取引透明化法に基づくモニタリング会合で、一部の広告プラットフォーム運営者の対応が話題になっていますが、政府にはどのような武器があって、どのような武器がないのかを考えてみたいと思います。
取引透明化法というアプローチとその限界
- 経産省は、取引透明化法を利用し、LINEヤフー、Google、Metaから聞き取りを行い、6月28日の「2024年度第1回 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」に、「なりすまし広告問題に関する3社からの聞き取り結果及び当該結果を踏まえた事務局評価」を提出している。そこでは特にMetaの対応に問題があることが指摘されている。
- もっとも、取引透明化法は、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上を図り、もって特定デジタルプラットフォームに関する公正かつ自由な競争〔を〕促進」するものであり(1条)、それゆえに、①単独でのエンフォースメントを欠く(基本的に独占禁止法に委ねられている。13条参照)、②なりすまし広告に対しても「正規の広告主の広告掲載取引上の利益を保護する」(上記事務局評価)という間接的なアプローチしかできないという限界がある。
情プラ法で状況は改善するか?(しない)
- 一方今国会では、プロ責法の改正法(情プラ法)が成立している。なりすまし広告はパブリシティ権侵害等の権利侵害となるので、同法の侵害情報送信防止措置に係る規律の対象となる。同法は(当然)未施行であるが、総務省は、6月21日に、同法の内容を意識したと思われる要請をMetaに対して行っている。
- もっとも、この法律が施行されたとしても、侵害情報送信防止措置を取らないことに対する罰則は存在せず、侵害情報送信防止措置を取ることを命じる行政処分がされることもない。
- したがって、上記のエンフォースメントの不存在という問題は解消されておらず、取引透明化法の下で非協力的な態度を取っている事業者に対しては、情プラ法も同様にあまり有効ではないと思われる。
状況を整理する
- そもそも、詐欺広告について第1次的な責任を負うのは、広告主である。景表法(優良誤認、ステマ規制(なりすまし広告はこれに該当する))や金商法の媒介規制(集団投資スキーム持分に該当するものを売りつけるような場合に問題となる)、刑法の詐欺(未遂)罪は、広告主を対象としている。
- しかしながら、詐欺広告においては、広告主は継続的に活動していないから、そもそも信用というものに価値を感じておらず、行政処分は特段ダメージにならない。また、刑事処分は有効であるが、様々な障害のため、威嚇効果を発揮できるだけの摘発率の達成が困難である。
- このような状況においては、犯罪のエコシステムを分析し、犯罪に必要不可欠なサービス(つまり、犯罪インフラとなりうるサービス)を提供している者をゲートキーパーと位置付け、その者に必要な規制を課し、政府の代理人として行動してもらうことが必要である。特殊詐欺においては銀行(最近では資金移動業、暗号資産交換業なども)と携帯電話(最近では電話転送サービスも)がそれであり、詐欺広告においては広告プラットフォームがこれに当たる。広告プラットフォーム事業者が詐欺広告への対応を求められているのは、このような理由による。
- では、非協力的な広告プラットフォーム事業者にはどのように対処すればよいか。答えはシンプルだと思われる。そもそも広告プラットフォーム事業者に政府の代理人として行動することを求めることが正当化されるのは、広告プラットフォームは、必然的に詐欺に加担するリスクを伴っており、彼らにはそのリスクに対処する責任があるからである。そうであるとすれば、彼らが政府の代理人としての役割を拒否するのであれば、端的に共犯者と位置付けて対応すればよい。そのようなオプションを示すことで交渉が成り立つこともあると思われる。
まずは詐欺罪で書類送検してはどうか
- 共犯者と位置付けて対処する場合、最もソフトなやり方は、詐欺幇助罪で書類送検することである。広告プラットフォーム事業者が提供するアドネットワーク等を利用して詐欺行為が行われていることは周知であり、然るべき立場の者であれば、未必的故意が認められると思われる。
- 特殊詐欺の事例では、電話転送サービスの提供者が詐欺幇助で逮捕されている(「令和4年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」、IP電話番号、詐欺グループに提供容疑 番号再販業者トップら逮捕:朝日新聞デジタル)。
- Uber Eatsの事例では、不法就労助長で法人と幹部が書類送検されている(米ウーバー日本法人と幹部らを書類送検、不法就労助長の疑いー警視庁 - Bloomberg)。
- より強いやり方として、詐欺罪の共同正犯がある。上記のとおり、広告プラットフォーム事業者が提供するアドネットワーク等を利用して詐欺行為が行われていることは周知であることに加え、広告プラットフォームは広告主が広範囲にリーチするために不可欠な役割を果たしていること、その対価として広告プラットフォーム事業者は手数料収入を得ていることからすれば、共謀が認められる。
- 最後のやり方として、口座の凍結も可能だと思われる。すなわち、上記のように構成すれば、広告手数料は犯罪収益となり、犯収法上の疑わしい取引に該当しうることとなるし、組織犯罪処罰法上の没収保全の対象となりうると思われる。平井議員が広告の全面停止を要請したとき、ぎょっとした人も多いと思われるが、あながち根拠のない話でもない可能性がある。