前回、「デジタルサービス法に関するメモ:基本構造、違法情報の範囲、オンラインマーケットプレイス」という記事を書きましたが(なお、追記しています。)、その後、アドネットワークのオンラインプラットフォーム該当性という興味深い論文"The EU Digital Services Act: what does it mean for online advertising and adtech?"を見つけましたので、それについて簡単に書いていきます。
論文の概要とDSAの関係箇所の補足説明
- 論文は、DSAは広告媒体を規制することで広告を適正化しようとしているが、定義に照らすとアドネットワークもオンラインプラットフォームに該当するのではないか、というもの。
- オンライン広告は、基本的には、広告主→アドネットワーク→広告媒体、という商流で取引される。広告媒体とは、WebサイトやSNSなどの、広告が掲載されるサイトである。アドネットワークは、無数にいる広告主・広告媒体をマッチングする機能を提供する。広告主はDSP (Demand-Side Platform)、広告媒体はSSP (Supply-Side Platform)を使用してアドネットワークに参加する。
- アドネットワークと媒体は、垂直統合で提供されることもある(むしろ、垂直統合が原始的なモデルであり、広告主と媒体が増え、個々に取引するのが現実的でなくなってきたことから、アドネットワークが登場した。)。特に、Google検索、YouTube、Intagram、Yahooニュースのような巨大なPVを有する媒体は、垂直統合モデルを採用している。
- 論文では、このような垂直統合の媒体は、online platforms with integrated advertising servicesと呼ばれている。
- DSAの立案者は、オンラインプラットフォームたる媒体に対する規制を通じて、オンライン広告を適正化しようとしていたと思われる。このような手法は、垂直統合モデルでは、ある程度機能する。
- 一方で、媒体がアドネットワークを使用している場合には、媒体の広告を適正化する能力は限定されており、アドネットワークこそがその能力を持っている可能性がある。また、オンライン広告全体にフォーカスすると、そもそも媒体がオンラインプラットフォームに該当しない場合も多い(例えば新聞社や放送事業者が運営するニュースサイトは通常オンラインプラットフォームに該当しない)。仮にそうだとすれば、アドネットワークに直接規制を課すことには、一定の合理性がある。もっとも、現行のオンラインプラットフォームに課される行為規制のリストが、アドネットワークに対して有効かつ適切なものとなっているかは、別問題である。論文は、アドネットワークがオンラインプラットフォームに該当することを示しつつ、行為規制がどのように適用されるかが不明確であることを指摘している。
日本における検討状況
- 日本においては、現在、諸課題検討会制度WGで、情プラ法を改正し、違法情報に係る迅速化規律を導入することが検討されているが、これとは別次元の問題として、アドネットワーク(の提供者)が大規模特定電気通信役務提供者に該当するかが問題となる。現状を述べると、(広告WGで議論された)モニタリング指針は、基本的に媒体を対象としており、制度WGの議論においても、アドネットワークを直接に規制すべきかが正面から取り上げられているわけではないようである。
- 仮にアドネットワークを規制するのであれば、発信者ベースで「大規模」かどうかをカウントすることの適切性や、大規模特定電気通信役務提供者に課される規制がアドネットワークにフィットしているかを検証する必要があると思われる。
- また、アドネットワークを規制するかどうかにかかわらず、広告が媒体を対象とする迅速化規律の対象となるかも検討する必要がある。もっとも、この点については、広告WGの議論においては、対象となることが前提とされているように思われる(モニタリング指針は情プラ法への言及を意図的に避けているように見えるものの)。