4月22日の「AI時代の知的財産権検討会」に「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ(案)」が提出されていたので、紹介します。筆者コメントは(区別した方が分かりやすい場合には)青字としています。
- 中間取りまとめ案は、「I はじめに」「II 基本的視点」「III 生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について」「IV AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について」「V おわりに」からなっている。
- IIIは、「1.法的ルール①(著作権法との関係)」「2.法的ルール②(著作権法意外の知的財産法との関係)」「3.技術による対応」「4.契約による対応」「5.個別課題」からなっている。
- IIIの1、2、IVを読むことで、著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法(商品等表示、形態模倣、営業秘密・限定提供データ)、肖像権・パブリシティ権との関係が理解できると思われる。
- 著作権法の箇所は、概ね「AIと著作権に関する考え方について」の引用である(「AIと著作権に関する考え方について」の概要/ 『AIと著作権』の感想 - Mt.Rainierのブログ)。
- 著作権法以外の箇所については、多くの場面で、AI固有の問題はないと整理されている。
- IIIの5は、「(1)労力・作風の保護」「(2)声の保護」「(3)学習用データセットとしてのデジタルアーカイブ整備」「(4)ディープフェイクについての知的財産法の視点からの課題整理」からなっている。その概要は以下のとおり。
- 労力・作風の保護については、著作権について「AIと著作権に関する考え方について」を引用し、不正競争について一般論を確認し、一般不法行為法についてヨミウリ・オンライン事件と北朝鮮事件を確認している。
- 結局のところ何も言っていないが、政治的な議論の結果なのではないかと思われる(ヨミウリ・オンライン事件だし)。なお、ヨミウリ・オンライン事件判決と北朝鮮事件判決の関係については特に述べられていないが、ヨミウリ・オンライン事件判決は被侵害利益を明示しておらず、北朝鮮事件判決後においてはそのような判示は許されないのではないかとも思われる(なお、その上で特定された被侵害利益が本当に著作権と異なるものなのかが審査されることになるが、ヨミウリ・オンライン事件判決が挙げる要素はフェアユースそのものであり、異なる保護法益を示すことに成功していないようにも思われる)。
- 声の保護については、声優等の声の無断使用について、肖像権については「保護される可能性は高いとは言えない」、パブリシティ権については「保護が可能と考えられる」、その他(著作隣接権、商標権、不正競争等)についてはそれぞれの限度で保護されることがある旨述べている。
- 山田太郎議員が国会でこの問題を取り上げている。個人的には声優の声をコピーして販売したり、著名人が話す様子を詐欺広告に使用したりすることは、端的にパブリシティ権侵害であり、仮処分で差し止められるのではないかと思うところ(その上で誰を侵害主体と認定し、誰に損害賠償責任を負わせ、実効的な抑止を実現するかが課題で、これは別途立法する場合でも同様に問題となる)。
- デジタルアーカイブについては、必ずしも法的な議論が行われたわけではないものの、「まずはパブリックドメインとなっているデータや適正に権利処理が完了しているデータ、国や地方公共団体をはじめとする公的機関が著作権等の権利を有している文書等を中心に据えて、デジタルアーカイブ整備を進めることを当面の基本的な考え方とすることが適当」とされている。
- ディープフェイクについては、肖像権・パブリシティ権侵害が成立する場合があること(アイコラについて氏名権・肖像権、名誉感情の侵害を認めつつ、パブリシティ権侵害を否定した知財高裁の2015年の判決を引用)、不正競争防止法上の誤認惹起・信用毀損、名誉毀損罪・偽計業務妨害罪、名誉毀損・名誉感情侵害による不法行為が成立することがあることを確認している。
- ディープフェイクについては、様々な問題が含まれており、かつ、ディープフェイク以外のフェイク全般との連続性も考慮した包括的なアプローチが必要である。中間取りまとめ案が「ディープフェイクの諸問題は、知的財産権法とは切り離して議論すべき要請が強いと評価できる」と述べているのも、そのような考慮に基づいているのではないかと思う。
- 労力・作風の保護については、著作権について「AIと著作権に関する考え方について」を引用し、不正競争について一般論を確認し、一般不法行為法についてヨミウリ・オンライン事件と北朝鮮事件を確認している。