Cloudflare判決についてのファーストインプレッション

「海賊版サイト巡り米Cloudflareに賠償命令 著作権侵害ほう助認定」という記事に接したので、ファーストインプレッションをメモしておきます。

(2025/11/20追記:本判決を評価する上では、本判決がどのような事実をどのように認定し、評価したかが重要ですが、本記事公開時点では判決全文が未公表のため、それを確認することはできません。したがって、本記事のコメントは、報道だけを元に、本判決それ自体の評価というよりは、従来の法的議論との関係や、現在行われている政策的議論への影響に主たる関心を置いて書いたものであることにご留意いただければと思います。)

 

  • CDNは、「エンドユーザーの近くでコンテンツをキャッシュする地理的に分散したサーバー群」であり、「CDNを使用すると、HTMLページ、JavaScriptファイル、スタイルシート、画像、動画を含むインターネットコンテンツの読み込みに必要となるアセットを素早く転送することができるようにな」る(CDNとは | CDNの仕組みとメリット | Cloudflare)。主要なCDNとして、Cloudflare、Amazon CloudFront、Akamaiなどがある。
  • 本判決は、報道からすると、規範的侵害主体論(ロクラクII事件、ヤマハ事件)ではなく、不法行為の幇助(民法719条2項)に基づき損害賠償を認めたようである。差止請求であれば規範的侵害主体論に依拠する必要があるが、損害賠償請求では、必ずしもそうではない(さらに言えば、幇助という構成自体、必須ではない。森田宏樹解説参照)。故意なのか、それとも過失(ビデオメイツ事件)なのかは報道からは判然としない。もっとも、これらの法律構成は、結論には影響しないと思われる。
  • Cloudflareは、「通常どおり」責任の有無を争うこともできるが、不可欠なインフラとしての側面を強調して責任の緩和(ハードルの引き上げ)を主張することもできる。後者の根拠として、さしあたり、通信の秘密と、表現の自由が考えられる。Cloudflareは電気通信事業届出を行った電気通信事業者であり(分野別データ:通信:事業者 | 届出電気通信事業者一覧)、Googleと同様の情報流通の基盤と言いうる。
  • 通信の秘密に関しては、地裁レベルであるが、NTT脅迫電報事件という先例があり、政府主導の海賊版ブロッキングの際の議論の蓄積がある(海賊版サイトのブロッキングをめぐる法的問題)。もっとも、通信の秘密は、通信の秘密の知得、窃用、漏洩、そして通信への干渉(通信の秘密に関するメモ - Mt.Rainierのブログ高木浩光@自宅の日記 - 電気通信事業法における検閲の禁止とは何か)に対する対抗手段たりうるものの、通信サービスの提供それ自体を止める(べき)かどうかが問題となる場面で対抗手段たりうるかは、直ちには明らかではない。これは、DNSブロッキングにおけるISPが、情報受領者側の(言い換えれば、情報受領者と契約関係にある)通信事業者である(したがってサービス提供それ自体は完全に適法である)のに対して、本件におけるCDNは、情報発信者側の通信事業者であることに関係している。判決がどのような事情に基づいて責任を認めたのかは明らかではないが、通信に外在的な事情を慎重に積み重ねたのだとすると、通秘を理由に責任を限定する主張は組み立てにくくなる。
  • 表現の自由に関しては、情プラ法が情報の仲介(媒介)者に対する発信者情報開示請求との関係で「明らか」要件を課し、Google事件最高裁決定が「情報流通の基盤」であるGoogleに対する差止請求(人格権に基づく妨害排除請求)との関係で「明らか」要件を課したことが想起される。Google事件決定がいう「情報流通の基盤」というのは、端的に言えばそれなしには人々はインターネット上の膨大な情報にアクセスできないという意味だと思われるが、その意味では、Cloudflareも同様の地位にあると言ってよいと思われる(昨日のCloudflareの障害が人々に大きな不便をもたらしたように。2025年11月18日のCloudflareの障害Xが使えない18日の大規模障害、原因はデータベース設定ミス。Cloudflareが謝罪 - PC WatchA massive Cloudflare outage brought down X, ChatGPT, and even Downdetector | The Verge)。また、Winny事件判決も、WinnyとCloudflareでは「正犯」行為への寄与態様には違いがあるものの、少なくともその一般論と当てはめは参考になるかもしれない。いずれにせよ、海賊版の発信者の表現の自由の制約は正当化されようが(著作権法がそれを認めている)、Cloudflareが海賊版だけにキャッシングを提供しているわけではない以上、責任を認めることによって犠牲になる大多数のユーザー(潜在的ユーザーを含む)の表現の自由にも十分な配慮をすべきである(博多駅事件、タトゥー事件の草野補足意見も参照)。
  • なお、報道からは、判決が、身元確認をしなかったことを積極方向で考慮しているようにも見えるが、仮にそうだとすれば、現時点では、疑問がある。海賊版サイトへのCDNの提供を中止すべき場合があるとしても、侵害の通知を受けた段階で調査することで十分であり、身元確認を事実上義務付ける結果になるようなことを言う必要はないと思われるからである。

最高裁判決のリンクはまた今度張ります(最近仕様が変わり事件名でGoogle検索しても最高裁のページがヒットせず…)。