金融規制の「入口」となる概念の文理と実質的判断について

金融規制を勉強していて思ったことがあるので書きます(特に答えは出ないです)。法律の技術的側面はそれほど重要ではないので言葉遣いはざっくりめです。

 

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Fintechに関わる金融規制の入口概念(業規制の規制対象行為を、規制の入口となるという意味でこのように呼ぶことにします)は、以下のように分けられると思います。

 

有因/無因というのは、ある行為の効力がその行為の原因となった法律関係の効力によって左右されるかといった意味で使われるのが通常ですが、ここでは、特定の取引を目的としているか、言い換えれば特定の取引に付随しているか程度の意味で使用しています。

貸付けと割賦販売・信用購入あっせんは、消費者が受信している(事業者が消費者に与信している)という意味では共通していますが、前者は信用供与の目的が限定されていないのに対し、後者は商品・役務の対価の支払いに限定されています。

同様に、預り金・為替取引と前払式支払手段は、消費者が与信している(事業者が消費者から受信している)という意味では共通していますが、前者は信用供与の目的が限定されていないのに対し、後者は商品・役務の対価の支払いに限定されています。

 

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…というように一応の分類はできるのですが、それぞれの外延は必ずしも明らかではありません。例えば、

  1. クレジットカードを使用して加盟店に代金を支払う行為はなぜ貸付けではないのか(左上vs右上)
  2. 三者型前払式支払手段で加盟店に代金を支払う行為はなぜ為替取引ではないのか(左下vs右下)
  3. 収納代行はなぜ為替取引ではないのか(左下vs表の外側)

という問題に、必ずしもクリアな答えが与えられているわけではありません。1が貸付けではなく、2と3が為替取引ではないことは一応合意されているのですが、例えば、

  • 2について、本人確認(犯収法上の取引時確認)前は前払式支払手段、本人確認後は資金移動サービスと整理することで、本人確認をしなくても使えるようになっているPayサービス(多くのPayサービスがそうなっています)において、同じお店で同じPayサービスを使って払っているのに、本人確認前だと為替取引非該当、本人確認後だと為替取引該当(追記:と思ったんですがこれは違う?)というのはよく分かりませんし、
  • 3については、資金決済法2条の2(個人が受取人=収納代行の依頼者となる収納代行サービスの一部が為替取引に当たることを確認する)ができたことで少なくとも一部は為替取引に当たることが明らかになっており、ではどこで線引きされるのかと言われると誰にも分からなくなっている状況なのではないか

と思います。

 

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予告した通り答えは出ないのですが、現段階での個人的な仮説は、金融庁は、①社会通念上の「貸付け」や「為替取引」のようなものを仮定し、明らかにそれに当たらないものを除外した上で、②その範囲内で、経済的機能に照らした実質的判断を行っているのではないかということです。

①は法律の留保原則との関係で必要になる作業であり、いかに実質的判断といっても国会が承認した文言を超えることは許されないという、ある意味当たり前のことを意味しています。貸付けや為替取引に有因のものは含まれないとか、2004年の金融庁ノーアクションレター照会書回答書)が、通信販売のためのある種の収納代行サービスについて「単に資金移動の仲介を委任されている…「為替取引を行うこと」とは異なる」という理由で為替取引該当性を否定していることは、この思考によっているのではないかと思います。

②は法目的との関係で必要になる作業であり、①をクリアした以上できる限り広範に、言い換えれば、典型的には消費者の利益保護を(比例性が認められる限度で)追求した解釈をする必要があります。2001年の判例「顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引き受けること,又はこれを引き受けて遂行すること」という広い解釈を示しているのは、この場面に関するものなのではないかと思います。

金融庁や警察は政府における初動対応に当たることが多く、その中で最も悪質な事案だけが刑事手続に乗るであろうことを考えると、金融庁においては(判例の定式よりもむしろ)①の判断が重要になるのに対し、裁判所においては②が問題になることが多いのではないかと思います。

 

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なお、文言と実質的解釈の調和?は、租税法において最も問題となってきたと思います。税務行政と比較すると、金融行政は、

  • 基本的には登録事業者を対象としているので、入口概念が問題となることが相対的に少ない、
  • 金融庁見解に「逆らった」場合、「当たりどころ」が悪ければいきなり刑事手続に乗ってしまう、
  • 金融庁に(法律上又は事実上の)裁量があり、通用している解釈によれば過剰規制となってしまうと思う場合、(解釈を改めることなく)単に執行を差し控えればよい

という状況があり、そのため、あまり司法判断が示されていないのではないかと思います。