予見できるにもかかわらず当該提供先ユーザーに個人情報データを提供することとなり、個人情報保護法19条に違反する行為を強制されると主張する。」
    • 「しかしながら、前記⑴で説示したところによれば、【考慮要素1】①実務上、労務管理一般のために作業員情報が提供されることが求められており、作業員も、自身の労務安全管理のために、当該作業員情報が利用されることに黙示的に同意しているものと一応推認され、これが本件サイトにおける利用のみに限定された同意であるとは認め難い。このほか、【考慮要素2】②申立人の競争事業者である株式会社≪A≫及び≪B≫株式会杜も、それぞれの利用規約において個人情報を適切に取り扱うことを規定しているところ(乙9、10)、一件記録に照らしても、申立人の運営する本件サイトと、申立人の競争事業者が運営するクラウドサービスは、いずれも作業員の労務安全管理のためのツールを提供するものであるところ、両者について、作業員が、前者で利用されることには同意するが後者で利用されることには同意しないと区別しているとみるべき事情はうかがわれないこと、【考慮要素3】③もとより、ユーザーは、⑴作業員情報が記載されたPDF形式の帳票(作業員名簿)を自ら本件サイトから出力することにより当該作業員情報の提供を受けることができる上、⑵その内容を他社サービスの利用のために用いること(そのファイル形式をOCR技術の利用や手作業によりPDFファイルからCSVファイル等に適宜修正した上で、当該作業員情報を申立人に競争事業者に提供すること)もできるところ、申立人も、上記⑴を個人情報保護法違反とはしていないし、上記⑵を禁止してもいないこと(前提事実⑶ウ、審尋の全趣旨)をも総合すると、【結論】作業員は、自己の作業員情報を本件サイトに登録した提供先ユーザーが、当該作業員に対する労務安全管理のために他社サービスにおいて利用すべく、申立人から当該作業員情報を取得することについても、黙示的に同意している蓋然性が相当程度あるといえる。そうすると、申立人が本件命令に従って提供先ユーザーに作業員情報を提供することが、提供先ユーザーが他社サービスの運営事業者に対して個人情報保護法27条1項に違反して個人情報の提供を行うことが予見できるにもかかわらず当該提供先ユーザーに個人情報を提供することにはならず、違法又は不当な行為を助長又は誘発するおそれがあるとは認められないというべきである。」
    • 「さらにいえば、申立人の競争事業者が運営するサービスにおける利用について作業員の同意があるならば、申立人がいう個人情報保護法19条違反は問題にならないというだけでなく、仮に同意がないのであれば、その同意を提供先ユーザー又は当該競争事業者が取得すればよいのであって、申立人は、そのようにするよう提供先ユーザーに注意喚起することもできる。そうした場合に、申立人が個人情報保護法19条違反に問われることは、ますます考え難い。」

 

個情法に関するメモ

下線部を追記しました(2025/5/28)。長めの引用はイタリックにしています。

  • 本件の位置付け
    • 公取委は、2022年に、「クラウドサービス分野の取引実態に関する報告書」(「クラウド報告書」)と「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」(「情報システム報告書」)を公表している。
    • 本件は、クラウドサービス提供者に対する初の処分事例と報道されているが、クラウド報告書で指摘された「クラウドサービス市場の特徴」(38頁以下)が濫用されたものとは言い難い。むしろ、(程度問題ではあるものの、)情報システム報告書において指摘された、「官公庁…に対し,合理的な理由が無いにもかかわらず,他のベンダーに対して仕様の開示を拒否すること,他の情報システムとの接続を拒否すること,又は既存システムから新システムへのデータ移行を拒否すること…などにより,他のベンダーが,官公庁の情報システムに関する入札に参加することや受注することができないようにさせる場合」(50頁)に近いと思われる。
    • もっとも、クラウド報告書が問題視するような行為についても、独禁法(のうち取引妨害を含む他者排除行為に関する規定)を適用しようとすれば、通常どおりの市場画定と排除効果の認定を行う必要があり(クラウド報告書36頁、注43、注44)、「クラウドサービス市場の特徴」それ自体が違反の成否を左右するわけではない。本サービスのように、業界・用途が限定されたクラウドサービスは、クラウド報告書にいう「クラウドサービス市場の特徴」は備えていないことが多いが、そうであればこそ、相対的に容易に排除効果が認められうる。
  • 個情法上の論点の位置付け
    • 情報システム報告書は、前記引用部分に続けて、「合理的な理由」がない例として、「知的財産権やノウハウとは無関係な部分であるにもかかわらず,それらを理由として開示等を拒否すること」を挙げている(51頁)。この知財・ノウハウが個情法に置き換わったのが本件であると言える。
    • 個情法に関する主張は、それ自体としては、およそ合理性のある主張ではなかったのであり、それを理由とした執行停止が認められなかったのは、当然のことだと思われる。
  • 個情法27条に関する判示について
    • 個情法27条について、共同利用の目的以外の目的のための提供は、共同利用の相手方に対する提供であっても、同条5項3号の要件を満たさない、との解釈(同号の文言からは必然的なものではない。)が前提とされているようにも思われる。しかし、27条は、18条の特則として、利用目的の範囲内であるか範囲外であるかを問わず、(原則として)同意を要求したものであるから、同項3号の解釈としても、共同利用の目的以外の目的のための提供であっても、同号に該当し、ただ、そのような提供(取扱い)は、18条に違反する、と解釈するほうが自然なのではないか。
    • もっとも、このことは、本決定の結論には影響しないと思われる。後者の解釈によったとしても、27条1項の同意の認定が、18条1項の同意の認定に置き換わるだけだからである。
  • 個情法19条に関する判示について
    • 個情法19条について、スイッチ先のクラウドサービス提供者に対する(ユーザーからの)提供に、同意が必要となることが前提とされている。仮に(多くのクラウドサービスがそうであるように)委託と構成されていたとすれば、27条1項(又は18条1項)の同意は必要ないため、19条の論点は、このように特異なスキーム(ただし、後述のとおり競争者も同様のスキームを採用している。)の下で生じたものであることに留意する必要がある。
    • もっとも、このことも、本決定の結論には影響しないと思われる。本決定は黙示の同意を認めているからである(同意と委託のどちらかがあれば、個情法27条1項にいう「提供」は適法になしうる。)。
  • 同意の認定(27条・19条に関する判示に共通)
    • 総合考慮で黙示の同意(ないし推定的同意。金融分野個人情報保護ガイドラインQ&A 6-4参照)が認められているのは、日本の個情法の実務からすると違和感はないが、他の公法上の同意(例えば刑法上の同意)や、GDPR上の同意との比較においては、やはり特異に映る(JILISレポート11頁の「(4) 契約履行のための提供」とそこに付された脚注を参照)。
  • MCDPが共同利用者とされていることについて(本排除措置命令及び本決定を離れた検討)
    • クラウドサービスに係る個人情報保護の実務からすると、そもそもMCDPが共同利用者の一人となっている点が、特異に感じられる。
    • 排除措置命令書から窺われる)実態を素直に反映すれば、①建設業者間は第三者提供、各建設業者とMCDP間は委託と整理するか、②建設業者間は共同利用、各建設業者とMCDP間は委託と整理するのが一般的だと思われる。このように整理した場合、ユーザーへのデータの提供は、委託者に対する提供(「委託戻し」などと呼ばれることがある。)として、そもそも第三者提供制限の対象にならない。一方、共同利用の場合、共同利用の目的以外の目的で利用することは、目的外利用となり、同意が必要になる。このように、クラウドサービス提供者が共同利用者となること自体、スイッチングコストを引き上げる面がある。
    • 共同利用を採用しているのは、MCDPだけではない。排除措置命令書で競争者として言及されているシェルフィー及びリバスタもまた、共同利用としている(Greenfile.work利用規約54条2項、Buildee利用規約18条4項、Buildeeにおける個人情報の共同利用について)。なぜこうなっているのかは分からないが、仮に今後本案の審理が進めば、訴訟記録から分かることがあるかもしれない。
    • もっとも、クラウドサービス提供者を共同利用者の一人としていた/すること自体が、個情法27条1項3号を満たさないかを考えると、少なくともこれまでの解釈による限り、必ずしもそうとは言えないと思われる立案担当者解説通則ガイドラインには、共同利用の限界が実質的に示されていないからである。これは、2012年頃問題となったTポイントの件で既に顕在化していた論点である(当時の記事として、例えば鈴木先生のインタビューが掲載されたTカードは個人情報保護法違反に該当するのか? | プレタポルテ by 夜間飛行
      • 「共同利用の限界が実質的に示されていない」というのは、個情法の文言に即して言えば、2753号の「特定の者との間で共同して利用される個人データが当該特定の者に提供される場合」がどのような場合かが示されていないということである。通則編ガイドラインは、「「共同利用の趣旨」は、本人から見て、当該個人データを提供する事業者と一体のものとして取り扱われることに合理性がある範囲で、当該個人データを共同して利用することである。/したがって、共同利用者の範囲については、本人がどの事業者まで将来利用されるか判断できる程度に明確にする必要がある。なお、当該範囲が明確である限りにおいては、必ずしも事業者の名称等を個別に全て列挙する必要はないが、本人がどの事業者まで利用されるか判断できるようにしなければならない。」としているが、明確にしさえすればどのような事業者との間でも共同利用が認められるのかは、明らかではない。「【共同利用に該当する事例】」として挙げられている例からすると、より実質的な一体性が求められているようにも思われるが、その外縁は明らかではない。
    • なお、この問題は、敢えて独禁法上位置付けるとすれば、「仮にMCDPが共同利用者の一人となることが個情法27条5項3号を満たさないのであれば、公取委の排除措置命令は違法行為の継続を命じるものであることになる」という意味で、排除措置命令の適法性の問題であるといえる。ただ、本決定は、黙示の同意を認めており、そのような同意が認められる限り、この論点は、排除措置命令の適法性には影響しない(同意と共同利用のどちらかがあれば、個情法27条1項にいう「提供」は適法になしうるからである。)。

「肖像と声のパブリシティ価値に係る現行の不正競争防止法における考え方の整理について」について

肖像と声のパブリシティ価値に係る現行の不正競争防止法における考え方の整理について」について、気になった点のメモです。

 

商品等表示関係

  • 資料の記載
    • 「<事例①>生成AIを用いて、ある人物の肖像を使用した写真を作成し、それを販売した場合/当該人物が周知な人物であれば、不競法第2条第1項第1号によって対処し得る。」
    • 「<事例③>ある人物と同一の声を出力することができる生成AIを用いて、当該生成AIに当該人物の持ち歌ではない曲を歌わせ、それを動画投稿プラットフォームに投稿した場合/当該人物の声が周知であれば、不競法第2条第1項第1号によって対処し得る。/ただし、打ち消し表示(例:「AI○○に歌わせてみた」)が付されている場合には、不競法第2条第1項第1号では対処が難しいが、理論上は、著名性が認められれば、不競法第2条第1項第2号にて対処可能。」
    • 「<事例④>ある人物と同一の声を出力することができる生成AIを用いて、当該人物の声を使用した目覚まし時計を作成し、それを販売する場合/当該人物の声が周知であれば、不競法第2条第1項第1号によって対処し得る。/声だけでなく、声と特徴的な台詞とがセットになって使用されている場合は、より広く不競法第2条第1項第1号において対処し得る。」
  • メモ
    • 「ある人物の肖像を…」とあるが、実際に訴訟になれば、本当にその人物なのかがまず争われるのだと思われる。
    • 「周知(な人物)であれば」とあるが、正確には、周知である必要があるのは商品等表示であり、かつ、周知性の中身としては、当該人物の営業を表示するものとしてのそれが求められている(例えば、当該人物が演じている特定のキャラクターの表示としての周知性を立証しても、当該人物の商品等表示としての周知性の立証にはならない。)。このことを考えたとき、肖像はともかく、声の周知性の立証は相当に困難なのではないか。
    • 通常商品等表示とはいえないものが商品等表示となるためには、特別顕著性が要求されてきた。資料においては、そのことへの言及はないが、肖像はともかく、声についてそれは不要なのか。

 

誤認惹起・信用毀損

  • 資料の記載
    • 「<事例②>生成AIを用いて、ある人物の肖像を使用した広告を作成し、それを広告として使用した場合/当該人物が広告対象の商品・役務と関連する分野において信用のある人物であれば、不競法第2条第1項第20号・第21号によって対処し得る。」
  • コメント
    • 誤認惹起における表示は「その商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示」でなければならない(不競法2条1項20号)。誰が広告に出演しているかが商品役務の品質となったり、(需要者において)商品・役務の品質を誤認させるような判断要素となるのだろうか。
    • 信用毀損は「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」である(不競法2条1項21号)。競争関係が必要であるから、例えば俳優の肖像であれば、他の俳優がそれを使用した場合にしか同号は適用されないことになるが、そのようなケースがどれほど想定されるのか。また、その点を措くとしても、当該商品役務の出演が「営業上の信用を害する」こととなるような商品役務というのが、どれほど想定されるのか。