2024-01-01から1年間の記事一覧

境界型個人データ保護からゼロトラスト個人データ保護へ―個情法の設計思想を転換する

3年ごと見直しにおいて、エンフォースメントを巡る対立が取り上げられていますが、真の争点は基本的な義務規定、特に第三者提供制限と不適正利用禁止規定なのではないかと思います(最後に書きますが、個人データ概念や同意概念はこれに付随する論点です)。…

クラウド例外に関するいくつかの疑問

個情法のQA7-53についていくつか思ったことがあるので、それについて書いていきます。 QA7-53 まず、QA7-53の関係箇所は以下のとおりです。 クラウドサービスには多種多様な形態がありますが、クラウドサービスの利用が、本人の同意が必要な第三者提供(法第…

「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」とりまとめ案に対するパブコメ意見

「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」とりまとめ案についてパブコメ意見を提出したので公開します。問題意識は経済安全保障政策としての偽・誤情報対策の論じ方 - Mt.Rainierのブログに書いたとおりです。 (当初提出しない…

経済安全保障政策としての偽・誤情報対策の論じ方

総務省の「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)」について、前回の記事 で検討の方法について若干のコメントをしましたが、その後いくつか思ったことがあるので、それについて書いていきます。 (追記:当初事…

「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」とりまとめ案について

昨年11月に設置され、偽・誤情報対策を中心とする「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」での検討について、とりまとめ案が出ていましたので、それについて書いていきます。 DSAー背景1 今回の検討の背景となっているのは、EU…

著作権法30条の4は著作権の内在的制約であることについて

文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」はなかなか正確に理解されていない感じがありますが、その原因の1つは、同文書が前提としている平成30年著作権法改正に関する文化庁解説が理解されていないことにあると感じるので、それについて書いていきます…

国連サイバー犯罪条約案の仮訳

国連サイバー犯罪条約案(A/AC.291/L.15)の仮訳です。背景等については国連サイバー犯罪条約案について - Mt.Rainierのブログをご参照ください。 本仮訳は、AIを使用して作成したドラフトを適宜加筆修正して作成しています。原文を読む前のインデックスとし…

国連サイバー犯罪条約案について

国連サイバー犯罪条約案が総会で採択されたので、それについて書いていきます。能力と時間の問題で、現時点ではあまり詳細には書けませんが(正直なところ追えていませんでした)、今後継続的に見ていきたいと思います。 状況としては、最終段階で自由主義諸…

「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議 これまでの議論の整理」について

いわゆる能動的サイバー防御(漠然としたワードですが)について、中間整理に相当すると思われる文書が公開されているので、それについて書いていきます。 概ね適切な方向性であるものの、事務局が何を考えているのかが十分に示されておらず、議論が発散して…

個人情報保護のルールとプリンシプル―曽我部教授意見に関連して

3年ごと見直しの曽我部教授意見について、当初うまく飲み込めていなかったのですが、その後若干考えたことがあるので、それについて書いていきます。 曽我部教授意見 曽我部教授意見の概要は以下のとおりです(議事録をベースにしています。スライドも参照)…

【CJEU】OT対リトアニア倫理委員会―要配慮個人情報の推知に関連して

-要配慮個人情報の推知の論点について、2022年8月1日のCJEU判例を見つけたので、事案と判断を紹介した上で、若干の検討を書いていきます。和訳は全て機械翻訳の上加筆修正したものです。 OT対リトアニア政府高官倫理委員会 事案の概要 事案の概要は以下のと…

DMA7条の概要ー番号非依存通信サービスの相互運用性義務

DMA7条はWhatsApp、Facebook Messengerのような番号非依存通信サービスについて、相互運用性の義務を課しているのですが、それについて書いていきます。 背景 過去の2つの記事 総務省のLINEヤフー株売却要求は正当化されるか?/互換性確保義務を課すという…

自閉症判別AIの件について

「顔写真から自閉症を判別してみた #Python - Qiita」という記事(削除済み;Wayback Machine)が炎上しており、個人情報保護やAI規制のエンフォースメントを考える上でよい素材だなと思ったので、書いていきます(リスクそのものを議論することは、本記事の…

スマホ競争法は何が新しいか?/今後の理論的検討課題

スマホソフトウェア競争促進法(スマホ競争法と呼ぶことにします)について思ったことを書いていきます。なお、法文は参議院のサイトのものが横書きで読みやすいです。 独占禁止法は人為的手段によって競争制限を生じさせることを禁止し、予防的に競争制限を…

個人情報保護法の3年ごと見直しの中間整理に対するパブコメ意見

3年ごと見直しの中間整理についてパブコメ意見を提出したので、サマリーと、引用した資料のリンクと、青で補足をつけて公開します。若干重複が多いですが、コメントが分割されてまとめられることを想定したためです。 なお、本意見(サマリーと補足を含みま…

生体データを規制するとはどういうことか(特に警察に対する監督強化について)

個情委が生体データの規制に関心を示していますが、生体データの規制強化と不可分の関係にある警察に対する監督強化について問題意識を持っているのだろうかと思ったので、それについて書いていきます(後半で問題意識が分かる文献を詳しめに引用することに…

Data Protectionの基本概念(高木連載8に関して)

若干遅ればせながら高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ ⑻:法目的に基づく制度見直しの検討」(紙版はこちら)を読んだので、思ったことを書いていきます。 Data subjectについて 論文131ページでは、Hondiusの「データバンクが遵守すべき一定の基…

【最高裁】コインチェック流出NEM収受事件上告棄却判決について

3月に公表された論文(紹介記事)で論じた問題の1つについて、最高裁の判決がありましたので、それについて書いていきたいと思います(判決の読解が半分、論文の宣伝が半分です)。 本件の概要 本件の背景は論文に書いたとおりです(以下に引用します)。 20…

スタディサプリの件について

読売新聞が「小中学校の学習端末利用で児童生徒の情報をアプリ業者が直接取得・管理…文科省が全国調査へ : 読売新聞」との報道を行っているので、それについて書いていきたいと思います(まずは記事をお読みください)。 記事の内容について 記事によると、…

監視と評価が人々の行動を歪めることについて(教育評価を例に)

読売新聞の古沢由紀子氏の記事「高校入試の合否を決める内申書に直結する学習評価の難しさ。中学教師が悩む生徒の「主体的な態度」測定:読売編集委員が考察 : 読売新聞」を読んだのですが、個人データ保護あるいはデータプライバシーを考えるうえで示唆的だ…

啓発ポスターと条例の区別がつかない議員たち/努力義務は法的義務ではないのか

香川県のケース 香川県議会は、よく知られているように、2020年、「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定した。その18条2項によれば、「保護者は…子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利…

詐欺広告プラットフォームへの最もドラスティックな対処法

取引透明化法に基づくモニタリング会合で、一部の広告プラットフォーム運営者の対応が話題になっていますが、政府にはどのような武器があって、どのような武器がないのかを考えてみたいと思います。 取引透明化法というアプローチとその限界 経産省は、取引…

【最高裁】優生保護法違憲判決について

7月3日の優生保護法の不妊手術に関する規定を違憲とし、損害賠償請求について除斥期間の主張を制限した大法廷判決について書いていきます。 1 裁判体は大法廷で、全員一致です。宇賀裁判官が意見を、三浦裁判官・草野裁判官がそれぞれ補足意見を述べています…

ランサムウェア攻撃とそれに関係する刑事罰について

ランサムウェア攻撃がますます盛んになっています。それを抑止する上では、企業のセキュリティレベルの向上が重要であることはもちろんですが、刑事罰を用いて犯罪エコシステムを破壊することも同様に重要です。それについて書いていきたいと思います。 二重…

【最高裁】法的性別が男性から女性に変更された者とその者の凍結精子により懐胎された子の親子関係

21日の最高裁判決 について書いていきます。 本ノートはディスカッションを目的としており、かなり簡略な表現によっているので、少なくとも、最高裁判決をお読みになってからお読みいただくのがよいと思います。なお、以下の記事には上告代理人を務められた…

クレジットカードの国際ブランドによる「検閲」について

DLsiteのクレジットカード取引停止をきっかけに、国際ブランドによる検閲が注目されています。このような動きはFinancial censorshipと呼ばれ、過去には「わいせつ」コンテンツ(Pornhub、Patreonのような)のほか、Wikileaksやパレスチナの人権団体などでも…

ステマ規制に違反したクリニックに対する措置命令について

6月6日にステマ規制に基づく措置命令が公表されましたが、ステマ規制に基づく初の執行例である点、診療所のステマ(投稿を条件に割引を行っていた)に対する執行例である点で興味深いので、それについて書いていきます。 概要 「消費者庁は、令和6年6月6日、…

「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書案と個人情報漏洩事案について

6月7日にビッグモーター事案、カルテル事案を受けた「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の報告書案が公表され、また、5月23日に大手損保4社の乗合代理店における個人情報漏洩が公表されていましたので、それらについてコメントしま…

AIの発明者性を否定した東京地裁判決について

東京地裁でAIは発明者たり得ないという判決が出ており、日経(アプリ版)で速報が出るなど世間的には一定のインパクトがあったようなので、それについて書いていきます。 「原告は、特願2020-543051に係る国際出願(以下「本件出願」という。)を…

情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備に関する要綱(骨子)(特に電磁的記録提供命令)について

調べた際のメモです。個人的には電磁的記録提供命令に注目しています。 経緯 法制審議会は、諮問第122号を受けて、令和4年7月から令和5年12月までの間、刑事法(情報通信技術関係)部会(酒巻部会長)を置き、情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の…