諸課題検討会広告WG中間取りまとめについて

総務省の諸課題検討会広告WG中間取りまとめデジタル広告モニタリング指針案広告主等向けガイダンスが出揃いましたので、それについて書いていきます。

なお、前回、「アドネットワークはDSA/情プラ法の規制対象となる(べき)か?」という記事を書いており、そちらもご参照ください。

 

文書の位置付け

  • 総務省は、2023年10月から、健全性検討会を開催し、誹謗中傷対策(特に令和3年プロ責法改正で手当されなかった投稿の削除)と偽情報対策について検討を始めた。検討過程で、なりすまし広告や闇バイト、災害時・選挙時等における偽情報(伝統的には流言飛語と呼ばれてきたものだと思われる。)などの問題が浮上し、これらも対処すべき課題に含まれるようになった。健全性検討会は、7月に取りまとめを行い、パブコメを経て、9月に終了した。取りまとめでは、概ね、偽情報対策と広告に関する弊害への対処がが課題とされた。
  • その後、2024年10月以降、諸課題検討会と、その小会議である制度WG・広告WGが開催され、検討が行われた。制度WGでは、主に違法情報対策(偽情報対策から重点がシフトしたと思われる。)が、広告WGでは、主に広告に関する弊害への対処が議論された。
  • 制度WGでは、EUのデジタルサービス法(DSA)を参考に、情プラ法を再改正することが議論された(中間取りまとめ案)。
  • 広告WGでは、広告に関する弊害を、①悪質な広告の表示と、②悪質な媒体への資金提供という2つの問題に区別して議論が行われた。このうち、①に関するアウトプットがデジタル広告モニタリング指針案であり、②に関するのが広告主等向けガイダンスであり、これらに至る議論や今後の方向性をまとめたものが、広告WG中間取りまとめだと言える。広告WG中間取りまとめは、前半(第2章)と後半(第3章)に分かれており、前半は①に関するもの、後半は②に関するものである。

 

コメント

悪質広告関係

  • 上記の①悪質な広告に対する総務省の基本的なアプローチは、「SNS等を提供する大規模なプラットフォーム事業者」(大規模特定電気通信役務提供者と同視してよいと思われる。)に対し、広告の審査を求めるというものである。
    • 指針案は情プラ法への言及を意図的に避けているように見えるが、「SNS等を提供する大規模なプラットフォーム事業者」の定義(脚注2)は、大規模特定電気通信役務提供者の指定基準と一致しており、かつ、対象とする広告も、「他人の権利等を侵害する広告」と、情プラ法の迅速化規律が適用されるものに限られている。
    • 大規模特定電気通信役務提供者には、大規模なSNS・掲示板・ホスティングサービス等が該当する。一覧はこちら
    • なお、法律の根拠に基づかない行政指導という建て付けとするのであれば、対象を権利侵害広告に限定する意味はよく分からない。総務省は、既に違法情報ガイドラインにおいて、情プラ法の趣旨を超えた対応を求めているからである(それが望ましいかはさておき)。
  • もっとも、大規模な広告媒体の運営者が必ずしも大規模特定電気通信役務提供者に該当するとは限らない。例えば、新聞社のニュースサイトは、基本的には大規模特定電気通信役務提供者に係る規制の対象とならないと思われる。しかし、そのようなサイトが詐欺や消費者被害の入口となっていることはしばしばあると思われ、大規模特定電気通信役務提供者を通じた適正化のみで足りるのか、継続的に検討する必要がある。仮に足りないのであれば、選択肢としては、大規模媒体全般を規制対象とするか、アドネットワークを規制対象とすることを検討する必要があると思われる。
    • 新聞社は、偽情報の文脈では、SNSは信用できないが自分たちは信用できると主張してきており、それ自体が間違っているとは思われないが、そうであれば、新聞社のサイトにはより脆弱な市民もアクセスすることになるのだから、アドネットワークを使っているからという理由で「ご注意ください。」で済ませるのは、無責任と言わざるを得ない。
  • なお、広告WG(議事録は未公表)で金融庁がIOSCOのオンラインハームに関するステートメントを紹介しているのは興味深い。当該ステートメントについては、「証券取引とデジタル技術・ソーシャルメディアに関するIOSCOの4文書の紹介」を参照。

 

悪質媒体関係

  • 上記の②悪質な媒体に対する総務省の基本的なアプローチは、広告主にとっての損害(信用の毀損、コンバージョン率の低下)と企業の社会的責任を強調することにより、「良質な」媒体やアドネットワークを選択すること(アドネットワークを使う場合、媒体をコントロール可能なアドネットワークを選択し、実際にコントロールを行うこと)を求めるというものである。
  • もっとも、実際のところ、そのような選択やコントロールがどこまで実効的に可能なのかは疑問があり、また、全ての広告主がブランディングによって収益を上げている(つまり、ガイダンスが期待するように行動するインセンティブがある)わけではない。その意味で、アドネットワークを規制対象とすることや、場合によっては広告主に対する制裁は、なお検討すべき課題として残るのではないか。