興津征雄「行政機関による非法的国際規範の国内における実現 : ココムとFATF」について

興津先生(@yukio_okitsu)の「行政機関による非法的国際規範の国内における実現 : ココムとFATF」(「論文」)を拝読したので、感想を書いていきます。全て個人としての感想です。

  • 業法、犯収法、マネロンGL、FATF勧告の相互関係はおそらく関係者の多くが気になっている点であり、行政法学の関心の対象としていただけるのはありがたいです(伝統的には金融規制は行政法学ではなく商法学の対象という雰囲気があったこともあり…)。なお、 AMLを理由とする直近の行政処分2件(イオン銀行羽後信用金庫)は、いずれも業法に基づいています。
  • 特に金融分野では、業該当性はしばしば業法の保護法益(言い換えれば、業法が対処しようとするリスクの有無・高低)に照らして判断されますが(例えば佐野史明『詳解 デジタル金融法務 第2版』151頁~152頁、160頁~165頁)、マネロンリスクを考慮すべきかについては実務レベルで議論があります(佐野・前掲152頁、市古裕太『デジタルマネービジネスの法務』529頁)。
  • FATFの対日相互審査報告書では、マネロンガイドラインはenforceable meansであり(例えば33頁の77段落)、金融機関がAML/CFT上の要求に違反した場合には、業務改善命令等を課すことができるとされています(147頁の441頁)。一方、Enforceable meansの要件として、違反に対する制裁が求められており(FATF勧告120頁の法的根拠に関する注釈のpara. 3)、この制裁は、(enforceable means自体とは)別文書に記載されていてもよいが、clear links between the requirement and the available sanctionsが必要とされています(para. 4の(c)柱書)。論文の指摘は、この点にも関わるかもしれません。
  • 銀行の健全性ないし公共性(論文44頁の右段)は、難しい概念だなと感じます(品田智史「誤振込みと財産犯:山口地判令和5年2月28日裁判所Webによせて」63頁〜65頁を読んだときも、そう思いました。)。いずれにせよ、論文がそうしているように、1条の解釈(家根田正美=小田大輔「銀行法の目的と基本理念」も参照)を、銀行業には2つの行為が含まれており、為替取引のほうは資金移動業者にも認められていることも考慮しつつ、議論の出発点とするのがよいのではと思っています。
  • 論文を読んでいて、次の2点で、個情法を想起しました。
    • 第1に、「個人情報の保護に関する法律に係るEU域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」です。補完的ルールは、法の規定に基づく法的拘束力を有するルールであり、勧告・命令の対象となり、裁判所による救済の対象となるとされており(補完的ルール1頁(PDFのページ番号で5頁))、欧州委員会の対日十分性認定はこの説明を受け入れていますが(para. 15)、疑問も提起されています(巽智彦「公法学から見た日EU間相互十分性認定個人情報保護法制の公法上の課題」)。
    • 第2に、主務大臣制です。我が国において、民間部門における個人情報保護は、業規制の一環として始まり、平成15年に個情法という横断的立法がなされたものの、主務大臣制という形で縦割り構造は維持され(論文43頁左段の表現を借りています。)、平成27年改正で個情委が設立され、監督権限が個情委に一元化されたものの、業規制の対象となっている業種においては、現在でも、権限の委任や個別法の規定(銀行法施行規則13条の6の5以下、貸金業法施行規則10条の2以下、移動業府令24条以下等)を通じて、あるいは事実上、業法に基づく監督の中で、個人情報保護についても一定の監督が行われています。
  • 脚注には、この問題に関する論文が網羅的に挙げられており、これから勉強したいと思います。実務的には、脚注17の警察庁の逐条、中崎先生の本(の最新版)、尾崎寛ほか編著『逐条解説FATF勧告』山崎千春=尾崎寛編著『マネロン等対策の新論点』を見ることが多いです(後ろ2冊は辞書的というよりはインプット用ですが。)。