Researchmapに掲載していたペーパーを、エグゼクティブサマリーを付けた上で転載します。PDF版はResearchmapをご参照ください。
エグゼクティブサマリー
- EUのデジタルサービス法(DSA)は、オンライン環境を安全で信頼できるものにするため、コンテンツモデレーションの透明性、違法コンテンツへの対応、未成年者保護、広告の透明性、ダークパターンの禁止などを義務付ける規則である。本稿は、その概要と運用状況を分析し、日本の情プラ法及び取引DPF法の改正検討への示唆を示すものである。
- DSAは、媒介サービスの提供者に対し、サービスの種類と規模に応じて段階的に義務を課す構造を持つ。実際の執行は、EU域内人口の10%以上が利用する大規模オンラインプラットフォーム(VLOPs)及び大規模検索エンジン(VLOSEs)に集中している。
- DSAの「違法コンテンツ」は、権利侵害情報に限られず、およそ違法な活動に関連する情報を含む。これは、あらゆる法令をオンライン環境で執行するための仕組みを構築するものと言える。
- VLOPsの規制では、リスク評価・低減、独立監査、独立のコンプライアンス機能といった、金融規制やGDPRで先行して用いられてきた手法が用いられている。これらの義務は、当局が権限を行使する端緒や、規制対象者の内部に働きかける足がかりとしても機能する。
- 運用面では、終結した正式調査4件のうち3件がコミットメントで終わっており、コミットメント中心の運用がなされている。2025年12月のXに対する初の制裁金決定は、透明性や誤認防止に関するものであり、コンテンツモデレーションそのものを問題としたものではない。
- SNS・動画共有サイトに対する執行は、ルーマニア大統領選挙の件を除き、「通知と対応」メカニズムや透明性に関する違反が中心である。これに対し、オンラインマーケットプレイスでは、違法な製品や取引が正面から問題とされている。
- 選挙・市民的言説、未成年者保護、違法製品・取引、金融詐欺が主な執行テーマであり、選挙と未成年者保護についてはガイドラインも公表されている。Google、Apple、Amazonは、少なくとも現時点で、DSAに基づく正式調査の対象とはなっていない。
- 情プラ法改正への示唆は次のとおりである。①EUの違法情報の範囲は極めて広範であり、日本にそのまま持ち込むと予期しない悪影響が生じうるため、優先対応の対象となる法令違反情報や行政機関の範囲を精査すべきである。②広告モニタリング指針は強制力を欠くが、Metaの事例は収益の剥奪が有効であることを示しており、指針に法的根拠を与え、課徴金制度を設けることを検討すべきである。③選挙・市民的言説については、政治広告の規制、ユーザーエンパワリング、規制対象者との協調を組み合わせる必要があり、情プラ法で何を引き受けるかを検討すべきである。④未成年者保護については、弊害の客観性や年齢による線引きの合理性などの検討が不十分になりやすく、具体的な脆弱性に着目した検討を優先すべきである。⑤リスク評価・低減義務は、詳細な義務規定より、実効的な対処と規制の陳腐化の回避を両立しやすい。⑥エンフォースメントについては、広告規制への課徴金の導入が不可欠であり、リスク評価・低減義務等が当局の権限行使の基礎となる点も考慮して要否を検討すべきである。
- 取引DPF法改正への示唆は次のとおりである。①CtoC取引DPFにも規制を及ぼした上で、合理性がある限りで異なる規律を課せば足りる。②違法な商品・取引については、行政機関からの通報への迅速な対応義務や、各種の事業者リストを活用したモニタリングを求めることが考えられる。③販売業者の本人確認は、少なくとも犯収法相当の確認を義務付けるべきであり、悪質な事業者との紛争解決は、サービスからの排除が中心とならざるを得ない。④ダークパターンについては、提供者が主体的に決定する要素が多いため、DSA第25条のように提供者に一次的な責任を負わせるべきである。⑤エンフォースメントについては、課徴金を含む強化が不可欠であり、段階的な規制(柔構造化)も検討すべきである。
- EUのデジタル立法は動的なプロセスの一部であり、運用まで観察して初めて理解できる点が多い。個別の条項には合理性が疑わしいものもあるため、日本の立法の参考とする際には、丁寧な検討が不可欠である。
1 はじめに
EUのデジタルサービス法(DSA)*1は、オンライン環境を安全で信頼できるものにすることを目的とするEUの規則であり、そのために、コンテンツモデレーションの透明性・異議申立権、違法コンテンツに係る通知への対応、未成年者保護、コンテンツに係るパーソナライゼーションの選択権の保障、広告の透明性、ダークパターン、取引プラットフォームにおける販売者の連絡先の確認等を義務付けるものである*2。
我が国では、現在、総務省に設置された「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」(諸課題検)*3において情プラ法*4の改正に向けた検討が、消費者庁に設置された「デジタル取引・特定商取引法等検討会」において、取引DPF法*5の改正に向けた検討が行われている。これらは、それぞれ異なる文脈に属するものであるが(特に、取引DPF法に係る検討は、特商法改正に係る検討と併せて行われ、かつ消費者契約法に係る検討と並行して行われている*6。)、いずれの検討においても、EUのデジタルサービス法*7が重要な参考資料となると考えられ、かつ、そうすることには、オンラインにおける/に関連する弊害(online harm)をどう抑止するかという意味での課題の共通性に照らしたとき、一定の合理性があると考えられる。
そこで、本稿では、EUのデジタルサービス法について、その概要と運用状況を紹介・分析した上で、情プラ法及び取引DPF法改正の検討への示唆を明らかにする。
なお、本稿は、筆者の個人的見解であり、筆者が所属し又は過去に所属していた組織とは無関係であることをお断りしておく。
2 デジタルサービス法の概要
(1) デジタルサービス法の基本概念
デジタルサービス法は、規制対象者に関わる概念として、①媒介サービス(intermediary services)、②オンラインプラットフォーム、③オンライン検索エンジンを定義している(DSA第3条(g)-(j))。①媒介サービスは、(a)「単なる導管」(mere conduit)、(b)キャッシング(caching)、(c)ホスティングサービスからなる。②オンラインプラットフォームは、ユーザー(DSA上は'recipient')の要求に応じて情報を保存(store)し、公衆に拡散する(disseminates to the public)ホスティングサービスをいい(ただし、他のサービスに付随的なものは除外される。)、我が国で言う情報流通プラットフォーム*8と取引DPFの双方を包含する。
(2) デジタルサービス法の基本構造
DSAの中核部分は、大まかに言えば、①媒介サービス提供者の免責(第2章)、②媒介サービス提供者の義務(第3章)、③エンフォースメント(第4章)からなる。
①は、「単なる導管」、キャッシングサービス、ホスティングサービスの提供者の免責要件(DSA第4条〜第6条)、違法コンテンツへの対応命令・情報提供命令を受けた場合の対応に関する規律(DSA第9条、第10条)からなる。
②では、サービスごとに段階的に義務が課される。すなわち、(a)ホスティングサービス提供者の義務(第2章第2節)、(b)オンラインプラットフォーム提供者の義務(同第3節)、(c)BtoC隔地取引を可能にするオンラインプラットフォーム(≒BtoCオンラインマーケットプレイス)の提供者の義務(同第4節)、(d)大規模オンラインプラットフォーム(VLOPs)及び大規模検索エンジン(VLOSEs)の提供者の義務(同第5節)である。
②(a)は、連絡先の指定・公表義務(DSA第11条、12条)、域内代表者の選任義務(DSA第13条)、利用規約の策定・公表義務(DSA第14条)、コンテンツモデレーションに関する透明性報告義務(DSA第15条)からなる。(b)-(d)については、次節以下で詳述する。(a)-(c)は、要件に該当するサービスの提供者に当然に適用されるが、(d)は、EU域内の人口の10%(現在4500万人)以上のユーザー数等の要件を満たすものとして欧州委員会の指定を受けた者に適用される。
③では、欧州委員会と加盟国のデジタルサービスコーディネーター(DSC)*9の執行権限・手続が規定される。DSCは、管轄する媒介サービス提供者に対し、情報提出要求(RFI)、インタビュー、立入検査の実施権限、暫定措置命令、コミットメント(確約)の受入れ、制裁金の賦課の権限を有する(DSA第5章1節)。VLOPs/VLOSEsの提供者に対しては、欧州委員会も同様の権限を有する(同章4節)。両者は重複するが、VLOPs/VLOSEs固有の義務については、欧州委員会のみが権限を有し(DSA第56条2項)、それ以外の事項についても、欧州委員会が正式調査(formal investigation)を開始した場合には同委員会のみが権限を行使できる(DSA第66条2項)*10。制裁金額は、DSC、欧州委員会いずれが賦課する場合でも、最大で、違反者グループの前年度全世界年間売上高の6%である(DSA第52条3項、74条1項)。
(3) ホスティングサービス提供者の義務
ホスティングサービスの提供者に適用される義務(上記②(a))は、いわゆる「通知と対応」(notice and action)メカニズム(DSA第16条)、コンテンツモデレーションを行う場合の理由説明義務(DSA第17条)、生命・安全に関わる犯罪の疑いを知った場合の通報義務(DSA第18条)からなる。
「通知と対応」義務について、日本法(情プラ法、取引DPF法)と比較すると、(i)情報流通プラットフォーム(オンライン掲示板、SNS、動画共有サイト等)に相当するサービスだけでなく、取引デジタルプラットフォームに相当するサービス(オンラインマーケットプレイス)にも適用されること、(ii)取引デジタルプラットフォームのうち、CtoC取引を可能にするものにも適用されること、(iii)ホスティングサービス提供者全般が対象であり、欧州委員会の指定を受けた者に限定されていないこと、(iv)「違法コンテンツ」が対象であり、権利侵害コンテンツに限られず、また、情報それ自体が違法なものに限られず、法文上はおよそ違法な活動に関連する情報が対象とされていることが特徴である。
(iv)について詳述する。「違法コンテンツ」は、「それ自体で又は製品の販売若しくはサービスの提供を含む活動に関連して、EU又はEU法に適合する加盟国法に適合しない情報」と定義されている(DSA第3条(h))。前文では、「安全で予測可能かつ信頼できるオンライン環境を確保するという目的を達成するために、この規則において、「違法コンテンツ」の概念は、オフライン環境における既存の規則を広く反映すべきである。特に、「違法コンテンツ」の概念は、違法なコンテンツ、製品、サービス、活動に関する情報を包含するよう広く定義されるべきである。特に、当該概念は、適用される法の下で違法なヘイトスピーチやテロコンテンツ、違法な差別的コンテンツなど、それ自体が違法である情報又は違法活動に関連するという事実により適用される法が違法とする情報を指すと理解されるべきである。例えば、児童に対する性的虐待を描く画像の共有、私的画像の違法な合意に基づかない共有、オンラインストーキング、不適合又は偽造製品の販売、消費者保護法違反の製品販売やサービス提供、著作権で保護された素材の無許可使用、宿泊サービスの違法提供、生きた動物の違法販売が含まれる。」とされており(DSA Recital 12)、これらの記載も考慮すると、およそ違法な活動に関連する情報を流通させることが規制されている、より端的に言えば、あらゆる法令をオンライン環境で執行するための仕組みを構築するものと言える。
(4) オンラインプラットフォーム提供者の義務
オンラインプラットフォームの提供者に適用される義務(上記②(b))には、(i)情報の削除等に係る苦情処理体制(DSA第20条)、(ii)苦情に係るADRの提供(DSA第21条)、(iii)いわゆるtrusted flaggerからの通知の優先処理(DSA第22条)、(iv)明らかな違法コンテンツを高頻度で発信する者等に対するサービス提供停止(DSA第23条)、(v)追加の透明性報告義務(DSA第24条)、(vi)欺瞞的設計(ダークパターン)の禁止(DSA第25条)、(vii)広告の透明性(DSA第26条)、(viii)レコメンダーシステムの透明性(DSA第27条)、(ix)未成年者保護(DSA第28条)が含まれる。
(5) BtoCオンラインマーケットプレイス提供者の義務
BtoC隔地取引を可能にするオンラインプラットフォームに適用される義務(上記②(c))には、(i)事業者のトレーサビリティ・KYBC(DSA第30条)、(ii)コンプライアンス・バイ・デザイン(DSA第31条)が含まれる。
(i)では、事業者にサービスを利用させるに先立ち、(α)名称、住所、電話番号、メールアドレス、(β)身元確認書類の写し又は電子的な身元確認書類*11、(γ)銀行口座、(δ)商業登記簿とその識別番号、(ε)商品・役務がEU法に準拠していることの自己認証を徴求し(DSA第30条1項)、その信頼性・完全性(completeness)を評価するための最善の努力を尽くすこと(同条2項)、前記情報が不正確・不完全・最新でないとの疑いが生じた場合、事業者に改善を求め、改善までの間サービス提供を停止すること(同条3項)等が求められる。
(ii)では、事業者に義務(情報提供義務等)を遵守させるようなインターフェース設計(DSA第31条1項)、事業者が消費者に必要な情報提供*12を行うことを可能にするようなインターフェース設計(同条2項)、事業者にサービスを利用させるに先立ち、これらの情報が提供されているかを評価するための最善の努力を尽くし(同条3項第1文)、その後も、商品・役務が違法と特定されているかどうかを、公式・フリーアクセス・機械可読なデータベース等により無作為に確認するための合理的努力を尽くすこと(同項第2文)が求められる。
なお、CtoC隔地取引を可能にするオンラインプラットフォームの提供者には、これらの義務は適用されないが、前節までに述べた義務は適用されることや、後述のVLOPs提供者のリスク低減義務として、類似の対応が求められうることには留意する必要がある。
(6) VLOPs/VLOSEs提供者の義務
VLOPs及びVLOSEsの提供者に適用される義務(上記②(d))には、(i)リスク評価・低減義務(DSA第34条、35条)、(ii)戦争、テロ、パンデミック等における危機対応メカニズム(DSA第36条)、(iii)独立監査(DSA第37条)、(iv)レコメンダーシステムに関する追加的義務(DSA第38条)、(v)オンライン広告に関する追加的義務(DSA第38条)、(vi)当局及び有資格研究者*13へのデータへのアクセスの提供(DSA第40条)、(vii)独立のコンプライアンス機能(DSA第41条)、(viii)追加の透明性報告義務(DSA第42条)が含まれる。
(i)については、対処すべきリスク(「システミックリスク」)として、特に、違法コンテンツの拡散、権利侵害、民主主義、治安(public safety)、ジェンダーに基づく暴力、公衆衛生、未成年者保護が挙げられ(DSA第34条1項各号)、考慮すべき要素(それらのリスクに影響を与えうる要素)として、レコメンダーシステムその他のアルゴリズムの設計、コンテンツモデレーションシステム、利用規約とその実効性確保、広告の選択・表示システム、データに関する慣行(同条2項第1サブパラグラフ各号)、サービスに対する意図的な操作(manipulation)や、違法コンテンツ等の増幅・急速かつ広範囲な拡散による影響(同項第2サブパラグラフ)、地域的・言語的特性(同項第3サブパラグラフ)が挙げられている。
また、考慮すべきリスク低減の方法としては、サービス設計の調整、利用規約とその実効性確保の調整、コンテンツモデレーションの調整(特にその速度・質の確保)、レコメンダーシステムその他のアルゴリズムの調整、広告システムの調整、内部管理体制の強化、trusted flaggerとの協力、他のオンラインプラットフォーム提供者等との協力、利用者のエンパワメント、年齢確認・ペアレンタルコントロール、ディープフェイクを識別可能とすること等が例示されている(DSA第35条1項)。
なお、上記の各義務のうち、リスク評価・低減、独立監査、独立のコンプライアンス機能という手法は、伝統的には金融規制において取られてきたものであり*14、デジタル分野では、GDPRが先行事例となっているといえる。すなわち、GDPRは、ハイリスクな個人データ処理を行うコントローラー等に対し、コンプライアンスオフィサー(Data Protection Officer, DPO)の選任を義務付け(GDPR第37条)、その職務として、コントローラー等への助言、GDPRと社内規則等の遵守状況の監視、当局への協力を定め(GDPR第39条)、そのための基盤として、専門的知識・能力と、必要な権限・地位の保障(特に職務遂行の独立性、利益相反の禁止)を求めてきた(GDPR第37条5項、38条。DSAでも同様のものが求められる。)。また、コントローラーがハイリスクな個人データ処理を行おうとする場合、リスク評価(Data Protection Impact Assessment, DPIA)の実施と、当局への事前協議を求めてきた(GDPR第35条、36条)*15。リスク低減そのものを定める規定は存在しないが、データ保護的設計(GDPR第25条)や、個人の権利保護のための技術的・組織的措置(GDPR第24条)、アカウンタビリティ原則(GDPR第5条2項)が、事実上、それを要求していると言える。これらの義務は、直接的には、事業者に求められる内部統制の一部を法定するものであるが、同時に、当局がその権限を行使する端緒と、事業者内部に働きかけを行うための足がかりを作り出すものでもある。デジタルサービス法においても、リスク評価書の提出義務が定められ(DSA第34条3項)、実際に、それを端緒とする法執行が行われつつある。
(7) 広告に関する義務
広告について、まとめて整理しておく。まず、「広告」とは、営利目的であるか非営利目的であるかを問わず、法人又は自然人のメッセージを広める(promote)ことを目的として設計された情報であって、当該情報を広めることに対する対価を得て、オンラインプラットフォームがそのオンラインインターフェース上で提示するものをいうとされている(DSA第3条(r))。したがって、営利目的のメッセージでも、プロモーションそのものに対する対価が支払われていなければ(例えば一ユーザーとしての投稿として行われる場合には)、広告には該当しない。
①オンラインプラットフォームの提供者には、(a)広告である旨、広告主(=誰のために広告が表示されるか)、支出者(広告主と異なる場合)、広告の表示対象者を決定するための主要なパラメータを明確、簡潔、あいまいでない方法で、リアルタイムで識別できるようにする義務(DSA第26条1項)、(b)(広告以外のコンテンツについて)コンテンツが商業的コミュニケーションであるかどうかを宣言する機能の提供と、当該宣言を明確であいまいさのない方法で、リアルタイムに識別できるようにする義務(同条2項)、(c)特別カテゴリデータを使用したプロファイリング広告の禁止(同条3項)が課される。また、(d)未成年者に対するプロファイリング広告も禁止される(DSA第28条2項)。
②VLOPs/VLOSEsの提供者には、これらに加え、(a)広告掲載期間中と掲載終了後1年間、広告の主題(商品・役務の名称、ブランド、広告の主題を含む)、広告の表示対象者、支出者(広告主と異なる場合)、掲載期間、特定の表示対象者のグループにターゲティングする場合そのための主要なパラメータ、表示対象者及びターゲティングした表示対象者グループの人数を含む、検索可能な広告リポジトリを提供する義務が課される(DSA第39条)。また、先に述べたとおり、(b)リスク評価・低減において、広告は、特に考慮すべき事項とされている。Recitalでは、①広告自体が違法コンテンツである、②広告が違法・有害コンテンツの公開・拡散に金銭的インセンティブを与える、③市民の平等な待遇と機会に影響を及ぼす、④個人の脆弱性を悪用し操作(manipulate)する、という複数のリスクが示されている(DSA Recital 68, 69)。
これら履行状況等は、透明性報告、外部監査、当局・有資格研究者のデータアクセスの対象となる。
(8) レコメンダーシステムに関する義務
レコメンダーシステムについても、まとめて整理しておく。「レコメンダーシステム」とは、オンラインプラットフォームが、そのオンラインインターフェース上において、サービス利用者に対して特定の情報を提案(suggest)し、又は当該情報を優先的に表示するために用いられる、完全に又は部分的に自動化されたシステムをいい*16、サービス利用者によって開始された検索の結果として行われる場合を含み、又は表示される情報の相対的な順序若しくは目立ちやすさ(prominence)を決定するものを含むとされている(DSA第3条(s))。いわゆるシャドウバンもここに含まれる(DSA Recital 55)。レコメンダーシステムは、オンラインプラットフォームのビジネスの「中核」であり、ユーザーの利便性に貢献する一方、特定のメッセージを増幅し、情報をバイラルに拡散させたり、オンライン行動を刺激し(≒過激化させ)たりするとされる(DSA Recital 70)。
これについて、①オンラインプラットフォームの提供者には、レコメンダーシステムで使用される主要なパラメータとそれを変更するための選択肢を説明する義務が課され(DSA第27条)、②VLOPs/VLOSEsの提供者には、(a)各レコメンダーシステムについて、プロファイリングに基づかない選択肢を提供する義務が課される(DSA第38条)。また、(b)リスク評価・低減において、レコメンダーシステムは、特に考慮すべき事項とされている。
これら履行状況等は、透明性報告、外部監査、当局・有資格研究者のデータアクセスの対象となる。
3 デジタルサービス法の運用状況
(1) VLOPs/VLOSEsの指定状況
上記のとおり、デジタルサービス法は、段階的な構造となっている(金融規制の言葉で言えば、柔構造化されている)が、実態としては、VLOPs/VLOSEsの提供者に対する執行が中心となっていると思われる。そこで、VLOPs/VLOSEsの一覧を示すと、別表1のとおりである。
サービス内容の面からは、①SNS・動画共有サイト(非ポルノ)、②オンラインマーケットプレイス、③ポルノ動画共有サイトに大きく分けられる。②には、物品中心のもののほか、アプリストアや電子書籍ストアなど、デジタルコンテンツ中心のものが含まれる(Amazonは両者を統合したものと言える)。動画共有サイトは、①③にまたがっており、サイトの仕組みとしては類似しているが、対処すべき弊害が異なる(例えば、YouTubeやTikTokでは選挙・市民的言説への干渉、PornhubやXVideosでは性的搾取など。)。
また、グループ拠点の面からは、①米国系と②中国系が圧倒的に多く、③欧州系は、オンラインマーケットプレイス1個とポルノ動画共有サイト2個が指定されているに過ぎない。
(2) 法執行の状況(全体像)
VLOPs/VLOSEsの間でも、重点的な法執行の対象となっているものと、そうでないものがある。そこで、特に重点的な法執行の対象となっているエンティティ(やそれと対比すべきエンティティ)7者について、欧州委員会が取った行動を時系列で整理すると、別表2のようになる*17。ここからは、さしあたり、5つのことが言える。
第1に、これまでに終結した正式調査は4件あり、1件が制裁金決定(X)、3件がコミットメント(Tiktok:2024年8月5日、TikTok:2025年12月5日、AliExpress)で終結している。少なくとも現時点では、コミットメント中心の運用がなされていると言える。
第2に、2025年12月5日のXに対する制裁金決定は、初の制裁金決定であり、これに対し、トランプ政権関係者は、検閲を強制するものである旨反発しているが*18、実際には、透明性や誤認防止に関するものであり、コンテンツモデレーションそのものに関するものではない。また、他のSNS・動画共有サイトに対する調査の経過(Meta:2025年10月24日、TikTok:同日)を見ても、「実害」に繋がったルーマニア大統領選挙の件*19(TikTok:2024年12月17日)を除き、「通知と対応」メカニズムや透明性に関する違反が中心であり、現在のところ、コンテンツモデレーションの不十分性といったコアな違反は認定されていない。なお、Xに対しては、最も早い段階から正式調査が開始されていたものであり、少なくとも最終決定の段階でXが恣意的に狙い撃ちされたといった状況は読み取れない。
第3に、SNS・動画共有サイトに対する法執行と対照的に、オンラインマーケットプレイスに対する法執行においては、違法な製品や取引(先に述べたとおり、これらは「違法コンテンツ」に含まれる。)が正面から問題とされている。同じ「コンテンツモデレーション」でも、オンラインマーケットプレイスでは、ユーザーの自由への配慮の必要性が相対的に小さいことが背景となっている可能性がある。
第4に、オンラインプラットフォームのリスク評価・低減においては、サービス設計・運営者の体制整備と、その下での具体的な事象への対応の双方が重要であるが、後者に関して、ルーマニア大統領選挙、ユーザーのメンタルヘルス等、金融詐欺、(未承認医薬品や製品安全規制に適合しない製品などの)違法商品といったテーマが選定され、執行の対象とされている。なお、選挙(直接的には2024年欧州議会選挙)及び未成年者保護に関しては、特にガイドラインが公表されている。
第5に、Google、Apple、Amazonは、2010年代の「プラットフォームの弊害」に関する議論の中心であり、デジタル市場法の執行においては主たる標的となっているが、デジタルサービス法においては、積極的な法執行の対象とはなっていない(少なくとも、正式調査は開始されていない。)。同法との関係では、むしろ適切な体制整備に努めていると評価されているものと思われる。
次節以下では、4つの個別テーマ、すなわち、①SNS・動画共有サイトにおける選挙・市民的言説、②未成年者保護、③オンラインマーケットプレイスにおける違法製品・取引、ダークパターン、④金融詐欺を巡る動きを概観する。
(3) SNS・動画共有サイトにおける選挙・市民的言説を巡る動き
我が国でも議論されているとおり、SNS・動画共有サイトの「システミックリスク」の主要なものは、情報操作を通じた選挙や市民的言説への干渉である。これに関し、欧州委員会は、2024年欧州議会選挙*20に向けて、ガイドラインを公表し、体制整備(特にコンテンツモデレーションのリソース確保)、公式情報にアクセスしやすくすること、リテラシー向上(プレバンキングを含む)、コンテンツの発信者の利害関係や信頼性を判断するための手掛かりの提供、レコメンダーシステムの適切な設計・透明性・テスト、政治広告の透明性(明確なラベリング、スポンサー等に関する情報提供、公開の広告リポジトリ等)等を求め*21、ストレステストを実施した*22。また、欧州委員会は、2025年2月には、任意の取組みであった「偽情報に関する実務規範」*23(収益化停止、政治広告の透明性、サービスの完全性(偽情報の拡散のための操作的手法の防止)、ユーザーのエンパワメント等を含む。)を、DSA上の行動規範として位置づけ、DSA遵守の判断に用いることとした。SNS・動画共有サイトのコンテンツモデレーションに関しては、ルーマニア大統領選挙を除いて、現在のところ制裁金決定やコミットメントは行われていないが、事前の対話と協調が重視されている可能性がある。なお、これらの取組みは、2020年の欧州民主主義行動計画*24や2023年民主主義防衛コミュニケ*25といった文脈の中にあり、関連する動きとして、2024年に政治広告の透明性に関する規則が制定され*26、2025年10月に同規則に関するガイドラインが公表されている*27。
情報操作を通じた選挙干渉を巡って注目に値するのは、2024年ルーマニア大統領選挙である。2024年11月24日に行われた第1回投票では、泡沫候補と見られていたCălin Georgescu氏が首位となったが、同年12月4日、TikTok上での露出の急増(有料プロモーションが行われていた可能性があるほか、レコメンダーシステムが一部の傾向を増幅した可能性が指摘された。)、選挙資金の不透明性(同氏は選挙資金をゼロと申告していた。)等から、ロシアの干渉があったとする国家安全保障会議の文書が機密解除され、同月6日、憲法裁判所が第1回投票を無効とした*28(その後、規制強化の上、2025年5月に再投票が実施され、Nicușor Dan氏が当選した。)。欧州委員会は、本件について、2024年12月17日にTikTokに対する正式調査を開始した。
(4) 未成年者保護を巡る動き
未成年者保護は、SNS・動画共有サイトとオンラインマーケットプレイスの双方にまたがる主要な「システミックリスク」の一つだと言える。この点については、欧州委員会が、2025年10月に包括的なガイドラインを公表している*29。
同ガイドラインは、未成年者保護上のリスクを5つに分類し、①コンテンツリスク(=有害コンテンツに晒されるリスク)として、自傷行為、自殺、摂食障害、極端な暴力を助長するコンテンツ、②行動リスク(=未成年者が自己又は他者にとって有害な行動を取るリスク)として、未成年者によるヘイト・暴力的・児童ポルノを送信する行為や、危険なチャレンジへの参加、セクスティング、③接触リスク(=他者との接触により被害を受けるリスク)として、オンライングルーミング、オンラインでの性的強要、ネットいじめ、人身取引、オンライン詐欺、④消費者リスクとして、マーケティング・プロファイリングに関するリスク、オンライン詐欺、保護者の同意のない高額支出、セキュリティリスク、薬物・医薬品・アルコール等の購入、⑤横断的リスクとして、AIチャットボット等の先端技術に関するリスク、オンラインプラットフォームの利用または過度の利用に関連する肥満や拒食、メンタルヘルス上の問題を挙げている。
同ガイドラインを受けた2025年10月10日のRFIでは、年齢制限のほか、Snapchatに対しては電子タバコや薬物等の販売を防止する措置、YouTubeに対してはレコメンダーシステム(未成年者に対する有害コンテンツのレコメンデーション)、App StoreとGoogle Playに対してはギャンブル、性的ディープフェイクアプリ(nudify apps)等の有害アプリ等に関する情報提供要求が行われている。
一方、具体的な法執行事例としては、TikTok Liteの件がある。問題になったTikTok Liteは、TikTokの軽量版であるが、「Task and Rewardプログラム」を有しており、ユーザーは、動画の視聴、コンテンツへのいいね、クリエイターのフォロー、友人の招待など、TikTok上で特定の「タスク」を実行することで、ポイントを獲得できるようになっていた。欧州委員会は、この機能が、中毒的な行動(addictive behavior)を誘発し、未成年者を含むメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があるとして、迅速に正式調査を開始し、サービス提供を中止させた(2024年4月17日RFI発出、同月22日正式調査開始、同月24日サービス一時停止、同年8月5日コミットメント受入れ)。中毒性は、TikTok(前記とは別件)(2024年2月19日)、Facebook及びInstagram(2024年5月16日)、Temu(2024年10月31日)に対する正式調査開始のプレスリリースにおいても言及されており、少なくとも2024年において、デジタルサービス法の執行における一つのトレンドとなっている(いた)。
(5) オンラインマーケットプレイスにおける違法製品・取引、ダークパターンを巡る動き
オンラインマーケットプレイスにおいては、違法な製品や取引への対処が主たる課題であるが、DSA第4章2節の「通知と対応」メカニズム、第3節のオンラインプラットフォーム提供者の義務、第4節のBtoCマーケットプレイスの提供者の義務(事業者のトレーサビリティ・KYBC、コンプライアンス・バイ・デザイン)、第5節のVLOPsのリスク評価・低減義務を組み合わせた積極的な法執行が行われている。
Amazon、AliExpress、Shein、Temuに対する指定決定・RFI・正式調査開始のプレスリリースにおいては、例えば、①偽造の医薬品・食品・栄養補助食品、規格等への不適合品、知的財産侵害品(著作権侵害品、商標権侵害品等)に関する「通知と対応」メカニズムとリスク評価・低減の実施状況、②アフィリエイターを含めた事業者のKYBC、③レコメンダーシステム・広告の透明性、④ダークパターンの禁止が重点的な調査項目とされている。
(6) 金融詐欺を巡る動き
注目すべき動きとして、金融詐欺に関する2025年9月23日のRFIがある。欧州委員会は、「オンラインプラットフォームや検索エンジンは、詐欺師が被害者となる個人・組織を探し、彼らに接触するために広く利用されている」として、①App StoreとGoogle Playについて、正規の銀行・投資・取引アプリを装ったアプリ、②Booking.comについて、偽の宿泊施設のリスティング(ユーザーは予約したのに宿泊できない)、③App Store、Google Play、Booking.comについて、KYBCの実施状況(広告主を含む)、④BingとGoogle検索について、詐欺サイトに繋がるリンク・広告、⑤これら全てのサービスについて、広告の透明性に関し情報提供要求を行った。
なお、金融詐欺は、IOSCO(証券監督者国際機構)の2025年5月21日のオンラインハームに関するステートメントでも取り上げられている*30。IOSCOは、オンラインプラットフォームの提供者に対し、①I-SCAN(金融当局が警告を発した無登録業者のリスト)*31の利用を含むデューデリジェンスを実施し、プラットフォーム上で有料コンテンツを掲載しようとする事業者が、当該法域で法的に事業活動を認可されており、規制当局による警告の対象となっていないことを確認すること、②プラットフォーム規約に違反する投資詐欺コンテンツや広告を監視し、迅速に削除することでサービス利用規約を厳格に執行すること、③詐欺を検出するための適切な内部規則、方針、プロセス、ツールを策定し定期的に更新すること、④プラットフォーム提供者が事業を展開する法域において、全ての適用法令や規制を理解し遵守することを確保すること、⑤特定された詐欺行為の通報を含め効果的な情報共有を可能にするため、金融規制当局や政府機関との積極的なコミュニケーションチャネルを確立することを勧告しており、概ね欧州委員会と同様の方向性だといえる。
4 デジタルサービス法の示唆
本節では、前節までに見た内容を踏まえ、情プラ法及び取引DPFに係る検討への示唆を簡潔に示す。
(1) 情プラ法関係
情プラ法改正においては、例えば、以下の事項が論点となると思われる。
第1に、法令違反情報を「迅速化規律」の対象とする場合の、法令違反情報の範囲である。EUは、先に述べたとおり、およそ違法な活動に関連する情報を「通知と対応」メカニズムの対象としており、極めて広範囲である。このような建て付けは、「オフラインで違法なものはオンラインでも違法である」という原則からは自然なものであるが、少なくとも我が国には、過剰であるがエンフォースメントが弱いためにそれほど強い弊害が生じずに済んでいる規制が多く存在すると思われ、前記のような建て付けをそのまま採用した場合、予期しない悪影響が生じる可能性がある。この点について、制度WG中間取りまとめは、「優先的対応が求められる法令違反情報や削除要請の主体となり得る行政機関の種類・要件を更に精査」することとしているが*32、上記の観点から、適切な方向性であると思われる*33。
第2に、広告の事前審査、広告掲載後のモニタリング、広告主の本人確認等である。この点については、2024年、Facebookにおけるなりすまし広告が大きく問題となり、特定DPF取引透明化法の大臣評価において、厳しい非難がなされるとともに*34、広告モニタリング指針*35に基づく任意のモニタリングが行われている。同指針は、審査基準の策定・公表(遷移先の審査、広告内容や遷移先URLに変更があった場合の再審査を含む。)、情報の収集・活用(捜査機関、業界団体等との情報交換を含む。)、広告リポジトリの公開、運用状況の透明性、日本語を理解する人員の確保、AI等の活用、権利者からの通報窓口の設置・公開、権利者から通報があった場合の審査強化、広告主の本人確認等を求めるもので、手法としては十分なものが挙げられていると思われるが、強制力を欠いている*36。しかるところ、その後、同社を巡っては、①法規制の強さと詐欺広告対策による収益の減少を比較し、対策を緩めていたこと、②詐欺被害者にターゲティングして詐欺広告を表示していたこと、③日本による規制強化を避けるため、日本の当局が使用していたのと同じ条件で詐欺広告を検索し、「先回り」して削除することで対策の有効性を高く見せかけていたこと、④台湾が広告主の本人確認を義務付けると、他の地域で詐欺広告を表示し、収益を得ていたことが報道されている*37。この事実は、(a)外国からオンラインサービスを提供する者に対しては、しばしば実効性確保の困難性が主張されるが、少なくともMeta社は、日本の規制を強く意識しており、また台湾の規制によって実際に行動を変容させていること、(b)評判(reputation)に依存していない者に対しては、名指しによる非難(name and shame)には限界があるが、そのような者に対しても、収益の剥奪は効果があることを端的に示していると思われる。そうであるとすれば、指針に明確な法的根拠を与え*38、課徴金制度を設けることを検討すべきであると思われる。
第3に、選挙・市民的言説に対する操作・干渉の防止である。この点については、情プラ法の検討の射程からは外されているが、EUの手法からは、①政治広告自体の透明性・ターゲティングに関する規制、②(規制的手法だけでなく)ユーザーエンパワリングな手法、③ガイドラインやストレステストなどを通じた規制対象者との協調といった各種の手法を組み合わせることの重要性を読み取ることができる。仮に情プラ法に何らかの規制(例えばレコメンダーシステムに関する規制)を設ける場合、そのような対策全体との関係で、情プラ法で何を引き受けるかという観点からの検討が必要である。
第4に、未成年者保護(青少年健全育成)である。この点については、若干の慎重さが必要であると思われる。すなわち、未成年者保護立法においては、客観的な弊害があるのか(裏を返せば、単なる価値観の押し付けとどのように区別されるのか)、それは未成年に固有のものなのか(言い換えれば、年齢による線引きに合理性があるのか*39)、規制が真にそれを抑制するのか(例えば、「依存」的行動が存在するとして、それは真にコンテンツやサービスの性質によるものなのか、むしろ青少年が置かれている環境や文化にアプローチすべきではないのか)、得られるものが失われるものに見合っているのか(一般に、未成年者の選択肢はもともと限られており、規制のインパクトはより大きい。また、未成年者は立法過程で成年者と同等には代表されておらず、立法者には必ずしも適切な比較衡量は期待できない。)、といった検討がおざなりにされやすく、EUの運用(特にTikTok Liteの件)を見ても、そのことについて十分な配慮がなされているとは考え難い。消費者保護において既にそうされているように*40、まずは、より具体的な脆弱性に着目した検討が優先されるべきであると思われる。
第5に、リスク評価・低減義務の導入の可否である。我が国においても、例えば金融分野では、包括的な体制整備義務を課した上で、ビジネスモデル自体がもたらす弊害(例えば有価証券の手数料を優先した不適切な販売・勧誘)について、ビジネスモデル自体の是正を求めたり*41、一定の弊害(例えば銀行口座を利用したマネーロンダリング)に対応するため、それに対応することができる地位にある者をゲートキーパーと位置づけ、当該者に直ちには一次的な責任(例えば、規範的侵害主体や共犯者としての責任)を問わない代わりに、リスクベースでの積極的な対応を求めることは行われてきた*42。また、広告やレコメンダーシステムは、情報流通プラットフォームのビジネスモデルそのものであり、詳細な義務規定を設けることは望ましくなく*43、この意味で、むしろ包括的なリスク評価・低減義務のほうが、弊害への実効的な対処と、過剰規制や規制の陳腐化の回避を両立しやすいとも思われる。
第6に、エンフォースメントである。第2に述べたとおり、少なくとも広告規制については、課徴金を導入し、自主的取組みを行わない情報流通プラットフォーム提供者に対しては、収益の剥奪によって行動の変容を促すことが、消費者保護と公正競争確保*44の双方のために不可欠であると思われる。また、先に述べたとおり、リスク評価・低減義務は、当局の権限行使の端緒としての機能があり、独立のコンプライアンス機能は、当局が規制対象者内部に働きかけるための基礎としての機能がある。このようなエンフォースメント機構としての機能も考慮しつつ、その要否を検討すべきであると思われる。
(2) 取引DPF法関係
情プラ法改正においては、例えば、以下の事項が論点となると思われる。
第1に、CtoC取引DPFの規制の可否である。取引DPF法制定時には、当初、BtoCとCtoCの積極的な区別なく検討が行われたが、最終的に、CtoC取引の売主は行政上の責任を負わず、取引DPF提供者がいかなる観点・立場から消費者保護のための取組みを行うべきかが必ずしも明確とは言えないこと*45、販売者情報開示との関係で不正利用の懸念があること*46から、規制が見送られた経緯がある。しかし、買主に行政規制が及ばないことは、むしろ取引DPFに対する(固有の)規制の必要性を基礎づけるはずであり*47、デジタルサービス法がそうしているように、CtoC取引DPF提供者にも規制を及ぼした上で、特商法を遵守させるための措置、販売者情報開示、本人確認義務など、合理性がある限りで異なる規律を行えば足りると考えられる。
第2に、「迅速化規律」や違法な商品・取引のモニタリング義務である。取引DPF法は、表示に係る苦情処理の努力義務を定めているにとどまるが(同法3条1項2号)、同法4条1項1号に関してであるが、商品の安全性の判断に資する事項等を表示しないことも表示に当たるとの解釈が示されており*48、取引DPF指針では、「そもそも消費者が苦情を申し立てるような状況に至らないように、前段階として」、法令違反・公序良俗違反の出品等を禁止することや、生命・身体に危険が及ぶような商品・役務については事前審査を行うこと等が望ましいとされ*49、令和7年の販売業者ガイドライン改訂では、CtoC取引DPFに関してであるが、「当該取引の場に出品される商品又は提供される役務に関し、法令違反がないように監視を行う」ことが期待されるとされている*50。このような運用は、デジタルサービス法における「通知と対応」メカニズム、コンプライアンス・バイ・デザイン、リスク評価・低減義務への接近を志向するものといえ、それ自体の当否は別途問題となりうるが、仮にこの方向性を推し進めるのであれば、行政機関からの通報(例えば、製品安全規制、薬事規制、金融規制*51、チケット不正転売禁止法*52等に違反する商品・役務(アプリ含む*53)に関する通報や、取引DPFがマネロン*54や詐欺に利用されているとの通報)に対する迅速な対応義務や、取引モニタリングに当たって、経産省の「製品安全4法における連絡不通事業者リスト」や金融庁の「警告書の発出を行った無登録業者」などの活用を求めることが考えられる。
第3に、販売業者等の本人確認と紛争解決である。取引DPF法は、売主の身元確認の努力義務を定めており(同法3条1項3号)、アカウント登録時の登記事項証明書*55(法人の場合)、住民票(個人の場合)、販売業者の氏名・名称と銀行口座名義が一致することの確認、必要な許認可の証明書による確認等がベストプラクティスとされているが*56、少なくとも、犯収法4条1項1号、4項相当の本人特定事項の確認を義務付ける必要があると思われる。一方、取引DPF法との検討過程では、取引当事者間の紛争解決のためのADRが検討されたが、取引DPF提供者自身との紛争(DSA第21条)と異なり、取引DPFを利用する販売業者等に責任ある行動を期待することは困難であることに留意する必要がある(端的に言えば、悪質な事業者はサービスからの排除を中心とせざるを得ないようにも思われる。)。
第4に、ダークパターンの禁止である。取引DPF法は、販売業者による表示の適正化のため、取引DPF提供者に義務を課しているが(同法3条1項2号、4条1項柱書)、取引DPFにおいては、ユーザーインターフェースの設計やセールの実施など、取引DPF提供者が主体的に決定・実施する要素が、ダークパターンを構成していることも少なくない。そのような慣行については、デジタルサービス法25条のように、取引DPF提供者に一次的な責任を負わせる必要があると思われる。
第5に、エンフォースメントである。取引DPF法は、官民協議会を通じた対話以外のエンフォースメント手段を持たないが、国内・国外ともに(情プラ法の箇所で述べた)評判を重視しない規制対象者が存在することは否定できず、消費者保護と公正競争確保の双方観点から、課徴金を含むエンフォースメントの強化が不可欠であると思われる。なお、現行取引DPF法は、情プラ法第5章と異なり、取引DPF提供者の規模を問わず適用されるが、それによって、規制対象者が「多様化」し、実効的な規律が困難となっている可能性があり*57、エンフォースメント強化に当たっては、段階的な規制(柔構造化)も検討すべきであると思われる。
5 おわりに
本稿では、デジタルサービス法の分析に基づいて、情プラ法・取引DPF法改正に向けた論点について若干の検討を行った。EUのデジタル立法(例えばGDPR、DSA、DMA、AI法)は、動的なプロセスの一部であり、その実態は、運用を含めて観察することで初めて理解できることも多い。また、それらの立法が、全体として参考になることは確かであるが、個別の条項のレベルでは、その合理性が疑わしいものも少なくない。したがって、我が国の立法の参考とするに当たっては、丁寧な検討が不可欠である。本稿がその一助となれば幸いである。
(2026年1月4日脱稿)
別表1 VLOPs/VLOSEsの一覧
| エンティティ名 | 指定サービス | 所管DSC | グループ拠点 | カテゴリ |
|---|---|---|---|---|
| Twitter International Unlimited Company (TIUC) | X | アイルランド | 米国 | SNS |
| MetaPlatforms Ireland Limited | Facebook / Instagram | アイルランド | 米国 | SNS |
| TikTokTechnology Limited | TikTok | アイルランド | 中国 | SNS=動画共有サイト(非ポルノ) |
| LinkedIn Ireland Unlimited Company | アイルランド | 米国 | SNS | |
| Pinterest Europe Ltd. | アイルランド | 米国 | SNS | |
| Snap B.V. | Snapchat | オランダ | 米国 | SNS |
| Google Ireland Ltd. | Google Search / Google Play / YouTube | アイルランド | 米国 | 検索エンジン/マーケットプレイス(デジタルコンテンツ)/動画共有サイト(非ポルノ) |
| Apple Distribution International Limited | App Store | アイルランド | 米国 | マーケットプレイス(デジタルコンテンツ) |
| Amazon Services Europe S.à.r.l. | Amazon Store | ルクセンブルク | 米国 | マーケットプレイス(物品・デジタルコンテンツ) |
| AliExpressInternational (Netherlands) B.V. | AliExpress | オランダ | 中国 | マーケットプレイス(物品) |
| Whaleco Technology Limited | Temu | アイルランド | 中国 | マーケットプレイス(物品) |
| Infinite Styles Services Co, Ltd | Shein | アイルランド | 中国→シンガポール | マーケットプレイス(物品) |
| Zalando SE | Zalando | ドイツ | ドイツ | マーケットプレイス(物品) |
| Booking.com B.V. | Booking.com | オランダ | 米国 | オンライン旅行代理店(OTA) |
| Microsoft Ireland Operations Limited | Bing | アイルランド | 米国 | 検索エンジン |
| Wikimedia Foundation Inc 3**** | Wikipedia | オランダ | 米国 | オンライン百科事典 |
| Aylo Freesites Ltd. | Pornhub | キプロス | カナダ | 動画共有サイト(ポルノ) |
| Technius Ltd. | Stripchat | キプロス | キプロス | 動画共有サイト(ポルノ) |
| NKL Associates s.r.o | XNXX | チェコ | チェコ | 動画共有サイト(ポルノ) |
| WebGroup Czech Republic | XVideos | チェコ | チェコ | 動画共有サイト(ポルノ) |
別表2 主要なVLOPs/VLOSEsに対する法執行の概況
| 日付 | X | Meta | TikTok | Apple | Amazon | AliExpress | Shein (Infinite Styles) | Temu (Whaleco Technology) | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2023-04-25 | 指定(X) | 指定(Facebook / Instagram) | 指定(TikTok) | 指定(Google Search / Google Play / Google Maps / Google Shopping / YouTube) | 指定(App Store) | 指定(Amazon Store) | 指定(AliExpress) | ||
| 2023-10-12 | RFI(違法コンテンツ、特にハマスに関するテロ・暴力的コンテンツ、ヘイトスピーチ等) | ||||||||
| 2023-10-19 | RFI(違法コンテンツ、特にハマスに関するテロ・暴力的コンテンツ、ヘイトスピーチ等) | RFI(違法コンテンツ、特にハマスに関するテロ・暴力的コンテンツ、ヘイトスピーチ等) | |||||||
| 2023-11-06 | RFI(違法な物品等) | ||||||||
| 2023-11-09 | RFI(未成年者の精神的・身体的健康へのリスク) | RFI(未成年者の精神的・身体的健康へのリスク) | |||||||
| 2023-11-10 | RFI(未成年者の精神的・身体的健康へのリスク) | ||||||||
| 2023-11-15 | RFI(違法な物品、レコメンダーシステム等) | ||||||||
| 2023-12-01 | Instagaramに関するRFI(自己生成児童性的搾取コンテンツ(Sexting等)) | ||||||||
| 2023-12-14 | Google Playに対するRFI(アプリストア関係) | RFI(アプリストア関係) | |||||||
| 2023-12-18 | 正式審査開始(違法コンテンツ対処、民主的政治過程、透明性義務違反、認証バッジの欺瞞的設計等) | ||||||||
| 2024-01-18 | RFI(研究者アクセス) | RFI(研究者アクセス) | RFI(研究者アクセス) | RFI(研究者アクセス) | RFI(研究者アクセス) | RFI(研究者アクセス) | RFI(研究者アクセス) | ||
| 2024-02-19 | 正式審査開始(中毒性の高い設計、有害コンテンツ、未成年保護、広告透明性、研究者へのデータアクセス等) | ||||||||
| 2024-03-01 | RFI("Pay or OK"、ターゲティング広告) | ||||||||
| 2024-03-14 | RFI(生成AI関係) | RFI(生成AI関係) | RFI(生成AI関係) | RFI(生成AI関係) | 正式審査開始(違法な物品、通知と行動、苦情処理、事業者のトレーサビリティ、広告透明性、研究者アクセス等) | ||||
| 2024-04-17 | RFI(TikTok Liteの"Task and Reward Lite"の中毒性の未成年者の精神的健康への影響) | ||||||||
| 2024-04-22 | 正式審査開始(TikTok Liteの"Task and Reward Lite")、暫定措置の通知、RFI | ||||||||
| 2024-04-24 | TikTok Liteの"Task and Reward Lite"の自主的一時停止に関するBreton委員の声明 | ||||||||
| 2024-04-26 | 指定(Shein) | ||||||||
| 2024-04-30 | 正式審査開始+RFI(Facebook / Instagramの通知と行動、苦情処理、研究者アクセス等義務遵守開始と情報要請) | ||||||||
| 2024-05-08 | RFI(正式審査関係) | ||||||||
| 2024-05-16 | 正式審査開始(中毒性の高い設計、未成年者保護) | ||||||||
| 2024-05-31 | 指定(Temu) | ||||||||
| 2024-06-28 | RFI(通知と行動、欺瞞的設計、未成年者保護、レコメンダーシステム、事業者のトレーサビリティ、コンプライアンスバイデザイン) | RFI(通知と行動、欺瞞的設計、未成年者保護、レコメンダーシステム、事業者のトレーサビリティ、コンプライアンスバイデザイン) | |||||||
| 2024-07-05 | RFI(レコメンダーシステム、広告リポジトリ) | ||||||||
| 2024-07-12 | 予備的見解(透明性義務等) | ||||||||
| 2024-08-05 | コミットメント受入れ(TikTok Liteの"Task and Reward Lite") | ||||||||
| 2024-08-16 | RFI(研究者アクセス等に関する追加情報要請) | ||||||||
| 2024-10-02 | RFI(レコメンダーシステムの選挙、市民的言論、ユーザーの精神的健康等への影響) | YouTubeに関するRFI(レコメンダーシステムの選挙、市民的言論、ユーザーの精神的健康等への影響) | |||||||
| 2024-10-11 | RFI(違法な物品、レコメンダーシステム、個人データ保護) | ||||||||
| 2024-10-31 | 正式審査開始(不適合製品、報酬プログラムの中毒性、レコメンダーシステム、研究者アクセス) | ||||||||
| 2024-11-29 | RFI(ルーマニア大統領選挙関係) | ||||||||
| 2024-12-05 | 保全命令(ルーマニア大統領選挙関係) | ||||||||
| 2024-12-17 | 正式審査開始(ルーマニア大統領選挙関係) | ||||||||
| 2025-01-17 | 保全命令、RFI、APIアクセス要請(正式審査関係) | ||||||||
| 2025-02-06 | RFI(違法な物品、レコメンダーシステム、研究者アクセス等) | ||||||||
| 2025-05-15 | 予備的見解(広告透明性) | ||||||||
| 2025-06-18 | 予備的見解/コミットメント受入れ(違法な物品) | ||||||||
| 2025-07-28 | 予備的見解(違法な物品。調査は継続) | ||||||||
| 2025-09-23 | Google Play / Google Searchに関するRFI(金融詐欺:無登録業者のアプリ、KYBC、広告リポジトリ等) | RFI(金融詐欺:無登録業者のアプリ、KYBC、広告リポジトリ等) | |||||||
| 2025-10-10 | Google Play / YouTubeに関するRFI(7月公表の未成年者保護ガイドライン関係) | RFI(7月公表の未成年者保護ガイドライン関係) | |||||||
| 2025-10-24 | Facebook / Instagramに関する予備的見解(研究者アクセス、通知と行動、苦情処理、透明性) | 予備的見解(研究者アクセス、通知と行動、コンテンツモデレーションに対する異議申立て) | |||||||
| 2025-11-26 | RFI(子供のようなセックスドール、武器) | ||||||||
| 2025-12-05 | 1億2,000万ユーロの制裁金決定(認証バッジの欺瞞的設計、広告リポジトリ、研究者アクセス) | コミットメント受入れ(2件の予備的見解関係) |
*1:Regulation (EU) 2022/2065 of the European Parliament and of the Council of 19 October 2022 on a Single Market For Digital Services and amending Directive 2000/31/EC (Digital Services Act).
*2:European Commission, The Digital Services Act, https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/digital-services-act; Digital Services Act: Questions and Answers, https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/faqs/digital-services-act-questions-and-answers
*3:諸課題検討会の最新の成果物として、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会中間取りまとめ」(令和7年9月)。「デジタル広告ワーキンググループ 中間取りまとめ」(「広告WG中間取りまとめ」)と「デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ中間取りまとめ」(「制度WG中間取りまとめ」)からなる。
*4:特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成13年法律第137号)。令和6年改正(同年法律第25号)により、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律から題名変更。同改正前は、「プロバイダ責任制限法」ないし「プロ責法」と通称されたが、同改正後は、「情報流通プラットフォーム(権利侵害)対処法」ないし「情プラ法」と通称される。
*5:取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(令和3年法律第32号)。「取引DPF(消費者保護)法」と通称される。
*6:このような消費者法の見直しの方向性に関して、第1回現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会(2025年11月25日)の資料4-1と議事録参照。また、「消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会報告書」(2025年7月)(「パラダイムシフト報告書」)参照。
*7:同法に関して、生貝直人「EUデジタルサービス法とプラットフォームのガバナンス」法とコンピュータ41号(2023)、田村祐子「【EU】デジタルサービス法の制定」外国の立法295-1号(2023)。
*8:なお、情報流通プラットフォーム(法文上は「特定電気通信役務提供者」)からは、取引DPFも当然に排除されるものではない。①取引DPF上で薬機法違反製品を購入した消費者が発信者情報開示請求権に基づき取引DPF提供者に販売者に関する情報の開示を請求できないのは、情プラ法2条6号の「(情報の流通)によって」要件を満たさないからに過ぎず、また、②取引DPFのレビュー欄に名誉毀損的投稿が蔓延していた場合でも取引DPF提供者が情プラ法21条1項の指定を受けることがないのは、同項3号に基づく情プラ法施行規則8条6項の指定要件を満たさないからに過ぎない。翻って、③例えば薬機法72条の5第2項は、取引DPFを除外するような要件を定めていないから、①の場合に厚生労働大臣が取引DPF提供者に同項の要請を行うことは可能である。
*9:通信当局(e.g. ドイツ、イタリア、ベルギー)、メディア当局(e.g. フランス、アイルランド)、消費者保護当局(e.g. オランダ)、競争当局(e.g.スペイン)などが指定されている。なお、欧州委員会では、通信・メディア当局であるDG CONNECTがデジタルサービス法を所管する。
*10:デジタル市場法と比べると、加盟国当局にも権限が分配されている(ただし、義務自体はEUレベルで統一されている)点、GDPRと比べると、大規模事業者を欧州委員会が直接監督する点で特徴的である。一貫性メカニズムは、基本的にはGDPRに類似しているが、調整者としての欧州委員会の役割はより大きい。
*11:この点に関し、2025年11月に、European Business Wallet (EUBW)に係る規則案が公表されている。EUBWが普及した場合、加盟国の商業登記所に相当する機関がVerifiable Credentialsやmdoc形式の証明書を発行し、オンラインプラットフォームの利用時には、その提示を受け、電子的にこれを検証する、といったことが可能になる。
*12:具体的には、①商品・役務の識別のための情報、②事業者の識別のための情報(商標、シンボル、ロゴ等)、③商品の安全性・規制遵守に関するEU法に基づくラベル・マーク(CEマーク等)(DSA第31条2項各号)。
*13:研究者がオンラインにおける/に関する弊害の実態やメカニズムを分析することを可能にすることが、政策決定や法執行にも役立つという観点から要求されている。
*14:Owen Bennett, The Promise of Financial Services Regulatory Theory to Address Disinformation in Content Recommender Systems, 10 Internet Policy Review 2 (May 11, 2021); Rachel Griffin, Governing Platforms Through Corporate Risk Management: The Politics of Systemic Risk in the Digital Services Act, 4 European Law Open 2, at 232 (June 4, 2025). なお、リスク評価・低減義務は、「システミックリスク」に関するものとされるが、金融規制法上のシステミックリスクとは無関係であり、さらに言えば、(金融規制はプルーデンス規制とコンダクト規制に分けられ、システミックリスクの防止は前者に属するが、)デジタルサービス法が対象とするリスクはどちらかといえばコンダクトリスクであるように思われる(See, Zohar Efroni, The Digital Services Act: Risk-Based Regulation of Online Platforms, Internet Policy Review (2021); Michele Loi, Matteo Fabbri & Andrea Ferrario, Regulating the Undefined: Addressing Systemic Risks in the Digital Services Act (with an Appendix on the AI Act), SSRN Scholarly Paper No. 5116070 (2025), available at SSRN; Samuel Carey, Regulating Uncertainty: Governing General-Purpose AI Models and Systemic Risk, First View, European Journal of Risk Regulation, at 5 (2025))。
*15:このようなDPIAは、個人データ保護指令下で求められていた当局への通知義務を置き換えるものである(GDPR Recital 90)。我が国では、個情法第5章(行政機関等を対象とする。)において、個人情報ファイル保有時の個情委への通知義務が定められているが(同法74条)、番号法では、その特別法として、DPIA実施義務と個情委の承認を受ける義務が定められている(同法28条)。
*16:この定義からすれば、ターゲティング広告はレコメンダーシステムの使用に当たると思われるが、その場合の適用関係は必ずしも明らかではない。See, Pieter Wolters & Frederik Zuiderveen Borgesius, The EU Digital Services Act: What Does It Mean for Online Advertising and Adtech?, 33 International Journal of Law and Information Technology eaaf004, at 14 (May 17, 2025).
*17:デジタルサービス法の運用状況全般について、TechPolicy.com, Unpacking the Politics of the EU's €120M Fine of Musk's X, https://www.techpolicy.press/unpacking-the-politics-of-the-eus-120m-fine-of-musks-x/; DSA Observatory, Posts, https://dsa-observatory.eu/posts/が参考になる。
*18:POLITICO, 'An attack on all American tech platforms': Trump admin decries EU fine on Musk's X, https://www.politico.com/news/2025/12/05/an-attack-on-all-american-tech-platforms-trump-admin-decries-eu-fine-on-musks-x-00678891. なお、2024年米国大統領選挙におけるBreton委員の行動に関して、Thierry Breton, "With great audience comes greater responsibility #DSA", https://x.com/ThierryBreton/status/1823033048109367549; POLITICO, EU takes shot at Musk over Trump interview — and misses, https://www.politico.eu/article/eu-elon-musk-donald-trump-interview-thierry-breton-letter-social-media/.
*19:なお、関連事案として、英国サウスポート暴動(2024年7月)やモルドヴァ議会選挙(2025年9月)が知られているが、両国はEU加盟国ではない。
*20:2024年6月実施。欧州議会は、EU市民から直接選挙される議員により構成されるEUの共同立法機関である。欧州議会選挙は、比例代表制で、5年に一度行われる。
*21:European Commission, Communication from the Commission – Commission Guidelines for providers of Very Large Online Platforms and Very Large Online Search Engines on the mitigation of systemic risks for electoral processes pursuant to Article 35(3) of Regulation (EU) 2022/2065, C/2024/2537. 特に「3. ELECTION SPECIFIC RISK MITIGATION MEASURES」に具体的な勧告が記載されている。
*22:See, European Commission, Report on the 2024 elections to the European Parliament, COM(2025) 287 final.
*23:Code of Conduct on Disinformation. Google、Meta、TikTokなどは署名しているが、Xは署名していない。同社は、2018年の最初の行動規範に署名し、2022年の強化された行動規範にも署名したが、Elon Muskによる買収後、2023年5月までに署名を撤回した。
*24:European Commission, Communication from the Commission – Commission Guidelines for providers of Very Large Online Platforms and Very Large Online Search Engines on the mitigation of systemic risks for electoral processes pursuant to Article 35(3) of Regulation (EU) 2022/2065, C/2024/2537.
*25:European Commission, Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions on Defence of Democracy, COM/2023/630 final.
*26:Regulation (EU) 2024/900 of the European Parliament and of the Council of 13 March 2024 on the transparency and targeting of political advertising. 同規則は、広告主(sponsor)と広告主に代わって行動するサービス提供者(provider of political advertising services)に一定の事項(政治広告該当性、広告主の身元と連絡先、広告主の実質的支配者、関連する選挙、資金源等)の申告義務を、広告媒体(political advertising publisher)にユーザーへの情報提供と当局への報告義務を課し、中間のサービス提供者には、記録保持、伝達等の義務を課している。Sponsorには、候補者、政党、政治運動を行う団体等が、Providerには広告代理店、アドネットワーク、DSP/SSP等が、PublisherにはDSA上のオンラインプラットフォームのほか、放送事業者、新聞社、出版社などが該当しうる。本規則は、詐欺広告等を対象とするものではないが、伝統的メディアのオンライン版を含む広告エコシステム全体を対象とした規制手法の一例として参考になると思われる。
*27:European Commission, Communication from the Commission – Guidelines to support the implementation of Regulation (EU) 2024/900 on the transparency and targeting of political advertising, C(2025) 6829 final.
*28:Radio Free Europe/Radio Liberty, How TikTok Fueled The Rise Of Romania's Far-Right Presidential Candidate Georgescu, https://www.rferl.org/a/tiktok-calin-georgescu-presidential-candidate-romania/33216735.html; Romanian Elections Targeted By 'Aggressive Hybrid Russian Action,' Declassified Documents Show, https://www.rferl.org/a/romania-russia-election-interference-tiktok/33227010.html.
*29:European Commission, Communication from the Commission – Guidelines on measures to ensure a high level of privacy, safety and security for minors online, pursuant to Article 28(4) of Regulation (EU) 2022/2065, C/2025/5519.
*30:IOSCO, IOSCO's Statement on Combatting Online Harm and the Role of Platform Providers, https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD797.pdf. See also, IOSCO, IOSCO statement on online harm, https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD752.pdf; Digital Engagement Practices (DEPs), https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD794.pdf/.
*31:IOSCO, International Securities & Commodities Alerts Network (I-SCAN), https://www.iosco.org/i-scan/
*32:制度WG中間取りまとめ23頁。
*33:なお、この点について、「薬機法のように、個別の行政規律に行政機関からプラットフォーム事業者に対する削除要請の法的根拠が必要」との考え方がある一方で、「別表方式で規律する場合、各行政法規に新たに削除要請権限を与えているのと同義となる可能性」がある旨の指摘がされているが(制度WG中間取りまとめ23頁注33)、薬機法72条の5第2項は、授権規範というよりは制限規範であることに留意する必要がある(第187回国会衆議院厚生労働委員会第3号平成26年10月17日、同委員会第8号平成26年11月14日参照)。
*34:「2024年度デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関する評価(デジタル広告分野)」(2024年12月)44頁。
*35:「デジタル広告の流通を巡る諸課題への対応に関するモニタリング指針」(2025年9月)。
*36:情プラ法によるエンフォースメントの有無について、制度WG第10回、第11回で言及されているが、事務局からは特に説明はなされていない。
*37:Reuters, 米メタ、詐欺広告などで巨額収益か 1日150億件表示=内部文書, https://jp.reuters.com/markets/global-markets/6YOFDGODVFMYZEG2M4S7O5LEVU-2025-11-08/; 特別リポート:中国発の詐欺広告に甘いメタ、数千億円規模の収入優先か, https://jp.reuters.com/economy/DYBLPOIBNRO4ROSGGXGF7DJV6M-2025-12-16/; Meta created 'playbook' to fend off pressure to crack down on scammers, documents show, https://www.reuters.com/investigations/meta-created-playbook-fend-off-pressure-crack-down-scammers-documents-show-2025-12-31/.
*38:行政規制法の義務規定(のリスト)は、行政庁の介入を正当化するものであるが、同時に、それが規制当局の担当者や企業内部のコンプライアンス担当者の意識・思考や、彼らの意思決定権者に対するコミュニケーションを強く規定する面がある。このことは、外国企業を対象とする場合に特に意識する必要があると思われる。
*39:このことは、こども施策の基本理念である個人の尊重に関わる(こども基本法3条1号、「こども大綱」(令和5年12月22日閣議決定))。なお、特定の年齢(例えば18歳未満であること)による区別の合理性と、年齢による区別を行うことそのものの合理性は、分けて考える必要がある。
*40:パラダイムシフト報告書9頁〜13頁。
*41:関東財務局, 立花証券株式会社に対する行政処分について, https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekthp202504111915.html.
*42:金融庁, イオン銀行に対する行政処分について, https://www.fsa.go.jp/news/r6/ginkou/20241226-2/20241226.html. 金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(2021年11月22日)では、犯罪収益移転防止法上の義務の履行に加え、積極的なリスクの評価・低減が求められている。
*43:例えば、①特別カテゴリデータを使用したプロファイリング広告の禁止や、②未成年者に対するプロファイリングの禁止、③プロファイリングに基づかないレコメンダーシステムの提供義務は、それ自体が何らかの弊害を生じさせるわけではなく、具体的な義務として規定することが適切であるかは疑わしい。GDPRにおいても、「プロファイリング」は、常に「プロファイリングを含む自動化された決定」という形で使われ、かつ、その目的や効果(その否定的側面が弊害である。)に応じた規律の対象とされているに過ぎない。
*44:端的に言えば、誠実なプラットフォーム提供者が手を伸ばさなかった果実を不誠実なプラットフォーム提供者が手にする事態は避けなければならない。
*45:「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会報告書」(2021年1月)(「DPF消費者取引報告書」)8頁。
*46:DPF消費者取引報告書16頁。
*47:「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会論点整理」(2020年8月)(「DPF消費者取引論点整理」)9頁。
*48:第204回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会第5号令和3年4月13日087番(坂田進政府参考人)、175番(井上信治国務大臣)、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律についてのQ&A」Q1。
*49:DPF消費者取引報告書3頁。
*50:消費者庁「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律における「販売業者等」に係るガイドライン」(2025年7月最終改訂)5頁。
*51:日本経済新聞, 金融庁、Appleに初の停止要請 無登録の仮想通貨アプリ, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB076J90X00C25A2000000/.
*52:取引DPF法制定時に、転売問題への対応が議論された。取引DPF規制の観点からは、他の法令(例えば、国民生活安定緊急措置法、チケット不正転売禁止法)により転売が禁止又は制限されている転売と、そうではない転売を区別する必要がある。前者は端的に違法取引であるから、取引DPF規制を通じて当該他の法令のエンフォースすることが適切か、またそのためにはどのような仕組みが適切かが問われることになる。一方、後者はそうではないから、取引DPF法で取引DPFに限って何らかの対応を求めることが適切かが問われることになる。
*53:アプリストアは取引DPFに該当する(槇本英之ほか「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律の概要」NBL1202号5頁(2021))。スマホ法の施行に伴い、iPhone向けに違法・有害なアプリが頒布されることが懸念されており(石井夏生利「スマホ新法を巡る諸問題−バランスの取れた規律のあり方に向けて」情報通信政策研究9巻1号126頁〜130頁(2025))、今後、取引DPF法に一定の役割が求められる。
*54:朝日新聞, 犯罪収益9千万円をマネロン疑いで5人を逮捕 警察庁の捜査隊が解析 https://digital.asahi.com/articles/ASR8Q3RQ0R8MUTNB004.html. なお、取引DPFが提供する決済機能は、通常、資金移動業に該当せず(資金移動業に関する内閣府令1条の2第3号イ、ロ参照)、犯収法の適用もない(犯収法2条2項31号参照)。
*55:「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律第3条第3項に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な指針」(令和4年5月2日内閣府告示第66号)(「取引DPF指針」)5頁は、「法人であれば当該法人自らの法人番号又は登記事項証明書等」を求めるとしているが、法人番号は公開情報であるから、その提出を求めるだけでは、法人番号が指す法人と販売業者の同一性を確認したことにはならないと思われる。
*56:取引DPF指針5頁。
*57:DPF消費者取引報告書4頁。