「AIと著作権に関する考え方について」の概要/ 『AIと著作権』の感想

文化審議会著作権分科会において「AIと著作権に関する考え方について」パブコメ後の版)が提出され、文化庁Webサイトでも公開されていましたので、紹介します。

「考え方」は丁寧な説明と(想像するに)様々な政治的配慮で要点が掴みにくくなっているので、本記事の要約をお読みになったほうが分かりやすいのではないかと思います。

本格的に議論をフォローしたい場合、法30条の4と47条の5の条文、それらの立案担当者解説である「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(「考え方」中では「基本的な考え方」として引用されています)、上野達弘=奥邨弘司編著『AIと著作権』という順番でお読みになるとよいのではないかと思います。

(追記:『AIと著作権』を読んだので、感想を末尾に追記しました。)

 

 

概要

「考え方」は46ページからなっていますが、論点に関する考え方を示した部分は17~41ページの25ページです。この部分は

  1. AIの開発やそのための学習における著作権侵害
  2. AIを利用したコンテンツ生成・その利用による著作権侵害
  3. AI生成コンテンツの著作物性

の3つのパート(と「その他の論点」)からなっています。

①AIの開発やそのための学習においては、ほとんど必ず複製が行われるので、法定利用行為はほとんど問題にならず、法30条の4による権利制限が問題となります。法30条の4は、情報解析その他の非享受目的の場合(享受の意義は「基本的な考え方」をご参照ください)について、原則として権利制限を認めつつ(本文)、著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には例外としています(ただし書)。本文については、享受目的が併存する場合に法30条の4は適用されるのかという問題があり、激しい議論がされてきたところですが、「考え方」は適用されないという立場を示しています。ただし書については、どのような場合に「不当に害する」と評価されるのかという問題があり、「考え方」はいくつかの例を示しています。

②AIを利用したコンテンツ生成・その利用においては、まず(侵害を主張する著作権者の)著作物が学習対象に含まれていればAIユーザー(被疑侵害者)がそのことを認識していなくても依拠性が認められるのかが問題となり、次に生成AIサービス提供者が侵害主体と評価されるのはどのような場合かが問題となります。「考え方」は、(類似性については特殊性はないことを確認した上で)前者についてはユーザーが認識してなくても認められるとし(あとは過失の問題です)、後者についてはいくつかの例を示しています。権利制限はあまり問題となりません。

③AI生成コンテンツの著作物性については、著作者性の認定手法を参考に、AIユーザーの創作的寄与があるかどうかという枠組みが示されています。

以下では、各パートについて、「考え方」を引用しつつ、侵害の成否それ自体に関わる部分にフォーカスして要点をまとめていきたいと思います。また、「考え方」は改段落と見出しのつけすぎで逆に分かりにくくなっている箇所があるため、引用にあたっては、それらを断りなく省略することがあります。

 

AIの開発やそのための学習における著作権侵害

法30条の4本文

  • 「法第30条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第30条の4は適用されない。」。
  • 「…生成AIの開発・学習段階における著作物の利用行為における、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。/〔上記複製③・④に関して〕既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(そのために行う学習データの収集・加工を含む)のうち、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合。(例)AI開発事業者又はAIサービス提供事業者が、AI学習に際して、いわゆる「過学習」…を意図的に行う場合/…既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合…。/これに対して、「学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。他方で、学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であるとは評価されない場合は、享受目的が併存しないと考えられる。」
  • 「…いわゆる「作風」は、これをアイデアにとどまるものと考えると…「作風」が共通すること自体は著作権侵害となるものではない。他方で、アイデアと創作的表現との区別は、具体的事案に応じてケースバイケースで判断されるものであるところ、生成AIの開発・学習段階においては、このような特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみからなる作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず、創作的表現が共通する作品群となっている場合もあると考えられる。このような場合に、意図的に、当該創作的表現の全部又は一部を生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合は、享受目的が併存すると考えられる。」

 

法30条の4ただし書

  • 「本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第30条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。…作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。」
  • 「…本ただし書への該当性は諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要と考えられるが、本ただし書に該当すると考えられる例としては、「基本的な考え方」(9頁)において、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に,当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」が既に示されている。この点に関して、上記の例で示されている「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」としては、DVD等の記録媒体に記録して提供されるもののみならず、インターネット上でファイルのダウンロードを可能とすることや、データの取得を可能とするAPI…の提供などにより、オンラインでデータが提供されるものも含まれ得ると考えられる。」
  • 「「当該データベースを(……)複製等する行為」に関しては、データベースの著作権は、データベースの全体ではなくその一部分のみが利用される場合であっても、当該一部分でも創作的表現部分が利用されれば、その部分についても及ぶ…とされている。これを踏まえると、例えば、インターネット上のウェブサイトで、ユーザーの閲覧に供するため記事等が提供されているのに加え、データベースの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されている場合において、当該APIを有償で利用することなく、当該ウェブサイトに閲覧用に掲載された記事等のデータから、当該データベースの著作物の創作的表現が認められる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、本ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならない場合があり得ると考えられる。」
  • 「…権利制限規定一般についての立法趣旨、及び法第30条の4の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第30条の4ただし書に該当するとは考えられない。/他方で、AI学習のための著作物の複製等を防止するための、機械可読な方法による技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。/(例)ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置/(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置/このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられていると評価し得る例がある…。/そのため、AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、かつ、このような措置が講じられていることや、過去の実績(情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の作成実績や、そのライセンス取引に関する実績等)といった事実から、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合には、この措置を回避して、クローラにより当該ウェブサイト内に掲載されている多数のデータを収集することにより、AI学習のために当該データベースの著作物の複製等をする行為は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、当該データベースの著作物との関係で、本ただし書に該当し、法第30条の4による権利制限の対象とはならないことが考えられる。」

 

AIを利用したコンテンツ生成・その利用による著作権侵害

類似性

  • 「AI生成物と既存の著作物との類似性の判断についても、人間がAIを使わずに創作したものについて類似性が争われた既存の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかということ等により判断されるものと考えられる。」

 

依拠性

  • 「生成AIを利用した場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。」
  • AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる。ただし、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるような状態が技術的に担保されているといえる場合もあり得る。このような状態が技術的に担保されていること等の事情から、当該生成AIにおいて、学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において出力される状態となっていないと法的に評価(注:評価ではなく推認ではないか。)できる場合には、AI利用者において当該評価を基礎づける事情を主張することにより、当該生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合であっても、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。」
  • AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず著作権侵害は成立しないと考えられる。」

 

生成AIサービス提供者の侵害主体性

  • 「AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においては、物理的な行為主体である当該AI利用者著作権侵害行為の主体として、著作権侵害の責任を負うのが原則である。他方で、…規範的行為主体論に基づいて、AI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。①ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。②事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する措置を取っていない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。③事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する措置を取っている場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。④当該生成AIが、事業者により上記の…③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。」

 

AI生成コンテンツの著作物性

  • 「生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係については、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する既存の裁判例等に照らせば、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。」
  • 「AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性を判断するに当たっては、以下の①~③に示すような要素があると考えられる。/①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容/AI生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。/②生成の試行回数/試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で…生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。/③複数の生成物からの選択/単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。」

 

『AIと著作権』の感想

『AIと著作権』を読んだので、感想を書いていきます。同書所収の論文は著者名を示して「●●論文」という形で引用します。

  • 「考え方」は、上記のとおり、享受目的が併存している場合には(各号に該当する場合でも)法30条の4本文の適用を否定するという考え方(法30条の4が適用される利用行為それ自体ではなく、当該利用行為によって得られたものの利用目的を考慮するという意味で、仮に「考慮説」と呼ぶことにします)を取っていますが、文化庁はもともとこの説に立っていたいたわけではありません。文化庁が考慮説を取ることを明らかにしたのは、2023年になってからであり、記憶によれば5月のAI戦略チーム会議文化庁が提出した資料が初出ではないかと思います。考慮説の当否については議論があり、論文集所収の愛知論文は、法律の文言、立法の経緯、適正な主張立証責任の分配の3点から、考慮説に反対しています(なお、考慮説に反対する論者も、多くは本文の適用において享受目的を考慮することに反対するにすぎず、ただし書において考慮することにまで反対するものではないと思います。愛知論文もその旨明記しています)。個人的には、この点は唯一「考え方」の立場が裁判所に採用されない可能性もそれなりにあるのではないかと思っています。
  • 「考え方」のうち、作風は基本的にアイデアであるが、創作的表現である場合もある旨のくだりは、いろいろと背景の議論が削ぎ落とされた結果、一般論の繰り返しとほとんど区別がつかなくなっていますが、愛知論文を読むと背景が理解できるのではないかと思います。特に32ページ以下の、一定の場合における作風・画風は「誰の作品であるかを容易に特定可能とする要素」である旨の指摘は、創作性が個性の発揮であると解されていること(これ自体は著作権に触れたことがある人なら誰でも知っていることだと思いますが、正直なところこれまでその意味をあまり深くは理解できていなかったように思います)の意味を理解させてくれるものだったと思います。
  • 上野論文は情報解析規定を持つ諸法域(UK、EU、スイス、シンガポール)における議論を精緻にフォローした上で日本法について考察するものです。外国法の部分も興味深いのですが(EUDSM著作権指令は明示的にオプトアウトを認めているなど)、「考え方」との関係だと、特に、情報解析規定の正当化根拠は3つありうるとした上で、法30条の4に関する文化庁の説明を内在的制約と位置づけていることが勉強になります。著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害するものではない」という説明は法30条の4を検討したことがある人であれば誰でも目にしたことがあると思いますが、その意味するところを(「考え方」と併せて読むことで)理解させてくれるものだと思います(イノベーション促進との比較衡量の結果ではないということです。このことを理解した上でパブコメ結果80番のやり取りを見ると色々とクリアになるのではないかと思います)。
  • 奥邨論文(フェアユースは、アメリカのフェアユースに関する判例を整理しています。判断の内容も興味深いですが、連邦議会は1987年に著作権法を制定したきりであり、連邦裁判所が時代に沿った判断を示していくアメリと、最高裁はほとんど沈黙しており、立法ばかりが仕事をしている日本の対比が興味深く、それぞれの社会における訴訟の位置付けや、それがもたらす裁判所と社会の時差ないしジェネレーションギャップを考えるとそれぞれに合ったやり方なんだろうと思いました(平成30年改正はフェアユースに代えてより具体的な「柔軟な権利制限規定」を設けるものでしたが、今回の状況は、それすら日本社会には柔軟すぎ、文化庁の「考え方」が要請されたとも言いうるように思います。その後福井先生のインタビュー記事を見つけましたが、まさにおっしゃるとおりだなと思いました)。
  • 「考え方」は、依拠性について、①AI利用者が既存の著作物を認識していた場合には依拠を認め、また、そうでない場合でも、②既存の著作物が学習対象に含まれていた場合には原則として依拠を認めつつ、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成されることはない場合には依拠を否定する立場を示しています。奥邨論文(依拠)は、「考え方」と概ね同様の立場から、その背景にある考え方を丁寧に整理・検討しており、特に操作者による依拠とAIによる依拠という区別は参考になります。
    • なお、奥邨論文(依拠)は、依拠性には客観説(事実としての依拠)と主観説(著作物の認識と自己の作品に利用する意思)があるとしています。個人的な感想ですが、裁判官(出身者)はしばしばここで主観説とされる規範を引用している印象があるところ、それは、これまで訴訟で依拠が問題になったのはほとんど専ら翻案の場面に限られる(単純なコピーの事案で依拠が争われることはない)からなのではないかと思います。
  • AI生成コンテンツの著作物性については、創作的寄与の有無で判断することについてはあまり異論が見られませんが、立証ハードルを著作権者に課すことが正しいのかという問題は別途ありうるところです。前田論文は、これに対し、著作権による独占は利用者の視点からは社会的にはコストであるから…著作権者と利用者のバランスのとり方として、不公正とは言えない」(171ページ)としており、確かにと思いました。
    • ちなみに、今後著作権侵害訴訟において被疑侵害者が著作物と主張されているものは生成AIコンテンツだから著作物性がない旨主張することにより容易に責任を免れてしまうのではないかという疑問も提起されているところですが、著作権者(と称する者)がAI生成コンテンツをそのまま使用していることを公言しているとか、著作権者の作品の多くがAI生成コンテンツに特有の特徴を備えているといった具体的な主張と証拠に基づかない限り、一蹴されるのが通常ではないかと思います(AI生成チェッカーのようなものは、現状では基本的には信用性が否定され、顧慮されないのではないかと思います)。