国連サイバー犯罪条約案の仮訳

国連サイバー犯罪条約案(A/AC.291/L.15)の仮訳です。背景等については国連サイバー犯罪条約案について - Mt.Rainierのブログをご参照ください。

本仮訳は、AIを使用して作成したドラフトを適宜加筆修正して作成しています。原文を読む前のインデックスとしての使用を想定しており、内容の正確性を保証するものではありません。

 

 

第I章 総則

第1条 目的の宣言

本条約の目的は以下の通りである:

  • (a) サイバー犯罪をより効果的かつ効率的に防止し、対策を強化すること。 
  • (b) サイバー犯罪の防止及び対策において、国際協力を促進、支援、強化すること。 
  • (c) サイバー犯罪の防止及び対策において、特に発展途上国の利益のために、技術支援及び能力開発を促進し、支援し、強化すること。

 

第2条 用語の定義

本条約において:

  • (a) 「情報通信技術システム」とは、1つ又は複数の機器が、プログラムに従い、電子データを収集、保存、及び自動処理するために相互に接続され又は関連付けられた機器をいう。 
  • (b) 「電子データ」とは、情報通信技術システム内で処理に適した形式の、事実、情報、概念のあらゆる表現をいう。
  • (c) 「トラフィックデータ」とは、情報通信技術システム内の通信に関連する電子データで、通信の発信地、宛先、ルート、時間、日付、サイズ、継続時間、又は基礎となるサービスの種類を示すものをいう。
  • (d) 「コンテンツデータ」とは、情報通信技術システムにより転送されたデータの内容に関する電子データをいい、画像、テキストメッセージ、音声メッセージ、音声録音、ビデオ録音を含むが、これらに限られない。
  • (e) 「サービスプロバイダー」とは、以下のいずれかを行う公的又は私的機関を指す: 
    • (i) 情報通信技術システムを用いてユーザー間の通信を提供するサービスを提供する者。
    • (ii) そのような通信サービス又はそのユーザーに代わって電子データを処理又は保存する者。
  • (f) 「加入者情報」とは、サービスプロバイダーが保有する情報のうち、トラフィックデータ又はコンテンツデータを除き、以下の事項を特定できる情報をいう:
    • (i) 使用される通信サービスの種類、これに関連する技術的な条件、およびサービスの提供期間
    • (ii) 加入者の身元、郵便または地理的住所、電話番号その他のアクセス番号、請求または支払いに関する情報(サービス契約または取り決めに基づき利用可能なもの)
    • (iii) 通信機器の設置場所に関するその他の情報(サービス契約または取り決めに基づき利用可能なもの)
  • (g) 「個人データ」とは、識別された又は識別可能な自然人に関連する情報をいう。
  • (h) 「重大な犯罪」とは、長期4年間以上の自由剥奪の刑罰が科される行為をいう。
  • (i) 「財産」とは、実体的か無体的か、動産か不動産か、有形か無形かを問わず、全ての種類の資産をいい、仮想資産及びその資産に対する権利や利益を示す法的文書又は証書を含む。
  • (j) 「犯罪収益」とは、犯罪の実行により直接又は間接的に得られた全ての財産をいう。
  • (k) 「凍結」又は「押収」とは、裁判所又は他の権限ある当局によって発行された命令に基づき、財産の移転、変換、処分又は移動を一時的に禁止すること、又は財産の管理を一時的に行うことをいう。
  • (l) 「没収」とは、適用される場合には没収を含み、裁判所又は他の権限ある当局による財産の恒久的な剥奪をいう。
  • (m) 「前提犯罪」とは、本条約第17条に定義される犯罪の対象となる犯罪収益を発生させるあらゆる犯罪をいう。
  • (n) 「地域経済統合機構」とは、本条約に基づく事項についてその加盟国が権限を移譲した特定の地域の主権国家によって構成され、その内部手続に従って本条約に署名、批准、受諾、承認又は加入する権限を正式に付与された組織をいう。本条約における「締約国」への言及は、その権限の範囲内でこれらの機構に適用される。
  • (o) 「緊急事態」とは、自然人の生命又は安全に対する重大かつ差し迫った危険が存在する状況をいう。

 

第3条 適用範囲

本条約は、本条約に明記されている場合を除き、以下に適用される:

  • (a) 本条約に基づいて設定された犯罪行為の防止、捜査及び訴追、並びにそのような犯罪から得られた収益の凍結、押収、没収及び返還。
  • (b) 本条約第23条及び35条に従って行われる刑事捜査又は手続として行われる、電子形式の証拠の収集、取得、保全及び共有。

 

第4条 他の国際連合条約及び議定書に基づいて設定された犯罪

  1. 締約国は、自国が締結している他の適用可能な国連条約及び議定書を履行する際に、その条約及び議定書に従って設定された犯罪が、情報通信技術システムを使用して行われた場合にも、国内法において犯罪とみなされることを確保しなければならない。
  2. 本条のいかなる内容も、本条約に従って犯罪を設定するものとして解釈してはならない。

 

第5条 主権の保護

  1. 締約国は、本条約に基づく義務を、主権平等並びに領土保全の原則及び内政不干渉の原則と整合する形で履行しなければならない。
  2. 本条約のいかなる内容も、ある締約国が他の国の領域内で、国内法によってその国の当局に専属的に留保されている権限の行使や機能の遂行を行うことを認めるものではない。

 

第6条 人権の尊重

  1. 締約国は、本条約に基づく義務の履行が、国際人権法に基づく義務と整合することを確保しなければならない。
  2. 本条約のいかなる内容も、適用される国際人権法に従い、かつ、これらと整合する方法で、表現の自由、信教の自由、集会の自由及び結社の自由に関連する権利を含む人権又は基本的自由を抑圧することを認めるものと解釈してはならない。

 

第II章 犯罪化

第7条 違法なアクセス

  1. 各締約国は、意図的に行われた場合に、権限なく情報通信技術システム全体又はその一部にアクセスすることを国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、犯罪が、電子データを入手する意図、その他の不正な意図もしくは犯罪的な意図をもって、又は他の情報通信技術システムに接続されている情報通信技術システムに関連して、セキュリティ措置を侵害することによって行われることを要件とすることができる。

 

第8条 違法な傍受

  1. 各締約国は、意図的にかつ権限なく、技術的手段を用いて、情報通信技術システムに対して送受信された非公開の電子データの伝送、又は情報通信技術システム内での非公開の電子データの伝送を傍受する行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、犯罪が、不正又は犯罪的な意図をもって行われた場合や、他の情報通信技術システムに接続された情報通信技術システムに関連して行われることを要件とすることができる。

 

第9条 電子データへの干渉

  1. 各締約国は、意図的にかつ権限なく、電子データを損壊、削除、劣化、改変又は抑制する行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、第1項に規定する行為が重大な損害を引き起こすことを要件とすることができる。

 

第10条 情報通信技術システムの機能への干渉

各締約国は、意図的にかつ権限なく、電子データを入力、送信、損壊、削除、劣化、改変又は抑制することによって、情報通信技術システムの機能を著しく妨害する行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。

 

第11条 機器の不正使用

  1. 各締約国は、意図的にかつ権限なく、以下の行為を国内法において犯罪として規定するために必要な立法その他の措置を講じなければならない:
    • (a) 本条約第7条から第10条に従って設定された犯罪を実行する目的で使用する意図をもって、以下のいずれかを取得し、生産し、販売し、使用のために調達し、輸入し、配布し又はその他の方法で提供する行為: 
      • (i) 第7条から第10条に規定された犯罪のいずれかを犯す目的で設計又は適用された機器(プログラムを含む)。
      • (ii) 情報通信技術システムの全体又は一部にアクセスするためのパスワード、アクセス認証、電子署名又は類似のデータ。
    • (b) 本条約第7条から第10条に従って設立された犯罪を実行する目的で使用する意図をもって、(a)(i)又は(ii)に記載された物を所持する行為。
  2. 本条は、入手し、製造し、販売し、使用のために調達し、輸入し、頒布しその他の方法で入手可能とすること又は本条第1項にいう所持が、情報通信技術システムの許可された試験又は保護の目的である場合その他本条約第7条から第10条に従って成立する犯罪を犯す目的でない場合には、刑事責任を課すものと解釈してはならない。
  3. 各締約国は、国内法の原則に基づき、第1項(a)(ii)に規定されている項目の販売、配布又はその他の方法での提供に関しない限りで、第1項の規定の適用を拒否する権利を留保することができる。

 

第12条 情報通信技術システムに関連する偽造

  1. 各締約国は、意図的にかつ権限なく、法的目的に関して真正であるかのように考慮させ又は取り扱わせる意図をもって、電子データを入力、改変、削除又は抑制する行為を、直接読み取り可能かつ理解可能であるか否かに関わらず、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、詐欺の意図又は類似の不正又は犯罪的な意図を要件とすることができる。

 

第13条 情報通信技術システムに関連する窃盗又は詐欺

各締約国は、意図的にかつ権限なく、他人に財産の損失をもたらす以下の行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない:

  • (a) 電子データの入力、改変、削除又は抑制。
  • (b) 情報通信技術システムの機能への干渉。
  • (c) 情報通信技術システムを通じて、事実関係を偽り、その結果として、当該人物が通常であれば行わない行為又は不作為を行わせ又は行わせないこと。

 

第14条 オンラインにおける児童の性的虐待又は児童の性的搾取に関連する犯罪

  1. 各締約国は、意図的にかつ権限なく、以下の行為を国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない: 
    • (a) 情報通信技術システムを通じて、児童の性的虐待又は児童の性的搾取に関連する資料を製造し、提供し、販売し、配布し、送信し、放送し、表示し、出版し、又はその他の方法で提供すること。 
    • (b) 情報通信技術システムを通じて、児童の性的虐待又は児童の性的搾取に関連する資料(注:material)を勧誘し、調達し又はこれにアクセスすること。
    • (c) 情報通信技術システム又は他の記録媒体に保存された児童の性的虐待又は児童の性的搾取に関連する資料を所持し又は管理すること。
    • (d) 第1項(a)から(c)に規定された犯罪を資金援助すること。
  2. 本条において、「児童の性的虐待又は児童の性的搾取に関連する資料」とは、18歳未満の者を描写、説明又は表現する視覚資料、又は文書又は音声コンテンツを含むものとし、以下の内容を含みうる:
    • (a) 実際又はシミュレーションされた性的行為に従事すること。
    • (b) 性的行為を行っている人物の前にいること。
    • (c) 主に性的な目的で表示された性的部位を持つこと。
    • (d) 性的な性質を持つ拷問又は残虐、非人道的、又は屈辱的な取り扱いを受けていること。
  3. 締約国は、本条第2項に記載された資料を、以下のいずれかに限定することができる:
    • (a) 実在の人物を描写、説明又は表現するもの。
    • (b) 児童の性的虐待又は児童の性的搾取を視覚的に描写するもの。
  4. 締約国は、その国内法及び適用される国際義務と整合する範囲で、以下のいずれかの行為の刑事化を除外する措置を講じることができる:
    • (a) 自ら生成した資料を描写する児童による行為。
    • (b) 合法な行為を描写し、当事者の私的かつ同意の下でのみ使用される資料の合意に基づく製造、送信又は所持。
  5. 本条約のいかなる内容も、児童の権利の実現に対してより有益な国際義務に影響を与えるものではない。

 

第15条 児童に対する性的犯罪の目的での勧誘又はグルーミング

  1. 各締約国は、情報通信技術システムを通じて、意図的に、児童に対する性的犯罪を行う目的で、コミュニケーションを取り、勧誘し、グルーミングし、又はその他の取り決めを行う行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、本条第1項に記載された行為の遂行を要件とすることができる。
  3. 締約国は、児童であると思われる者に関連する場合に、本条第1項に基づいて犯罪化を拡張することを検討することができる。
  4. 締約国は、本条第1項に記載された行為が児童によって行われた場合に、犯罪化から除外する措置を講じることができる。

 

第16条 非同意の親密な画像の配布

  1. 各締約国は、意図的にかつ権限なく、情報通信技術システムを通じて、人の親密な画像(注:intimate image)を、その画像に描写された人の同意なしに販売し、配布し、送信し、出版し、又はその他の方法で提供する行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 本条第1項において、「親密な画像」とは、写真撮影またはビデオ撮影を含むあらゆる手段によって作成された、18歳以上の人の視覚的記録であって、性的な性質を有し、(当該視覚的記録中で)その人の性的な部分が露出され、又はその人が性的な行為に従事しており、その記録の時点では私的であったものであり、かつ、描写された人又は人らが犯罪の時点においてプライバシーに対する合理的な期待を保持していたものをいう。
  3. 締約国は、それが適切である場合、親密な画像の定義を、国内法に基づき、性的行為が合法である18歳未満の人物を描写した画像に拡張することができる。
  4. 本条において、親密な画像に描かれている18歳未満の者は、本条約第14条に基づく児童の性的虐待又は児童の性的搾取の素材となる親密な画像の流布に同意することはできない。
  5. 締約国は、害を引き起こす意図を要件とすることができる。
  6. 締約国は、国内法及び適用される国際義務と整合する範囲で、本条に関連するその他の措置を講じることができる。

 

第17条 犯罪収益の洗浄

  1. 各締約国は、国内法の基本原則に従って、意図的に行われた場合に以下の行為を国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない:
    • (i) 犯罪収益であることを知りながら、その収益の不正な起源を隠蔽又は偽装する目的で、財産の変換又は移転を行うこと。
    • (ii) 犯罪収益であることを知りながら、その財産の真の性質、出所、所在地、処分、移動、所有権又は権利を隠蔽又は偽装すること。
    • (i) 犯罪収益であることを知りながら、その収益を取得し、所持し又は使用すること。
      (ii) 本条に基づいて設定された犯罪について、参加し、共謀し、実行し、助長し又は幇助すること。
    • (a)
    • (b) 国内法の基本概念に従い:
  2. 本条第1項の履行又は適用に関し:
    • (a) 各締約国は、第7条から第16条までに規定された関連する犯罪を、予備的犯罪としなければならない。
    • (b) 締約国の立法が特定の予備的犯罪を列挙している場合、少なくとも第7条から第16条までに規定された広範な犯罪をそのリストに含めなければならない。
    • (c) 本項(b)に基づく予備的犯罪には、締約国の管轄外で犯された犯罪も含めなければならない。ただし、締約国の管轄外で犯された犯罪は、犯罪が犯された国の国内法で犯罪とされる場合に限り、予備的犯罪とみなしなければならない。
    • (d) 各締約国は、本条を実施するための法律の写し及びその後の変更点の写し又はその説明を国連事務総長に提供しなければならない。
    • (e) 締約国の国内法の基本原則が要求する場合、本条第1項に規定された犯罪が予備的犯罪を行った者には適用されないとすることができる。
    • (f) 本条第1項に規定された犯罪の要素として必要とされる知識、意図又は目的は、客観的な事実状況から推測することができる。

 

第18条 法人の責任

  1. 各締約国は、法人が本条約に基づいて設定された犯罪に参加した場合の責任を負わせるために必要な措置を、国内法の原則に従って講じなければならない。
  2. 締約国の国内法の原則に従って、法人の責任は、刑事責任、民事責任又は行政責任とすることができる。
  3. この責任は、犯罪を行った自然人の刑事責任に影響を与えるものではない。
  4. 各締約国は、本条に基づいて責任を負う法人が、効果的、比例的かつ抑止的な刑事又は非刑事の制裁を受けるようにしなければならない。制裁には金銭的制裁も含まれる。

 

第19条 共謀と未遂

  1. 各締約国は、意図的に行われた場合に、本条約に基づいて設定された犯罪を共謀し、これを幇助し又は煽動する行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 各締約国は、意図的に行われた場合に、本条約に基づいて設定された犯罪の未遂を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じることができる。
  3. 各締約国は、意図的に行われた場合に、本条約に基づいて設定された犯罪の準備行為を、国内法において犯罪とするために必要な立法その他の措置を講じることができる。

 

第20条 時効

各締約国は、犯罪の重大性を考慮して、本条約に基づいて設定された犯罪に対する訴追を開始するための時効期間を国内法において設定し、被告が司法から逃れている場合には、その時効期間を延長するか、時効を停止するための措置を講じなければならない。

 

第21条 訴追、裁判及び制裁

  1. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に対して、効果的で比例的かつ抑止的な制裁を課さなければならない。その制裁は、犯罪の重大性を考慮したものでなければならない。
  2. 各締約国は、国内法に基づいて、本条約に基づいて設定された犯罪に関連する加重事由を設定するために必要な立法その他の措置を講じることができる。加重事由には、重要な情報インフラストラクチャに影響を与える事由が含まれる。
  3. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪についての訴追に関する国内法の裁量権が、法執行措置の効果を最大化し、かつ、当該犯罪の実行を抑止する必要性を十分に考慮して行使されることを確保するよう努めなければならない。
  4. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に対して訴追される人が、国内法に合致し、かつ、公正な裁判を受ける権利及び防御の権利を含む締約国の適用される国際義務に整合するすべての権利及び保障を享有することを確保しなければならない。
  5. 本条約に基づいて設定された犯罪に関して、各締約国は、その国内法に従い、かつ、防御の権利に十分配慮して、裁判又は上訴までの間の釈放の決定に関連して課される条件が、その後の刑事手続における被告人の出席を確保する必要性を考慮することを確保するための適当な措置を講じなければならない。
  6. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に関連する者の早期釈放又は仮釈放を検討する際に、犯罪の重大性を考慮しなければならない。
  7. 締約国は、児童の権利に関する条約及びその議定書並びに他の適用される国際文書又は地域文書に基づく義務と整合的に、本条約に従って設定された犯罪の被告人となった児童を保護するために、国内法上適切な措置が講じられることを確保しなければならない。
  8. 本条約のいかなる内容も、本条約に従って設定される犯罪並びに適用される法的抗弁又は行為の適法性を支配するその他の法原則の記述は、締約国の国内法に留保され、かつ、そのような犯罪は、その法律に従って訴追され、及び処罰されるとの原則に影響を及ぼすものではない。

 

第III章 管轄権

第22条 管轄権

  1. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪が以下の場合に管轄権を設定するために必要な措置を講じなければならない:
    • (a) 犯罪がその締約国の領域内で行われた場合。
    • (b) 犯罪が、その締約国の旗を掲げた船舶又はその締約国の法律に基づいて登録された航空機内で行われた場合。
  2. 本条第5条に従って、締約国は、以下の場合にそのような犯罪に対して管轄権を設定するために必要な措置を講じることができる:
    • (a) 犯罪がその締約国の国民に対して行われた場合。
    • (b) 犯罪がその締約国の国民又はその領域内に常居住している無国籍者によって行われた場合。
    • (c) 犯罪が、本条約第17条第1項(b)(ii)に規定された犯罪の1つであり、その領域外で行われ、その締約国の領域内で第17条第1項(a)(i)又は(ii)又は(b)(i)に基づいて設定された犯罪を実行するために行われた場合。
    • (d) 犯罪が締約国に対して行われた場合。
  3. 本条約第37条第11項に基づいて、締約国は、その領域内に存在し、その国民であることのみを理由に引渡しがなされない者について、本条約に基づいて設定された犯罪に対して管轄権を設定するために必要な措置を講じなければならない。
  4. 締約国は、その領域内に存在し、引き渡されない者に対して、本条約に基づいて設定された犯罪に対して管轄権を設定するために必要な措置を講じることができる。
  5. 締約国が本条第1項又は第2項に基づいてその管轄権を行使し、他の締約国が同じ行為に関連して捜査、訴追又は司法手続を行っていることを通知された場合、又はそれを知った場合、関係する締約国の所管当局(注:competent authority)は、適切に、それぞれの行動を調整することを目的として協議しなければならない。
  6. 一般的な国際法の規範に影響を与えることなく、本条約は、締約国が国内法に基づいて確立したいかなる刑事管轄権の行使を排除するものではない。

 

第IV章 手続的措置及び法執行

第23条 手続的措置の範囲

  1. 各締約国は、特定の刑事捜査又は手続の目的で、本章に規定されている権限及び手続を設定するために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 本条約に別段の規定がない限り、各締約国は、以下の場合に本条第1項に規定された権限及び手続を適用しなければならない:
    • (a) 本条約に基づいて設定された刑事犯罪。
    • (b) 情報通信技術システムを使用して行われたその他の刑事犯罪。
    • (c) いかなる刑事犯罪のための電子形式の証拠の収集。


    • (i) クローズドユーザーグループの利益のために運営されている情報通信技術システム。
    • (ii) 公共通信網を使用せず、他の情報通信技術システムと接続されていない、公共又は民間のいずれかである情報通信技術システム。
    • (a) 締約国は、本条約第29条に規定された措置を、特定の犯罪又は犯罪のカテゴリに限定して適用する権利を留保することができるが、その範囲は第30条に規定された措置を適用する犯罪又はカテゴリの範囲よりも狭くあってはならない。締約国は、可能な限り、保留を制限し、第29条に規定された措置を最も広く適用することを検討しなければならない。
    • (b) 締約国が、本条約採択時に有効な国内法の制約により、第29条及び第30条に規定された措置を、以下のいずれかに適用することができない場合、その締約国は、これらの措置を適用しない権利を留保することができる。ただし、締約国は、可能な限り、保留を制限し、第29条及び第30条に規定された措置を最も広く適用することを検討しなければならない:

 

第24条 条件と保護措置

  1. 各締約国は、本章に定める権限及び手続の設定、実施及び適用が、国際人権法上の義務に従い、かつ、比例の原則を取り入れた人権の保護を定める国内法に定める条件及び保障措置に従うことを確保する。
  2. 各締約国の国内法に従い、そのような条件及び保護措置は、関連する手続又は権限の性質を考慮して、適切な場合には、司法又はその他の独立した審査、効果的な救済措置の権利、適用の正当化を求める理由、及びその権限又は手続の範囲及び期間の制限を含めなければならない。
  3. 公益に整合する範囲で、特に司法の適正な運営に関連して、各締約国は、本章に規定された権限及び手続が、第三者の権利、責任及び正当な利益に与える影響を考慮しなければならない。
  4. 本条に基づいて設定された条件及び保護措置は、国内レベルで、本章に規定された権限及び手続に適用されるものとし、国内の刑事捜査及び手続の目的で、並びに要請された締約国による国際協力の提供のために適用しなければならない。
  5. 本条第2項において、司法又はその他の独立した審査に言及するときは、国内レベルでのそのような審査を指す。

 

第25条 保全命令

  1. 各締約国は、その所管当局が、情報通信技術システムを通じて保全されている特定の電子データ(トラフィックデータ、コンテンツデータ及び加入者情報を含む)について、特にその電子データが失われる又は改ざんされる可能性があると信じる理由がある場合に、保全命令を発行又はこれと同様の手段を取得できるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、ある者に対し、その者が所有し又は管理する特定の保全された電子データを保全すべき旨の命令により本条第1項を実施する場合には、その者に対し、所管当局がその開示を求めることができるようにするために必要な期間、最長90日までの期間、当該電子データの保全及び完全性の維持を義務付けるために必要な立法措置その他の措置を講じなければならない。締約国は、このような命令がその後更新されることを定めることができる。
  3. 各締約国は、その電子データの保全を行う保管者又は他の人物に対して、その保全手続がその国内法に定められた期間内で秘密に保持されることを義務付けるために必要な立法その他の措置を講じなければならない。

 

第26条 トラフィックデータの保全及び部分的な開示

各締約国は、保全命令に従って保全されるトラフィックデータに関して、以下の措置を講じなければならない:

  • (a) トラフィックデータの迅速な保全が、複数のサービスプロバイダーが通信の伝送に関与しているかどうかにかかわらず利用可能であることを確保する。
  • (b) 締約国の所管当局又は所管当局が指定する者に対し、締約国がサービス・プロバイダ及び通信又は表示された情報が送信された経路を特定することを可能にするために十分な量のトラフィックデータを迅速に開示することを確保する。

 

第27条 提出命令

各締約国は、その所管当局が以下の行為を命じることができるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない:

  • (a) その領域内の人物に対して、その人物の所持又は管理下にある情報通信技術システム又は電子データ保存媒体に保存された特定の電子データを提出させること。
  • (b) 締約国の領域内でサービスを提供するサービスプロバイダーに対して、そのサービスに関連する加入者情報を提出させること。

 

第28条 保存された電子データの捜索及び押収

  1. 各締約国は、その所管当局に以下の捜索又はこれと同様のアクセスを与えるために必要な立法措置およびその他の措置を講じなければならない:
    • (a) 情報通信技術システム及びその一部、並びにそこに格納される電子データ。
    • (b) 求められる電子データが格納され得る電子データ記憶媒体。
  2. 締約国は、その所管当局が、情報通信技術システム又はその一部を捜索又はこれと同様のアクセスを行う際に、電子データがその領域内の別の情報通信技術システム又はその一部に保存されていると信じる理由がある場合、捜索を迅速に実施し、その別の情報通信技術システムへのアクセスを取得できるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  3. 締約国は、その所管当局が、以下の行為を行うことができるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない:
    • (a) 情報通信技術システム、その一部、又は電子データ保存媒体を押収又はこれと同様の手段で確保すること。
    • (b) その電子データを電子形式でコピー及び保持すること。
    • (c) 保存された電子データの整合性を保持すること。
    • (d) アクセスされた情報通信技術システム内のその電子データをアクセス不能にするか、削除すること。
  4. 締約国は、その所管当局が、情報通信技術システム、その情報通信ネットワーク又はその構成要素、又はその中に保存された電子データを保護するために適用された措置についての知識を持つ人物に対して、本条第1項から第3項までの措置を実施するために必要な情報を提供するよう命じることができるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない。

 

第29条 トラフィックデータのリアルタイム収集

  1. 各締約国は、その所管当局が以下の行為を行うことができるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない:
    • (i) 締約国の領域内で技術的手段を使用してトラフィックデータを収集又は記録すること。
    • (ii) 所管当局がトラフィックデータを収集又は記録する際に協力し、支援すること。
    • (a) 締約国の領域内で技術的手段を使用してトラフィックデータを収集又は記録すること。
    • (b) サービスプロバイダーが、その既存の技術的能力内で:
  2. 締約国が、その国内法の原則のため、本条第1項(a)に規定された措置を採用することができない場合、これに代えて、その領域内で指定された通信に関連するトラフィックデータを技術的手段を使用してリアルタイムで収集又は記録するために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  3. 各締約国は、サービスプロバイダーが本条に基づく権限の実行事実及びそれに関連する情報を秘密に保持することを義務付けるために必要な立法その他の措置を講じなければならない。

 

第30条 コンテンツデータの傍受

  1. 各締約国は、国内法で定める一連の重大な刑事犯罪に関連して、その所管当局が以下の行為を行うことができるようにするために必要な立法その他の措置を講じなければならない:
    • (a) 締約国の領域内で技術的手段を使用してコンテンツデータを収集又は記録すること。
    • (b) サービスプロバイダーが、その既存の技術的能力内で:
      • (i) 締約国の領域内で技術的手段を使用してコンテンツデータを収集又は記録すること。
      • (ii) 所管当局がコンテンツデータを収集又は記録する際に協力し、支援すること。
  2. 締約国が、その国内法の原則のため、本条第1項(a)に規定された措置を採用することができない場合、これに代えて、その領域内で指定された通信に関連するコンテンツデータを技術的手段を使用してリアルタイムで収集又は記録するために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  3. 各締約国は、サービスプロバイダーが本条に基づく権限を行使した事実及びそれに関連する情報を秘密に保持することを義務付けるために必要な立法その他の措置を講じなければならない。

 

第31条 犯罪収益の凍結、押収及び没収

  1. 各締約国は、国内法の範囲内で可能な限り、以下の項目を没収できるようにするために必要な措置を講じなければならない:
    • (a) 本条約に基づいて設定された犯罪から得られた収益、又はその価値に相当する財産。
    • (b) 本条約に基づいて設定された犯罪に使用された、又は使用される予定の財産、機器又はその他の手段。
  2. 各締約国は、最終的な没収のために、前項に記載された物品の識別、追跡、凍結又は押収を可能にするために必要な措置を講じなければならない。
  3. 各締約国は、国内法に基づき、前項に記載された凍結、押収又は没収された財産の管理を規制するために必要な立法その他の措置を講じなければならない。
  4. 犯罪収益が部分的又は完全に他の財産に変換又は転換された場合、その財産は犯罪収益の代わりに本条の対象となる。
  5. 犯罪収益が合法的な出所から得られた財産と混同された場合、その財産は、凍結又は押収に関連する権限に影響を与えることなく、混同された犯罪収益の評価された価値まで没収の対象となる。
  6. 犯罪収益から得られた収益又はその他の利益、犯罪収益に変換又は転換された財産から得られた収益又は利益、又は犯罪収益と混同された財産から得られた収益又は利益は、犯罪収益と同様に、本条に記載された措置の対象となる。
  7. 本条及び本条約第50条の目的のため、各締約国は、裁判所その他の権限のある当局に対し、銀行、金融又は商業上の記録を利用可能にし、又は差し押さえることを命ずる権限を付与しなければならない。締約国は、銀行の秘密性を理由としてこの項の規定による行為を拒否することができない。
  8. 各締約国は、そのような要件が国内法の原則及び司法手続その他の手続の性質に合致する限りにおいて、犯罪収益又は没収の責任を負うとされるその他の財産の合法的な出所を示すことを犯罪者に要求する可能性を検討することができる。
  9. 本条の規定は、善意の第三者の権利を損なうものとして解釈してはならない。
  10. 本条のいかなる内容も、措置が締約国の国内法の規定に従って定義され、実施されるべきであるの原則に影響を与えるものではない。

 

第32条 犯罪記録の確立

各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に関連する刑事手続において、被疑者が他国で有罪判決を受けた過去の記録を考慮するために必要な立法その他の措置を講じることができる。

 

第33条 証人の保護

  1. 各締約国は、その国内法及び利用可能な資源に従い、証人として証言する者、又は本条約に基づいて設定された犯罪に関して善意で合理的な根拠に基づいて情報を提供する者、又は捜査当局又は司法当局と協力する者に対して、潜在的な報復又は脅迫から効果的に保護するための適切な措置を講じなければならない。
  2. 本条第1項に規定された措置には、被告の権利、適正手続の権利を損なうことなく、以下の事項を含むことができるが、それに限られない:
    • (a) その者の物理的な保護を確保する手続を設定し、必要かつ実行可能な場合には、移転させ、その者の身元及び所在に関する情報の開示を制限すること。
    • (b) 証人が安全に証言できるようにするための証拠法則を提供し、ビデオリンクやその他の適切な手段を使用して証言を行うことを許可すること。
  3. 締約国は、他の締約国と協定又は取り決めを結び、本条第1項に記載された者を再配置することを検討することができる。
  4. 本条の規定は、証人である限り、被害者にも適用される。

 

第34条 被害者への支援と保護

  1. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪の被害者に対して、特に報復又は脅迫の脅威がある場合に、支援及び保護を提供するための適切な措置を講じなければならない。
  2. 各締約国は、その国内法に従い、本条約に基づいて設定された犯罪の被害者に対する補償及び返還へのアクセスを提供するための適切な手続を設定しなければならない。
  3. 各締約国は、その国内法に従い、被害者の意見及び懸念が、被告の権利を損なうことなく、犯罪者に対する刑事手続の適切な段階で提示及び考慮されるようにしなければならない。
  4. 本条約第14条から第16条に基づいて設定された犯罪に関して、各締約国は、その国内法に従い、そのような犯罪の被害者に対して、国際機関、非政府組織及び市民社会の他の要素と協力して、身体的及び心理的回復のための支援を提供するための措置を講じなければならない。
  5. 本条第2項から第4項までの規定を適用する際、各締約国は、被害者の年齢、性別及び特別な事情やニーズを考慮し、特に児童の特別な事情やニーズを考慮しなければならない。
  6. 各締約国は、その国内法の枠組みに整合する範囲で、本条約第14条及び第16条に記載されたコンテンツを削除又はアクセス不能にするための要請に応じるための効果的な措置を講じなければならない。

 

第V章 国際協力

第35条 国際協力の一般原則

  1. 締約国は、本条約の規定及び刑事問題に関する国際協力に関する他の適用される国際文書、並びに国内法に従い、以下の目的のために協力しなければならない:
    • (a) 本条約に基づいて設定された犯罪の捜査及び訴追、並びにそのような犯罪から得られた収益の凍結、押収、没収及び返還。
    • (b) 本条約に基づいて設定された犯罪の電子形式の証拠の収集、取得、保全及び共有。
    • (c) 重大な犯罪(本条約の採択時に効力を有する他の適用のある国際連合条約及び議定書に従って成立した重大犯罪を含む)の電子形式の証拠の収集、取得、保全及び共有を目的とする。
  2. 電子形式の証拠の収集、取得、保全及び共有のために、本条第1項(b)及び(c)に規定された犯罪について、本条約第40条の関連する段落及び第41条から第46条までの規定を適用しなければならない。
  3. 国際協力に関し、二重の犯罪性(注:要請国と被要請国のいずれにおいても犯罪であること)が要件とされる場合において、援助を求められている犯罪の基礎となっている行為が両締約国の法律の下で刑事犯罪であるときは、被要請国の法律が当該犯罪を要請国と同一の犯罪の類型に分類されているか否か及び同一の用語で呼称されているか否かにかかわらず、当該要件は満たされたものとみなす。

 

第36条 個人データの保護

  1.  
    • (a) 締約国は、本条約に基づいて個人データを移転する場合、その国内法及び移転当事国が負う国際法上の義務に従って移転を行わなければならない。締約国は、その適用される個人データ保護に関する法律に従って個人データを提供できない場合、本条約に従って個人データを移転する義務を負わない。
    • (b) 個人データの移転が第1項(a)に従って行われない場合、締約国は、適用される法律に従って、適切な条件を課すことを検討し、要請に応じて、個人データの提供を可能にするための措置を講じることができる。
    • (c) 締約国は、個人データの移転を容易にするために、二国間又は多国間の取り決めを設けることを奨励される。
  2. 本条約に従って移転された個人データに対して、締約国は、各締約国の法的枠組みにおいて効果的かつ適切な保護措置が講じられることを確保しなければならない。
  3. 本条約に従って取得された個人データを第三国又は国際機関に移転する場合、締約国は元の移転国にその意図を通知し、承認を求めなければならない。締約国は、元の移転国の承認を得て初めてその個人データを移転するものとし、その承認は書面で提供されることを要求することができる。

 

第37条 引渡し

  1. 本条は、本条約に基づいて設定された犯罪に適用され、その引渡しの対象者が被要請国の領域内に存在する場合、その犯罪が被要請国及び要請国の国内法の下で処罰可能である限り、適用される。引渡しが刑の執行を目的として要請される場合、被要請国は、国内法に従って引渡しを許可することができる。
  2. 第1項にかかわらず、締約国は、締約国の法律がそれを許す場合、本条約に基づいて設定された犯罪のいずれかがその国内法で処罰可能でない場合でも、引渡しを許可することができる。
  3. 引渡しの要請が複数の別個の犯罪を含み、そのうち少なくとも1つが本条に基づいて引渡し可能であり、他の犯罪が処罰期間が理由で引渡し可能でないが、本条約に基づいて設定された犯罪に関連する場合、被要請国は、本条をそれらの犯罪にも適用することができる。
  4. 本条が適用される犯罪は、締約国間のいかなる引渡条約にも引渡犯罪として含まれるものとみなす。締約国は、そのような犯罪を引渡犯罪として含めることを約束する。
  5. 引渡しを条約の存在を条件とする締約国が、本条約に加盟している他の締約国から引渡し要請を受けた場合、本条約を引渡しの法的根拠と見なすことができる。
  6. 条約の存在を引渡しの条件とする締約国は、以下の措置を講じなければならない:
    • (a) 本条約を批准、受諾、承認又は加盟する際に、引渡しにおいて他の締約国と協力するために本条約を法的根拠として採用するかどうかを国連事務総長に通知する。
    • (b) 本条約を引渡しの法的根拠としない場合、引渡しを実施するために他の締約国と条約を締結することを検討する。
  7. 条約の存在を引渡しの条件としない締約国は、本条が適用される犯罪を引渡犯罪として認めなければならない。
  8. 引渡しは、被要請国の国内法又は適用される引渡条約によって定められた条件、特に引渡しのための最小刑期の要件及び引渡しを拒否する理由に従わなければならない。
  9. 締約国は、その国内法に従って、いかなる犯罪についても引渡手続を迅速化し、その証拠要件を簡素化するための措置を講じるよう努めなければならない。
  10. 締約国は、その国内法及び引渡条約に従い、要請国からの要請に応じて、国際刑事警察機構を通じて要請が伝えられた場合を含め、引渡手続のために必要な措置を講じなければならない。
  11. 本条に基づいて設定された犯罪について引渡しが求められたが、被要請国がその国民であることを理由に引渡しを拒否する場合、要請国は、訴追の目的でその者を管轄当局に送致する義務を負う。
  12. 締約国は、その国内法に基づき、犯罪者が罪を犯した場所に戻る条件で引渡しを行うことができる。
  13. 引渡しが刑の執行を目的として求められたが、被要請国がその国民であることを理由に引渡しを拒否する場合、被要請国は、その国内法が許す場合、要請国の刑を執行することを検討しなければならない。
  14. 本条が適用される犯罪に関連する全ての訴追手続において、公平な扱いが保証しなければならない。
  15. 本条約のいかなる内容も、被要請国が、要請が性別、人種、言語、宗教、国籍、民族的出自又は政治的意見に基づくものであると信じる正当な理由がある場合、引渡しを拒否する義務を負うものではない。
  16. 締約国は、引渡し要請が財政問題に関連していることのみを理由に引渡しを拒否することはできない。
  17. 引渡しを拒否する前に、被要請国は、要請国と協議し、その見解を提示する機会を提供する。
  18. 被要請国は、引渡しに関する決定を要請国に通知する。
  19. 締約国は、署名時又は批准、受諾、承認又は加盟時に、引渡し又は仮引渡しに関する要請を行うか受ける責任を持つ当局の名前及び住所を国連事務総長に通知する。
  20. 締約国は、引渡しの効果を高めるために、二国間又は多国間の協定又は取り決めを締結することを検討する。

 

第38条 受刑者の移送

締約国は、締約国は、受刑者の権利を考慮して、本条約に従って定められた犯罪により禁錮刑その他の自由の剥奪の刑に処せられた者が、その領域において刑期を終了することができるようにするため、その者をその領域に移送することに関する二国間又は多国間の協定又は取決めを締結することを検討することができる。締約国は、同意、矯正及び社会復帰に関する問題も考慮することができる。

 

第39条 刑事手続の移送

  1. 締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪の刑事訴追のための手続を相互に移送する可能性を検討するものとし、特に複数の管轄権が関与する場合において、訴追を集中させる観点から、司法の適正な運用の利益にかなうと判断される場合において、その移送を行うことを検討しなければならない。
  2. 条約の存在を刑事訴追の手続の条件とする締約国が、この問題に関する条約を有しない他の締約国から移送の要請を受けた場合、その締約国は、本条約を刑事訴追の手続の移送に関する法的根拠として考慮することができる。

 

第40条 相互法的援助に関する一般原則及び範囲

  1. 締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に関する捜査、訴追及び司法手続、並びに本条約に基づいて設定された犯罪及び重大な犯罪に関する電子形式の証拠の収集を目的として、最も広範な相互法的援助を互いに提供しなければならない。
  2. 相互法的援助は、要請国において本条約第18条に基づいて法人が責任を負う可能性がある犯罪に関する捜査、訴追及び司法手続に関連して、被要請国の関連法令、条約、協定及び取極に基づき、可能な限り最大限の範囲で提供しなければならない。
  3. 本条に基づいて提供される相互法的援助は、以下の目的のために要請することができる:
    • (a) 証拠又は人の陳述を取得すること。
    • (b) 司法文書の送達を行うこと。
    • (c) 捜索、押収又は凍結を行うこと。
    • (d) 本条約第44条に基づき、情報通信技術システムによって保存されている電子データを捜索し又はこれと同様のアクセスを行い、押収し又はこれと同様に確保し、並びに開示すること。
    • (e) 本条約第45条に基づき、リアルタイムでトラフィックデータを収集すること。
    • (f) 本条約第46条に基づき、内容データを傍受すること。
    • (g) 物及び現場を調査すること。
    • (h) 情報、証拠及び専門家の評価を提供すること。
    • (i) 政府、銀行、金融、法人又は事業記録を含む関連文書及び記録の原本又は認証コピーを提供すること。
    • (j) 証拠のために犯罪の収益、財産、道具又はその他の物を特定し又は追跡すること。
    • (k) 要請国での自発的な人の出廷を容易にすること。
    • (l) 犯罪収益を回収すること。
    • (m) 被要請国の国内法に反しないその他の種類の援助。
  4. 国内法を損なうことなく、締約国の権限を有する当局は、事前の要請なしに、他の締約国の権限を有する当局に対して、犯罪に関する情報を送信することができるものとし、当該情報が当局が調査及び刑事手続を実施又は成功裏に終了させるのに役立つと信じる場合、又は後者の締約国によって本条約に基づいて策定された要請を生じさせる可能性がある場合において、情報を送信しなければならない。
  5. 本条第4項に基づく情報の送信は、情報提供を行った当局が所属する国における調査及び刑事手続を損なうことなく行わなければならない。情報を受領した当局は、該当する情報を一時的にでも秘密に保つよう要求された場合、又はその使用に制限がある場合、それに従わなければならない。ただし、受領国が被告人にとって有利な情報を訴訟で開示することを妨げるものではない。その場合、受領国は開示前に送信国に通知し、要求があれば送信国と協議しなければならない。例外的な場合には、事前通知が不可能な場合、受領国は送信国に対して直ちに開示の事実を通知しなければならない。
  6. 本条の規定は、相互法的援助を規定する、又は将来規定するいかなる他の条約にも影響を及ぼすものではない。
  7. 本条に基づいて行われた要請が、相互法的援助に関する条約に拘束されていない締約国間で行われた場合、本条第8項から第31項が適用しなければならない。その締約国がそのような条約に拘束されている場合は、当該条約の該当する規定が適用されるものとし、締約国が本条第8項から第31項を適用することに合意しない限り、その規定が適用しなければならない。締約国は、協力を促進するために、これらの項の規定を適用することを強く推奨しなければならない。
  8. 締約国は、二重の犯罪性が存在しないという理由で本条に基づく援助の提供を拒否することができる。ただし、被要請国は、適切と認める場合、被要請国の国内法に基づいて犯罪と認められるかどうかに関わらず、その裁量で援助を提供することができる。要請が、軽微な問題又は本条約の他の規定に基づいて利用可能な協力又は援助を含む場合、被要請国は援助を拒否することができる。
  9. 締約国の領域で拘束されている又は刑に服している者で、他の締約国での身元確認、証言又はその他の方法で証拠の収集を援助するために必要とされる者は、以下の条件が満たされる場合に移送されることができる:
    • (a) その者が自由意思に基づいて情報を提供すること。
    • (b) 両締約国の所管当局が合意し、適切と認める条件に従うこと。
  10. 本条第9項に基づく移送に関して:
    • (a) 移送先の締約国は、移送された者を拘束する権限及び義務を負い、移送元の締約国が特に要請又は許可しない限り、これを維持しなければならない。
    • (b) 移送先の締約国は、移送元の締約国の所管当局との事前の合意又は他の合意に基づき、遅滞なくその者を移送元の締約国に送還する義務を履行しなければならない。
    • (c) 移送先の締約国は、移送元の締約国に対して、その者の送還に関する引渡手続を開始することを求めるものではない。
    • (d) 移送された者の移送先の締約国における拘束期間は、移送元の締約国で服している刑期に充当しなければならない。
  11. 本条第9項及び第10項に基づき移送される者は、移送元の締約国の同意を得ない限り、その者の国籍に関係なく、移送先の締約国の領域において、その者の移送元の締約国の領域を離れる前の行為、不作為又は有罪判決に関して、起訴、拘束、処罰又はその他の自由の制限を受けることはない。
  12.  
    • (a) 各締約国は、相互法的援助に関する要請を受領し、それを実行し又は実行のために所管当局に送付する責任及び権限を有する中央当局又は当局を指定しなければならない。締約国が特別な地域又は領域を有し、その地域又は領域に別の相互法的援助制度がある場合、その地域又は領域に対して同じ機能を持つ別の中央当局を指定することができる。
    • (b) 中央当局は、受領した要請の迅速かつ適切な実行又は送達を確保しなければならない。中央当局が実行のために要請を所管当局に送付する場合、その所管当局に迅速かつ適切に実行することを促さなければならない。
    • (c) 各締約国は、本条約を批准、受諾、承認又は加入する際に、国連事務総長に指定された中央当局を通知し、その中央当局の登録簿を設置し、更新しなければならない。各締約国は、登録簿に記載された詳細が常に正確であることを確保しなければならない。
    • (d) 相互法的援助に関する要請及び関連するあらゆる通信は、締約国が指定した中央当局に送達しなければならない。この要件は、締約国がこれらの要請及び通信が外交ルートを通じて行われることを要求する権利に影響を及ぼすものではなく、緊急の場合において締約国が合意した場合には、可能である場合には国際刑事警察機構を通じて行わなければならない。
  13. 要請は、書面又は書面記録を出力できる任意の手段で行われ、被要請国が認める言語で、被要請国が真実性を確立できる条件で行わなければならない。各締約国は、本条約を批准、受諾、承認又は加入する際に、国連事務総長にその締約国が受け入れる言語を通知しなければならない。緊急の場合及び締約国が合意した場合、要請は口頭で行うことができるが、直ちに書面で確認しなければならない。
  14. 各締約国の関連法令に反しない限り、締約国の中央当局は、相互法的援助の要請及びそれに関連する通信、並びに証拠を電子形式で送信及び受信し、被要請国が真実性を確立し、通信の安全性を確保する条件下でそれを行うことが奨励しなければならない。
  15. 相互法的援助の要請には以下の事項を含めなければならない:
    • (a) 要請を行う当局の身元。
    • (b) 要請が関連する捜査、訴追又は司法手続の主題及び性質並びに捜査、訴追又は司法手続を行っている当局の名称及び機能。
    • (c) 関連事実の概要、ただし、司法文書の送達を目的とする要請に関しては除く。
    • (d) 求められる援助の説明及び要請国が従うことを望む特定の手続の詳細。
    • (e) 可能かつ適切な場合、関係者の身元、所在地及び国籍、並びに関係する物品又は口座の原産国、説明及び所在地。
    • (f) 適用可能な場合、求められる証拠、情報又はその他の援助の期間。
    • (g) 求められる証拠、情報又はその他の援助の目的。
  16. 被要請国は、要請を実行するために必要と認められる場合、又はその実行を促進する場合には、追加情報を要求することができる。
  17. 要請は、被要請国の国内法に基づいて実行されるものとし、被要請国の国内法に反しない限り、かつ可能な限り、要請で指定された手続に従って実行しなければならない。
  18. 可能な限り、及び国内法の基本原則に合致する場合、個人が締約国の領域に所在し、他の締約国の司法当局によって証人、被害者又は専門家として聴取される必要がある場合、第一の締約国(注:その領域に個人が所在する締約国)は、他の締約国の要請により、当該個人が要請国の領域に出廷することが不可能又は望ましくない場合、ビデオ会議による聴取を許可することができる。締約国は、要請国の司法当局が聴取を実施し、被要請国の司法当局がこれに立ち会うことで合意することができる。被要請国がビデオ会議を行うための技術的手段を持たない場合、その手段は要請国によって提供されることができる。
  19. 要請国は、被要請国の事前の同意なしに、要請で述べられた捜査、訴追又は司法手続以外の目的で提供された情報又は証拠を送信又は使用してはならない。本項は、要請国が被告人にとって有利な情報又は証拠を訴訟で開示することを妨げるものではない。その場合、要請国は開示前に被要請国に通知し、要求があれば被要請国と協議しなければならない。例外的な場合には、事前通知が不可能な場合、要請国は開示の事実を被要請国に直ちに通知しなければならない。
  20. 要請国は、被要請国に対し、要請の実行に必要な範囲を除き、要請の事実及び内容を秘密に保つよう要求することができる。被要請国は、秘密保持の要件を遵守することができない場合、速やかに要請国に通知しなければならない。
  21. 相互法的援助は、以下の場合に拒否することができる:
    • (a) 要請が本条の規定に従って行われていない場合。
    • (b) 被要請国が、要請の実行がその主権、安全保障、公序又はその他の重要な利益を害すると判断した場合。
    • (c) 被要請国の当局が、同様の犯罪に関して、自己の管轄下での捜査、訴追又は司法手続に基づいて、要請された行動を実行することが国内法で禁止されている場合。
    • (d) 要請が被要請国の相互法的援助に関する法制度に反する場合。
  22. 本条約のいかなる内容も、被要請国が、要請がその者の性別、人種、言語、宗教、国籍、民族的出身又は政治的意見に基づいてその者を起訴又は処罰する目的で行われたと信じる相当な理由がある場合、又は要請に従うことがこれらの理由のいずれかでその者の立場に悪影響を及ぼすと信じる相当な理由がある場合、相互法的援助を提供する義務を課すものとして解釈してはならない。
  23. 締約国は、相互法的援助の要請を、犯罪が財政問題を含むとみなされることのみを理由として拒否することはできない。
  24. 締約国は、本条に基づいて相互法的援助を提供することを、銀行の秘密を理由として拒否してはならない。
  25. 相互法的援助の拒否の理由は、明示しなければならない。
  26. 被要請国は、相互法的援助の要請を可能な限り迅速に実行し、要請国が提示した理由と共に提案された期限を可能な限り考慮しなければならない。被要請国は、要請の処理状況及び進捗に関して、要請国からの合理的な要請に応じなければならない。要請された援助が不要となった場合、要請国は、速やかに被要請国にその旨を通知しなければならない。
  27. 相互法的援助により、進行中の捜査、訴追又は司法手続に支障が生じるおそれがある場合、被要請国は、これを延期することができる。
  28. 本条第21項に基づく要請の拒否又は本条第27項に基づく実行の延期を行う前に、被要請国は、要請国と協議し、必要と認める条件の下で援助が提供されるかどうかを検討しなければならない。要請国がその条件を受け入れる場合、その条件に従わなければならない。
  29. 本条第11項の適用を損なうことなく、要請国の要請に基づき証言を行う又は証拠の収集を援助するために、要請国の領域での捜査、訴追又は司法手続に同意した証人、専門家又は他の者は、その者が被要請国の領域を離れる前の行為、怠慢又は有罪判決に関して、要請国の領域内で起訴、拘束、処罰又はその他の自由の制限を受けない。証人、専門家又は他の者が、要請国の司法当局からその者の出席がもはや必要ないと正式に通知された日から、連続15日間又は締約国が合意した期間にわたり、要請国の領域にとどまり続けた場合、又は自発的にその領域を離れ、再び戻った場合、この保護措置は終了しなければならない。
  30. 要請を実行するための通常の費用は、関係締約国が別段の合意をしない限り、要請を受けた締約国が負担する。要請を履行するために相当な又は特別な性質の費用が必要とされる場合には、締約国は、要請が履行される条件及び費用が負担される方法を決定するため、協議を行わなければならない。 
  31. 被要請国は:
    • (a) 自国の国内法に基づき一般公開されている政府の記録、文書又は情報のコピーを要請国に提供しなければならない。
    • (b) 自国の国内法に基づき一般公開されていない政府の記録、文書又は情報のコピーを、部分的に又はその裁量で適切と認める条件の下で、要請国に提供することができる。
  32. 締約国は、本条の目的を達成し、その実効性を確保し、又は本条の規定を強化するために、必要に応じて二国間又は多国間の協定又は取極を締結する可能性を検討しなければならない。

 

第41条 24/7ネットワーク

  1. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に関する特定の刑事捜査、訴追又は司法手続に対する即時の援助を確保するため、また、本条第3項に基づく電子形式の証拠の収集、取得及び保全並びに本条約に基づいて設定された犯罪及び重大な犯罪に関する援助を提供するために、24時間365日対応可能な連絡窓口を指定しなければならない。
  2. 前記の連絡窓口は、国連事務総長に通知され、本条の目的のために指定された連絡窓口の更新された登録簿を保持し、毎年、締約国に更新された連絡窓口リストを配布しなければならない。
  3. 前記の援助には、被要請国の国内法及び慣行により許される場合には、次の措置を促進し又は直接実施することが含まれる: 
    • (a) 技術的助言の提供
    • (b) 本条約の第42条及び第43条に基づく保存された電子データの保全(適当な場合には、要請を行う締約国を支援するために、要請を行う締約国が知っている場合には、サービス提供者の所在地に関する情報を含む)
    • (c) 証拠の収集及び法律情報の提供
    • (d) 容疑者の所在の確認
    • (e) 緊急事態を回避するための電子データの提供 
  4. 締約国の連絡窓口は、他の締約国の連絡窓口との迅速なコミュニケーションを実行する能力を有するものでなければならない。もし締約国が指定した連絡窓口が、相互法的援助又は引渡しに責任を負う当局又はその一部でない場合、その連絡窓口は、迅速にその権限又は当局と調整できることを確保しなければならない。
  5. 各締約国は、24/7ネットワークの運営を確保するために、訓練を受け装備を備えた職員が対応可能であることを確保しなければならない。
  6. 締約国は、該当する場合には、国内法の範囲内で、迅速な警察間協力及び情報交換協力の他の方法のための国際刑事警察機構のコンピュータ関連犯罪のための24/7ネットワークを含む、承認された既存の連絡窓口ネットワークを利用し、強化することができる。

 

第42条 保存された電子データの迅速な保全を目的とした国際協力

  1. 締約国は、他の締約国に対し、本条約第25条に従い、当該他の締約国の領域内にある情報通信技術システムにより保存された電子データであって、要請する締約国が捜索若しくはこれに類するアクセス、押収若しくはこれに類する確保又は電子データの開示について相互法的援助の要請を行おうとするものについて、当該電子データの迅速な保全を命じ、又はその他の方法により取得することを要請することができる。
  2. 要請国は、本条約第41条に基づく24/7ネットワークを使用して、情報通信技術システムによって保存された電子データの所在地に関する情報及び、適切な場合には、サービスプロバイダーの所在地に関する情報を求めることができる。
  3. 本条第1項に基づく保全の要請には、保全を求める権限、犯罪捜査、訴追又は司法手続の対象となっている犯罪及び関連する事実の簡単な概要、保全される電子データ及びそれらの犯罪との関係、保全された電子データの保管者又は情報通信技術システムの所在地を特定するために利用可能な情報、保全の必要性、保全された電子データの捜索又は同様のアクセス、押収又は同様の確保又は開示を求めるために相互法的援助の要請を提出する意図、適切な場合には、保全要請の秘密保持及びユーザーへの通知を避ける必要性を記載しなければならない。
  4. 他の締約国からの要請を受けた場合、被要請国は、国内法に基づいて指定された電子データを迅速に保全するための適切な措置を講じなければならない。この要請に応じるために二重の犯罪性を条件としてはならない。
  5. 二重の犯罪性を条件とする締約国は、本条約に基づく捜索又はこれと同様のアクセス、押収又はこれと同様の確保又は保全された電子データの開示に関する相互法的援助の要請に応じる場合において、開示時に二重の犯罪性の条件が満たされない可能性があると信じる理由がある場合に、本条に基づく保全要請を拒否する権利を留保することができる。
  6. (注:前2項に)加えて、本条に基づく保全要請は、本条約第40条第21項(b)及び(c)並びに第22項を理由とする場合に限り拒否することができる。
  7. 被要請国が、保全が将来的にデータの利用可能性を確保しない、又は要請国の捜査の秘密性を脅かす又はその他の影響を及ぼすと考える場合、被要請国は、速やかに要請国に通知し、要請国は、それにもかかわらず要請が実行されるべきかどうかを判断しなければならない。
  8. 本条第1項に基づく要請に応じて行われる保全は、要請国が捜索又は同様のアクセス、押収又は同様の確保又はデータの開示の要請を提出するため、60日間を下回らない期間とする。その後、要請が提出された場合、データはその要請に関する決定がなされるまで保全しなければならない。
  9. 本条第8項に基づく保全期間が満了する前に、要請国は保全期間の延長を要請することができる。

 

第43条 保全されたトラフィックデータの迅速な開示のための国際協力

  1. 本条約第42条に基づいて特定の通信に関するトラフィックデータの保全を求める要請の実行中に、被要請国が他の締約国のサービスプロバイダーが通信の送信に関与していたことを発見した場合、被要請国は、要請国にそのサービスプロバイダーを特定するための十分な量のトラフィックデータ及び通信が送信された経路を迅速に開示しなければならない。
  2. 本条第1項に基づくトラフィックデータの開示は、本条約第40条第21項(b)及び(c)並びに第22項に基づく理由に限り拒否されることができる。

 

第44条 保存された電子データへのアクセスに関する相互法的援助

  1. 締約国は、他の締約国に対して、その締約国の領域内に保存された情報通信技術システムによって保存された電子データ、また本条約第42条に基づいて保存された電子データを含むデータを捜索又は同様のアクセス、押収又は同様の確保並びに開示することを要請することができる。
  2. 被要請国は、本条約第35条に言及された関連国際文書及び法律の適用を通じて、並びに本章の他の関連規定に従って要請に応じなければならない。
  3. 以下の場合には、要請には、迅速に対応しなければならない:
    • (a) 関連データが特に損失又は改ざんされやすいと考えられる理由がある場合。
    • (b) 本条第2項で言及された文書及び法律が迅速な協力を規定している場合。

 

第45条 トラフィックデータのリアルタイム収集に関する相互法的援助

  1. 締約国は、情報通信技術システムによってその領域内で送信される特定の通信に関連するトラフィックデータのリアルタイム収集において、相互に法的援助を提供するよう努めるものとし、その援助は、本条第2項の規定に従い、国内法で定められた条件及び手続に従って行わなければならない。
  2. 各締約国は、そのような援助が、少なくとも国内の同様の事件においてトラフィックデータのリアルタイム収集が可能である刑事犯罪に関して提供されるよう努めなければならない。
  3. 本条第1項に従って行われる要請には、以下の事項が明記しなければならない:
    • (a) 要請する権限の名称
    • (b) 要請が関連する捜査、訴追又は司法手続の主な事実及び性質の概要
    • (c) トラフィックデータの収集が必要とされる電子データ及びそれらの犯罪との関係
    • (d) データの所有者又はユーザー、又は情報通信技術システムの所在地を特定するための利用可能なデータ
    • (e) トラフィックデータの収集が必要である理由
    • (f) トラフィックデータが収集される期間及びその期間の正当性

 

第46条 コンテンツデータの傍受に関する相互法的援助

締約国は、情報通信技術システムによって送信される特定の通信のコンテンツデータのリアルタイム収集又は記録に関する相互法的援助を、適用される条約又は国内法が許す限り提供するよう努めなければならない。

 

第47条 法執行協力

  1. 締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪と戦うための法執行行動の効果を高めるため、自国の国内法及び行政システムに基づいて、相互に緊密に協力するものとし、特に以下の効果的な措置を講じなければならない:
    • (a) 既存のチャネル、特に国際刑事警察機構のチャネルを考慮して、所管当局、機関及びサービス間の通信チャネルを強化し、必要な場合設定するために、相互に情報を迅速かつ安全に交換することを容易にするための措置。
    • (b) 本条約に基づいて設定された犯罪に関して他の締約国と協力し、次の事項について調査を行うこと:
      • (i) そのような犯罪に関与している疑いのある者の身元、所在及び活動又はその他の関係者の所在。
      • (ii) 犯罪の収益又は犯罪の遂行により得られた財産の移動。
      • (iii) そのような犯罪の遂行に使用された又は使用することが意図されている財産、機材又はその他の手段の移動。
    • (c) 分析又は捜査目的で必要な項目又はデータを提供すること。
    • (d) 本条約に基づいて設定された犯罪を犯すために使用された特定の手段及び方法、特に偽の身分、偽造、変更又は虚偽の文書その他の活動を隠蔽する手段、並びにサイバー犯罪の戦術、技術及び手順に関する情報を他の締約国と交換すること。
    • (e) 所管当局、機関及びサービス間の効果的な調整を促進し、締約国間の二国間協定又は取極に基づいて、リエゾンオフィサーの配置を含む専門家及び他の専門家の交換を促進すること。
    • (f) 本条約に基づいて設定された犯罪の早期発見を目的として、他の締約国と行政及びその他の措置に関する情報を交換し、調整すること。
  2. 本条約の実効性を確保に、締約国は、法執行機関間の直接協力に関する二国間又は多国間協定又は取極を締結することを検討するものとし、そのような協定又は取極が既に存在する場合、改訂することを検討しなければならない。締約国間にそのような協定又は取極がない場合、締約国は、本条約を基礎として、法執行機関間の相互協力を行うことを検討することができるものとし、適切な場合には、法執行機関間の協力を強化するために、国際又は地域の組織を含む協定又は取極を最大限に活用しなければならない。

 

第48条 共同捜査

締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪に関する刑事捜査、訴追又は司法手続が一又は複数の国で行われる場合に、関係当局が共同捜査チームを設置できるようにするための二国間又は多国間協定又は取極を締結することを検討するものとし、そのような協定又は取極が存在しない場合には、個別のケースごとに合意に基づいて共同捜査を実施することができる。関係する締約国は、そのような捜査が行われる領域における締約国の主権が完全に尊重されることを確保しなければならない。

 

第49条 国際協力を通じた財産の回収のメカニズム

  1. 各締約国は、本条約第50条に基づく相互法的援助を提供するために、本条約に基づいて設定された犯罪の遂行によって取得された又は関与した財産に関して、国内法に従って以下の措置を講じなければならない:
    • (a) 他の締約国の裁判所によって発行された没収命令を実行するために、所管当局が必要な措置を講じることを許可すること。
    • (b) 所管当局が管轄権を有する場合、マネーロンダリングの犯罪やその他の犯罪の裁定によって、又は国内法で認められた他の手続によって、そのような外国産の財産を没収するために必要な措置を講じることを許可すること。
    • (c) 犯罪者が死亡、逃亡又は不在、又は他の適切な場合に訴追できない場合に、そのような財産を刑事訴追なしに没収するために必要な措置を検討すること。
  2. 各締約国は、本条約第50条第2項に基づく要請に応じて相互法的援助を提供するために、国内法に従って以下の措置を講じなければならない:
    • (a) 要請国の裁判所又は権限のある当局によって発行された凍結又は押収命令に基づいて、被要請国がそのような行動を取る十分な根拠があると信じる合理的な根拠を提供し、その財産が最終的に本条第1項(a)の目的のために没収命令の対象となると信じる場合、所管当局が財産を凍結又は押収することを許可するために必要な措置を講じること。
    • (b) 被要請国がそのような行動を取る十分な根拠があると信じる合理的な根拠を提供し、その財産が最終的に本条第1項(a)の目的のために没収命令の対象となるであろうと信じる場合、所管当局が財産を凍結又は押収することを許可するために必要な措置を講じること。
    • (c) 所管当局が没収のために財産を保全することを許可するための追加的な措置を講じることを検討すること、例えば、その財産の取得に関連する外国での逮捕又は刑事告発に基づく措置。

 

第50条 没収を目的とした国際協力

  1. 本条約に基づいて設定された犯罪に関して管轄権を有する他の締約国から、犯罪収益、財産、機材又は本条約第31条第1項で言及されたその他の手段の没収の要請を受けた締約国は、可能な限りその国内法制度の範囲内で次の措置を講じなければならない:
    • (a) 没収命令を取得する目的で要請を所管当局に提出し、その命令が認められた場合にはそれを実行すること。
    • (b) 本条約第31条第1項に基づき、被要請国の領域内にある犯罪収益、財産、機材又はその他の手段に関連する限り、要請国の裁判所が発行した没収命令を、要請の範囲内で実行することを目的として、所管当局に提出すること。
  2. 本条約に基づいて設定された犯罪に関して管轄権を有する他の締約国から要請を受けた場合、被要請国は、要請国又は本条第1項に基づく要請に従い、最終的な没収を目的として、本条約第31条第1項で言及された犯罪収益、財産、機材又はその他の手段を特定し、追跡し、凍結又は押収するための措置を講じなければならない。
  3. 本条約第40条の規定は、本条に準用されるものとし、さらに本条に基づく要請には、第40条第15項で指定された情報に加え、次の事項を含めなければならない:
    • (a) 本条第1項(a)に関連する要請の場合、没収されるべき財産の説明、可能な限りその所在地及び関連する場合には財産の推定価値、並びに要請国が依拠する事実の陳述が含まれ、被要請国が国内法に基づいて命令を求めるのに十分な情報が提供されること。
    • (b) 本条第1項(b)に関連する要請の場合、要請国によって発行された没収命令の合法的に認められたコピー、命令の実行範囲に関する情報、要請国が無実の第三者に対して適切な通知を行い、正当な手続を確保するために取った措置の陳述、及び没収命令が最終的なものであることの陳述が含まれること。
    • (c) 本条第2項に関連する要請の場合、要請国が依拠する事実の陳述及び要請された行動の説明、並びに利用可能な場合には要請の基礎となる命令の合法的に認められたコピーが含まれること。
  4. 本条第1項及び第2項で規定された決定又は行動は、被要請国の国内法及び手続規則、又は要請国に関連するいかなる二国間又は多国間の条約、協定又は取極に従って行わなければならない。
  5. 各締約国は、本条に効果を与える法律及び規則のコピー、並びにそのような法律及び規則の後の変更を国連事務総長に提供しなければならない。
  6. 締約国が、本条第1項及び第2項に言及された措置を関連条約の存在に依存させることを選択する場合、その締約国は本条約を必要かつ十分な条約の基礎とみなす。
  7. 被要請国が十分かつ迅速な証拠を受け取らない場合、又は財産が無視できる価値しかない場合、本条に基づく協力は拒否されるか、暫定的な措置が解除されることができる。
  8. 本条に基づいて講じられた暫定的な措置を解除する前に、被要請国は、可能な限り、要請国にその措置の継続を支持する理由を提示する機会を提供しなければならない。
  9. 本条の規定は、無実の第三者の権利を損なうものとして解釈してはならない。
  10. 締約国は、本条に基づく国際協力の効果を高めるために、二国間又は多国間の条約、協定又は取極を締結することを検討しなければならない。

 

第51条 特別協力

国内法を損なうことなく、各締約国は、他の締約国が犯罪捜査、訴追又は司法手続を開始又は実行するのを援助するか、又はその締約国が本条約第50条に基づく要請を行う可能性があると考える場合には、事前の要請なしに、犯罪収益に関する情報を他の締約国に送信することを許可するための措置を講じるよう努めなければならない。

 

第52条 犯罪収益又は財産の返還及び処分

  1. 本条約第31条又は第50条に基づいて締約国が没収した犯罪収益又は財産は、その締約国の国内法及び行政手続に従って処分しなければならない。
  2. 本条約第50条に基づいて他の締約国から提出された要請に応じて行動する場合、締約国は、国内法が許す範囲で、かつ要請があった場合には、没収された犯罪収益又は財産を要請国に優先して返還し、その犯罪の被害者に補償を与えるか、又はそのような犯罪収益又は財産を元の合法的な所有者に返還するために考慮しなければならない。
  3. 本条約第31条及び第50条に基づいて他の締約国から提出された要請に応じて行動する場合、締約国は、被害者への補償を適切に考慮した後、次の事項に関する協定又は取極を締結することを特別に考慮することができる:
    • (a) そのような犯罪収益又は財産の価値又はその犯罪収益又は財産の売却から得られた資金又はその一部を、本条約第56条第2項(c)に基づいて指定された口座及びサイバー犯罪との戦いに特化した政府間機関に寄付すること。
    • (b) 国内法又は行政手続に従って、定期的又は個別のケースごとに、その他の締約国とそのような犯罪収益又は財産又はその犯罪収益又は財産の売却から得られた資金を共有すること。
  4. 適切な場合、締約国が別途決定しない限り、被要請国は、本条に基づいて没収された財産の返還又は処分に至る捜査、訴追又は司法手続に要した合理的な費用を差し引くことができる。

 

第VI章 予防措置

第53条 予防措置

  1. 各締約国は、その法制度の基本原則に従い、適切な立法、行政又はその他の措置を通じて、既存又は将来のサイバー犯罪の機会を減少させるために、効果的かつ調整された政策やベストプラクティスを策定し、実施又は維持するよう努めなければならない。
  2. 各締約国は、その手段の範囲内で、かつ国内法の基本原則に従って、非政府組織、市民社会組織、学術機関、民間企業、及び一般市民など、公的部門以外の関連個人及び団体が、本条約に基づいて設定された犯罪の予防に関連する側面に積極的に参加することを促進するための適切な措置を講じなければならない。
  3. 予防措置には、以下が含まれうる:
    • (a) 本条約に基づいて設定された犯罪の予防及び撲滅の関連側面に対処するために、法執行機関又は検察官と、非政府組織、市民社会組織、学術機関、民間企業など、公的部門以外の関連個人及び団体との協力を強化すること。
    • (b) 公的情報活動、公的教育、メディア及び情報リテラシープログラムやカリキュラムを通じて、本条約に基づいて設定された犯罪がもたらす脅威の存在、原因及び重大性についての公衆の認識を高め、そのような犯罪の予防及び撲滅における公衆の参加を促進すること。
    • (c) 本条約に基づいて設定された犯罪に対する国家的予防戦略の一環として、刑事司法制度の能力を構築し、刑事司法専門家の訓練及び専門知識の開発に努めること。
    • (d) サービスプロバイダーが、その製品、サービス及び顧客のセキュリティを強化するための効果的な措置を、国の状況に照らして可能であり、かつ国内法上許される範囲で講じることを奨励すること。
    • (e) サービスプロバイダーの製品、サービス及び顧客のセキュリティを強化し改善することのみを目的として、かつ国内法で許可され、規定された条件に従う範囲で、正当なセキュリティ研究者の活動を認識すること。
    • (f) サイバー犯罪に関与する危険がある者を犯罪者にさせることを防止し、合法的にスキルを開発するためのプログラム及び活動を開発、促進すること。
    • (g) 本条約に基づいて設定された犯罪で有罪判決を受けた者の社会復帰を促進することに努めること。
    • (h) 情報通信技術システムを通じて発生する性別に基づく暴力を予防及び根絶するための戦略及び政策を国内法に従って開発し、予防措置の策定において脆弱な状況にある者の特別な状況及びニーズを考慮に入れること。
    • (i) 子供のオンライン安全を保護するための特定の対策を講じ、オンラインでの児童性的虐待又は児童性的搾取に関する教育や訓練、公衆意識の向上を含む活動を行い、また、その防止を目的とした国内法制度の見直しや国際協力を強化し、児童性的虐待及び児童性的搾取のコンテンツの迅速な削除を確保するよう努めること。
    • (j) 意思決定プロセスの透明性を高め、公衆の意見を反映させることを促進し、公衆が適切な情報にアクセスできるようにすること。
    • (k) サイバー犯罪に関する公的情報を求め、受け取り及び伝える自由を尊重、促進及び保護すること。
    • (l) 本条約に基づいて設定された犯罪の被害者を援助するプログラムを開発又は強化すること。
    • (m) 本条約に基づいて設定された犯罪に関連する犯罪収益及び財産の移転を予防及び発見すること。
  4. 各締約国は、所管当局又はサイバー犯罪の防止及び対策に責任を有する当局が、適切な場合には、本条約に基づいて設定された犯罪とみなされる可能性のあるあらゆる事件の匿名を含む報告のために、公衆に周知され、かつ、アクセス可能であることを確保するための適切な措置を講じなければならない。
  5. 締約国は、定期的に既存の国内法令の枠組み及び行政慣行を評価し、本条約に基づいて設定された犯罪によってもたらされる変化する脅威に対してその適切性を確保するため、ギャップ及び脆弱性を特定するよう務めなければならない。
  6. 締約国は、他の締約国及び関連する国際的及び地域的組織と協力し、本条に言及された措置の促進及び開発を行うことができるものとし、これにはサイバー犯罪の予防を目的とした国際プロジェクトへの参加を含めなければならない。
  7. 各締約国は、国連事務総長に対して、他の締約国がサイバー犯罪の予防のための特定の措置を開発及び実施するのを援助できる当局の名称及び住所を通知しなければならない。

 

第VII章 技術援助及び情報交換

第54条 技術援助及び能力構築

  1. 締約国は、その能力に応じて、技術援助及び能力構築、訓練及びその他の形態の援助、関連経験及び専門知識の相互交換並びに合意された条件に基づく技術移転を、特に発展途上の締約国の利益及びニーズを考慮し、本条約で対象とされる犯罪の予防、発見、捜査及び訴追を容易にすることを目的として、最も広範な範囲で提供することを検討しなければならない。
  2. 締約国は、必要に応じて、本条約で対象とされる犯罪の予防、発見、捜査及び訴追を担当する職員のための特定の訓練プログラムを開始、開発、実施又は改善しなければならない。
  3. 本条第1項及び第2項で言及された活動は、国内法上許される範囲で以下の事項に関係しうる:
    • (a) 本条約で対象とされる犯罪の予防、発見、捜査及び訴追に使用される方法及び技術。
    • (b) サイバー犯罪の予防及び撲滅のための戦略政策及び立法の策定及び計画における能力構築。
    • (c) 特に電子形式での証拠の収集、保全及び共有における能力構築、これには証拠の管理の連鎖(注:Chain of Custody;証拠が適切に採取され保管されていることを保証する文書又は手続)及びフォレンジック分析の維持が含まれる。
    • (d) 現代の法執行機器及びその使用。
    • (e) 本条約の要件を満たす相互法的援助及びその他の協力手段のための要請を準備するための所管当局の訓練、特に電子形式での証拠の収集、保全及び共有に関するもの。
    • (f) 本条約で対象とされる犯罪の遂行から生じる犯罪収益、財産、機材又はその他の手段の移動の予防、発見及び監視、並びにそのような犯罪収益、財産、機材又はその他の手段の移転、隠匿又は偽装に使用される方法。
    • (g) 本条約で対象とされる犯罪の犯罪収益の差し押さえ、没収及び返還を促進するための適切で効率的な法的及び行政的メカニズム及び方法。
    • (h) 司法当局と協力する被害者及び証人の保護に使用される方法。
    • (i) 関連する実体法及び手続法、法執行のための調査権限、国内及び国際的な規制並びに言語に関する訓練。
  4. 締約国は、国内法に従い、他の締約国及び関連する国際的及び地域的な組織、非政府組織、市民社会組織、学術機関及び民間企業との協力を密接にし、本条約の効果的な実施を強化するよう努めなければならない。
  5. 締約国は、本条第3項で言及された分野における専門知識の共有を目的とした研究及び訓練プログラムを計画し、実施するにあたり、相互に援助し合うものとし、そのために、適切な場合には、地域的及び国際的な会議やセミナーを使用して協力を促進し、共通の関心事項に関する議論を活発化させなければならない。
  6. 締約国は、所管当局並びに関係する非政府組織、市民社会団体、学術機関及び民間団体の参加を得て、サイバー犯罪を防止し、及びこれと闘うための戦略及び行動計画を策定することを目的として、それぞれの領域において行われる本条約の対象となる犯罪の種類、原因及び影響に関する評価、研究及び調査を行うことについて、要請があった場合、相互に援助することを検討する。
  7. 締約国は、迅速な引渡し及び相互法的援助を促進するための訓練及び技術援助を推進するものとし、そのような訓練及び技術援助には、言語訓練、相互法的援助要請の作成及び処理に関する援助、並びに中央当局又は関連責任を有する機関の職員間の出向及び交換を含みうる。
  8. 締約国は、必要に応じて、国際及び地域組織並びに関連する二国間及び多国間協定又は取極の枠組みにおいて、技術援助及び能力構築の効果を最大化するための努力を強化しなければならない。
  9. 締約国は、自発的メカニズムを設立し、発展途上国が本条約を実施するための技術援助プログラム及び能力構築プロジェクトを通じて、その努力に財政的に貢献することを検討しなければならない。
  10. 各締約国は、本条約の実施を目的として、技術援助及び能力構築を通じたプログラム及びプロジェクトを促進するために、国際麻薬犯罪事務所に自発的寄付を行うよう努めなければならない。

 

第55条 情報交換

  1. 各締約国は、非政府組織、市民社会組織、学術機関及び民間企業からの関連専門家との協議を含め、適切な場合には、本条約で対象とされる犯罪に関する国内の傾向及びそのような犯罪が行われる状況を分析することを検討しなければならない。
  2. 締約国は、サイバー犯罪を予防及び撲滅するための共通の定義、基準及び方法論並びにベストプラクティスを、可能な限り開発することを目的として、相互に及び国際的及び地域的組織を通じて、サイバー犯罪に関する統計、分析専門知識及び情報を共有し、開発することを検討しなければならない。
  3. 各締約国は、本条約で対象とされる犯罪を予防及び撲滅するための政策及び実際の措置を監視し、その効果及び効率を評価することを検討しなければならない。
  4. 締約国は、サイバー犯罪及び電子形式での証拠の収集に関連する法的、政策的及び技術的な発展に関する情報を交換することを検討しなければならない。

 

第56条 経済発展及び技術援助を通じた条約の実施

  1. 締約国は、社会一般及び特に持続可能な発展に対する本条約で対象とされる犯罪の悪影響を考慮し、可能な限り、国際協力を通じて本条約の最適な実施を促進するための措置を講じなければならない。
  2. 締約国は、他の締約国、特に発展途上国の能力を強化するために、次の具体的な努力を可能な限り行い、また、相互に及び国際的及び地域的組織と協調して行うことが強く奨励しなければならない:
    • (a) 本条約で対象とされる犯罪を予防及び撲滅するために、他の締約国、特に発展途上国との協力を強化すること。
    • (b) 本条約で対象とされる犯罪を効果的に予防及び撲滅し、締約国が本条約を実施するのを援助するために、他の締約国、特に発展途上国の努力を援助するための財政的及び物的援助を強化すること。
    • (c) 他の締約国、特に発展途上国が本条約を実施するためのニーズに応じる援助を提供するために、技術援助を提供すること。そのために、締約国は、特定の目的のために国連の資金メカニズムに設けられた口座に対して、適切かつ定期的に自発的寄付を行うよう努めなければならない。
    • (d) 適切な場合には、非政府組織、市民社会組織、学術機関、民間企業及び金融機関に、本条に従って締約国の努力に貢献するよう奨励し、特に発展途上国に対する訓練プログラム及び最新の機器の提供を通じて、締約国が本条約の目的を達成するのを援助すること。
    • (e) 活動に関するベストプラクティス及び情報を交換し、透明性を向上させ、努力の重複を避け、学んだ教訓を最大限に活用すること。
  3. 締約国は、既存の地域的、国際的プログラム、会議及びセミナーを使用して、協力及び技術援助を促進し、共通の関心事項に関する議論を刺激することを検討しなければならない。
  4. 締約国は、可能な限り、リソース及び努力が標準、スキル、能力、専門知識及び技術能力の調和を援助するために分配され、向けられることを確保し、安全な場所の排除を目指し、本条約で対象とされる犯罪に対する戦いを強化するために、締約国間の共通の最低基準を設定するよう務めなければならない
  5. 本条の下で講じられた措置は、可能な限り、既存の対外援助の約束や二国間、地域的又は国際的レベルでの他の財政協力の取極に影響を与えない。
  6. 締約国は、本条約で規定された国際協力手段が効果的であり、本条約で対象とされる犯罪の予防、発見、捜査及び訴追のために、必要な財政手段を考慮し、二国間、地域的又は多国間の協定又は取極を締結することを検討しなければならない。

 

第VIII章 実施メカニズム

第57条 条約締約国会議

  1. 本条約の目的を達成するために、締約国の能力及び協力を向上させ、その実施を促進及びレビューするために、条約締約国会議を設立する。
  2. 国連事務総長は、本条約の発効から1年以内に締約国会議を招集しなければならない。その後、会議は採択された手続規則に従って定期的に開催しなければならない。
  3. 締約国会議は、手続規則及び本条に定められた活動を規定する規則を採択するものとし、これにはオブザーバーの参加及び経費の支払いに関する規則が含まれる。これらの規則及び関連する活動は、効果性、包括性、透明性、効率性及び国の主権などの原則を考慮に入れなければならない。
  4. 定期会議を設定するにあたり、締約国会議は、他の関連する国際及び地域組織並びにメカニズムの会議の時期及び場所を考慮するものとし、これには、その下部条約機関を含み、本条第3項で特定された原則に一致するようにしなければならない。
  5. 締約国会議は、第1項に定められた目的を達成するための活動、手続及び作業方法に合意するものとし、これには以下のものを含む:
    • (a) 本条約の効果的な使用及び実施の促進、並びに本条約の下で締約国が行う活動に関する問題の特定、並びに自発的な寄付の動員を奨励すること。
    • (b) 本条約に基づいて設定された犯罪及び電子形式の証拠の収集に関連する法的、政策的及び技術的な発展に関する情報交換の促進、並びに国内法に従って締約国及び関連する国際及び地域組織、非政府組織、市民社会組織、学術機関及び民間企業との間でサイバー犯罪のパターン及び傾向並びにその防止及び撲滅に関する成功した実践に関する情報交換を行うこと。
    • (c) 関連する国際及び地域組織、並びに非政府組織、市民社会組織、学術機関及び民間企業との協力を行うこと。
    • (d) 本条約に基づいて設定された犯罪の防止及び撲滅のために他の国際及び地域組織及びメカニズムによって生成された関連情報を適切に使用し、重複作業を避けること。
    • (e) 締約国による本条約の実施を定期的にレビューすること。
    • (f) 本条約及びその実施を改善するための勧告を行い、また本条約の補足又は改正の可能性を検討すること。
    • (g) 本条約第61条及び第62条に基づいて補足議定書を作成し、採択すること。
    • (h) 本条約の実施に関して締約国の技術援助及び能力構築の要件を認識し、それに関連する必要な行動を勧告すること。
  6. 各締約国は、締約国会議が要求する場合、本条約を実施するための立法、行政及びその他の措置並びにそのプログラム、計画及び実践に関する情報を提供しなければならない。締約国会議は、締約国及び関連する国際及び地域組織から受け取った情報を含む、情報を受け取り、それに基づいて行動する最も効果的な方法を検討しなければならない。適切に認定された関連する非政府組織、市民社会組織、学術機関及び民間企業の代表者から受け取ったインプットも考慮されることがある。
  7. 本条第5項の目的のために、締約国会議は、必要と認めるレビュー機構を設立及び管理することができる。
  8. 本条第5項から第7項に従い、締約国会議は、本条約の効果的な実施を援助するために、適切なメカニズム又は補助機関を設立しなければならない。

 

第58条 事務局

  1. 国連事務総長は、条約締約国会議に対して必要な事務局サービスを提供しなければならない。
  2. 事務局は以下を行わなければならない:
    • (a) 本条約に定められた活動を遂行するために締約国会議を援助し、本条約に関する会議の手配及び必要なサービスを提供すること。
    • (b) 要請に応じて、締約国が本条約に基づいて締約国会議に情報を提供するのを援助すること。
    • (c) 関連する国際及び地域組織の事務局との必要な調整を確保すること。

 

第IX章 最終規定

第59条 条約の実施

  1. 各締約国は、本条約に基づく義務を確実に履行するために、国内法の基本原則に従って、立法及び行政措置を含む必要な措置を講じなければならない。
  2. 各締約国は、本条約に基づいて設定された犯罪を防止及び撲滅するために、本条約で提供されるものよりも厳格又は厳しい措置を採用することができる。

 

第60条 条約の効果

  1. 2つ以上の締約国が、本条約で取り扱われる事項に関して既に協定又は条約を締結している場合、又はそれらの事項に関してそれらの関係を設定している場合、又は将来そのようにする場合、それらの協定又は条約を適用する権利があるものとし、それに応じて関係を規制することができる。
  2. 本条約のいかなる内容も、締約国の国際法に基づくその他の権利、制限、義務及び責任に影響を及ぼすものではない。

 

第61条 議定書との関係

  1. 本条約は、1つ以上の議定書によって補完されることができる。
  2. 議定書の締約国となろうとする国家又は地域経済統合機構は、本条約の締約国でなければならない。
  3. 本条約の締約国は、議定書の締約国となる場合を除き、議定書に拘束されない。
  4. 本条約の議定書は、その議定書の目的を考慮に入れて、本条約と共に解釈しなければならない。

 

第62条 補足議定書の採択

  1. 補足議定書が締約国会議で採択されるためには、少なくとも60の締約国がなければならない。締約国会議は、補足議定書に関する意見の一致を達成するためにあらゆる努力を払わなければならない。意見の一致が得られない場合、補足議定書は、最終手段として、会議に出席して投票する締約国の3分の2以上の賛成票をもって採択しなければならない。
  2. 地域経済統合機構は、その権限内の事項について、本条に基づいて、その加盟国が本条約の締約国である数に等しい数の票を行使する権利を有しなければならない。これらの機構は、その加盟国が自らの権利を行使する場合には投票権を行使してはならない。

 

第63条 紛争の解決

  1. 締約国は、本条約の解釈又は適用に関する紛争を交渉又は他の平和的手段によって解決するよう努めなければならない。
  2. 本条約の解釈又は適用に関する2つ以上の締約国間の紛争が、交渉又は他の平和的手段で合理的な期間内に解決できない場合、その締約国の1つの要請により、仲裁に付しなければならない。仲裁の要請の日から6か月後、締約国が仲裁の組織について合意できない場合、その締約国のいずれかは、その紛争を国際司法裁判所に付託することができる。
  3. 各締約国は、本条約の署名、批准、受諾、承認又は加入時に、本条第2項に拘束されないことを宣言することができるものとし、そのような留保を行った締約国に対しては、第2項の規定は適用されない。
  4. 本条第3項に基づく留保を行った締約国は、国連事務総長に通知することにより、いつでもその留保を撤回することができる。

 

第64条 署名、批准、受諾、承認及び加入

  1. 本条約は、2026年12月31日まで、ニューヨークの国連本部で全ての国家が署名するために開放しなければならない。
  2. 本条約は、少なくとも1つの加盟国が本条約に署名した場合、地域経済統合機構も署名するために開放しなければならない。
  3. 本条約は、批准、受諾又は承認を必要とするものとし、批准、受諾又は承認の文書は、国連事務総長に寄託しなければならない。地域経済統合機構は、少なくとも1つの加盟国が同様の措置を行った場合、批准、受諾又は承認の文書を寄託することができ、その文書において、その機構が本条約に基づく事項に関する権限の範囲を宣言するものとし、その機構は、権限の範囲に関するいかなる関連する変更についても寄託者に通知しなければならない。
  4. 本条約は、少なくとも1つの加盟国が本条約の締約国であるいずれの国家又は地域経済統合機構によっても加入することができるものとし、加入文書は、国連事務総長に寄託しなければならない。加入時に地域経済統合機構は、本条約に基づく事項に関する権限の範囲を宣言し、その機構は、権限の範囲に関するいかなる関連する変更についても寄託者に通知しなければならない。

 

第65条 発効

  1. 本条約は、批准、受諾、承認又は加入の40番目の文書の寄託日から90日後に発効する。本項の目的のためには、地域経済統合機構によって寄託された文書は、その機構の加盟国によって寄託されたものに追加されるものとしてはならない。
  2. 40番目の文書の寄託後に本条約を批准、受諾、承認又は加入する各締約国又は地域経済統合機構に関しては、本条約は、その国家又は機構が関連する文書を寄託した日から30日後、又は本条約が本条第1項に従って発効する日のいずれか遅い日付に発効する。

 

第66条 改正

  1. 本条約の発効から5年が経過した後、締約国は改正案を提出し、国連事務総長に送付することができ、国連事務総長はその後、改正案を締約国及び締約国会議に伝達し、その提案を検討し決定しなければならない。締約国会議は、各改正に関して意見の一致を達成するためにあらゆる努力を払うものとし、意見の一致が得られない場合、改正は、最終手段として、会議に出席して投票する締約国の3分の2以上の賛成票をもって採択しなければならない。
  2. 地域経済統合機構は、その権限内の事項について、本条に基づいて、その加盟国が本条約の締約国である数に等しい数の票を行使する権利を有しなければならない。これらの機構は、その加盟国が自らの権利を行使する場合には投票権を行使してはならない。
  3. 本条第1項に基づいて採択された改正は、締約国によって批准、受諾又は承認を受けなければならない。
  4. 本条第1項に基づいて採択された改正は、その改正の批准、受諾又は承認の文書が国連事務総長に寄託された日から90日後に締約国に関して発効する。
  5. 改正が発効した場合、その改正に拘束されることに同意した締約国に対して拘束力を持つものとし、他の締約国は、依然として本条約及びそれ以前に批准、受諾又は承認された改正の規定に拘束しなければならない。

 

第67条 脱退

  1. 締約国は、国連事務総長に書面で通知することにより、本条約を脱退することができるものとし、その脱退は、国連事務総長が通知を受領した日から1年後に効力を生じなければならない。
  2. 地域経済統合機構は、その加盟国がすべて本条約を脱退した場合、本条約の締約国でなくなる。
  3. 本条第1項に基づく本条約の脱退は、関連する議定書の脱退を伴う。

 

第68条 寄託者及び言語

  1. 本条約の寄託者は国連事務総長とする。
  2. 本条約の原本は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語の各文本が等しく正当であり、国連事務総長に寄託しなければならない。

以上の証拠として、下記署名者は、それぞれの政府により正当に権限を与えられ、本条約に署名した。