リクナビ事件・再訪

JILISレポートのリクナビ事件に関する記載をまとめました。

 

JILISレポートの記載

「リクナビ事件におけるスコアリングは…「「リクナビ2020」の会員となった学生等の人生をも左右しうる」というハイリスクな状況で、利用目的の達成に厳密に必要とは言えないデータをもとに個人の評価を行っていたもので、「社会通念に基づき合理的に判断」すると、「利用目的の達成に必要な範囲」を超えた「取扱い」であった、と評価されるのではないか」(p.7)

「〔リクナビ〕事件の問題の本質は、関連性を欠き、(社会通念に基づき合理的に判断して)利用目的の達成に必要とはいえないデータに基づいて、正確性も担保されていないスコアを算出し、それにより学生が内定先から不利益に扱われかねなかったことにあると思われる(同意取得や情報提供をしなかったことは、そのような不適正な利用についての拒否権行使の機会を奪った点で問題とされる)」(p.8)

「〔スコアの信頼性が担保されていないという〕観点からは、この種のスコアないしサービスは、ユーザー企業への説明の仕方次第では、個人情報保護だけでなく、不公正な取引方法(ぎまん的顧客誘引)の問題ともなりうると思われる。」(p.8, note 83)

「仮に処理の法的根拠を導入する場合、リクナビ事件におけるスコアリングは…同意又は契約履行によることが考えられるが、十分な情報提供を行い、かつ契約締結の条件としない形でなければ、同意は無効とされ、また、スコアリングが契約の本質的内容となっていなければ、契約履行に必要な範囲を超えるとされると考えられる(しかし、スコアリングの影響に鑑みれば、いずれも満たすことが困難だったと思われる。)。」(p.8)

「EUのAI法は、ソーシャルスコアリングを「受け入れ難い」として禁止しているが、そこで禁止されるのは、データが生成・収集された文脈とは無関係な文脈における不利益取扱いと、(スコアの元となった)社会的行動の重大性に釣り合わない不利益取扱いである。リクナビ事件は、このどちらにも該当しうるものであり、個情委が「法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービス」と批難し、厚生労働省が「募集情報等提供事業や職業事業等の本旨に立ち返り、このような事業を行わないようにすること」まで要求したことは、既にそのような価値判断を前提としていたのではないか。」(p.10)

 

引用した文書

個情委8月勧告

リクルートキャリアが大量に取り扱う個人情報は、求人企業の採用活動に関わる情報であり、「リクナビ2020」の会員となった学生等の人生をも左右しうることから、その適正な取扱いについては重大な責務を負っていると認められる。また、リクルートキャリアは、自らが個人情報を取得するだけでなく、多くの個人情報取扱事業者からの委託を受け、個人情報を取り扱っており、これらの情報を適切に区分し、安全に管理する必要がある。」

(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律第42条第1項の規定に基づく勧告等について」(令和元年8月26日)

 

個情委12月勧告

「2018年度卒業生向けの「リクナビ2019」におけるサービスでは、個人情報である氏名の代わりにCookieで突合し、特定の個人を識別しないとする方式で内定辞退率を算出し、第三者提供に係る同意を得ずにこれを利用企業に提供していた。/リクルートキャリア社は、内定辞退率の提供を受けた企業側において特定の個人を識別できることを知りながら、提供する側では特定の個人を識別できないとして、個人データの第三者提供の同意取得を回避しており、法の趣旨を潜脱した極めて不適切なサービスを行っていた。

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」(令和元年12月4日)

 

厚労省通達

本人同意なく、あるいは仮に同意があったとしても同意を余儀なくされた状態で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に募集企業に提供することは、募集企業に対する学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働くおそれが高い。このことは本人同意があったとしても直ちに解消する問題ではなく、職業安定法第51条第2項に違反するおそれもあるため、今後、募集情報等提供事業や職業紹介事業等の本旨に立ち返り、このような事業を行わないようにすること。

厚生労働省職業安定局長「募集情報等提供事業等の適正な運営について」(職発0906第3号、第4号)(令和元年9月6日)

 

立案担当者解説

「利用目的の達成に必要な範囲」とは、第15条に基づいて特定された利用目的に照らして必要となる利用の範囲のことである。…どこまでが「必要な範囲」かについては、当該個人情報と利用目的に則し、個別具体的に判断する必要がある。例えば、配送先の管理という利用目的のために年齢、性別、家族構成の取得・蓄積は必要か、信用付与という利用目的のために信用情報がどの程度必要か、また、顧客管理という利用目的のための取扱いに顧客に対する情報提供サービスの実施は含まれるか、等について、社会通念に基づき合理的に判断する必要がある。

(園部逸夫=藤原靜雄編著『個人情報保護法の解説 第三次改訂版』153頁(ぎょうせい、2022))

 

職安指針

第五 求職者等の個人情報の取扱いに関する事項(法第五条の五)
一 個人情報の収集、保管及び使用
(二) 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、特定募集情報等
提供事業者、労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者は、その業務の目
的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集することとし、
次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存
在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人か
ら収集する場合はこの限りでないこと。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるお
それのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況

「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号)(最終改正:令和4年厚生労働省告示第198号)

 

業務運営要領

(ロ) 有料職業紹介事業者は、求職を受理する際には、当該求職者の能力に応じた職業を紹介 するため必要な範囲で、求職者の個人情報(以下「個人情報」という。)を収集すること とし、次に掲げる個人情報を収集してはならない。
ただし、特別な業務上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠で あって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りではない。
(a) 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
(b) 思想及び信条
(c) 労働組合の加入状況

(a)から(c)については、具体的には、例えば次に掲げる事項等が該当する。
(a)関係
a 家族の職業、収入、本人の資産等の情報(税金、社会保険の取扱い等労務管理を適切
に実施するために必要なものを除く。)
b 容姿、スリーサイズ等差別的評価に繋がる情報
(b)関係 人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書
(c)関係 労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報

厚生労働省職業安定局「職業紹介事業の業務運営要領」

 

AI法5条1項(c)(ソーシャルスコアリング)

1. The following AI practices shall be prohibited:

(c) the placing on the market, the putting into service or the use of AI systems for the evaluation or classification of natural persons or groups of persons over a certain period of time based on their social behaviour or known, inferred or predicted personal or personality characteristics, with the social score leading to either or both of the following:

(i) detrimental or unfavourable treatment of certain natural persons or groups of persons in social contexts that are unrelated to the contexts in which the data was originally generated or collected;

(ii) detrimental or unfavourable treatment of certain natural persons or groups of persons that is unjustified or disproportionate to their social behaviour or its gravity;