6月6日にステマ規制に基づく措置命令が公表されましたが、ステマ規制に基づく初の執行例である点、診療所のステマ(投稿を条件に割引を行っていた)に対する執行例である点で興味深いので、それについて書いていきます。
概要
- 「消費者庁は、令和6年6月6日、医療法人社団祐真会に対し、同法人が運営する「マチノマ大森内科クリニック」と称する診療所において供給する診療サービスに係る表示について、景品表示法に違反する行為(同法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)に該当)が認められたことから、同法第7条第1項の規定に基づき、措置命令を行いました」(医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について | 消費者庁)。
- 「インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した者(以下「第三者」という。)に対し、Googleマップ内の祐真会が開設し運営するクリニックのプロフィールにおける口コミ投稿欄のクリニックの評価として「★★★★★」(以下「星5」という。)又は「★★★★」の投稿をすること(以下「本件星投稿」という。)を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたことによって当該第三者が投稿した、別表1及び別表2「表示内容」欄記載のとおりの表示をしている又は表示をしていた。」(公表文PDF)。
- 「祐真会は、本件役務を一般消費者に提供するに当たり、第三者に対し、本件星投稿を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝え、これに応じて当該割引を受けた第三者が、別表1及び別表2「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示箇所」欄記載の表示箇所において、同表「表示内容」欄記載のとおり投稿している又は投稿していたことから、祐真会は、本件役務に係る別表1及び別表2「表示内容」欄記載の表示内容の決定に関与しているものであり、当該投稿による表示は事業者の表示と認められる。」(公表文PDF別添の措置命令書)
- 「⑶命令の概要/ア 本件役務を一般消費者に提供するに当たり、第三者に対し、本件星投稿を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝えたことによって当該第三者が投稿した、別表1「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示箇所」欄記載の表示箇所における、同表「表示内容」欄記載のとおりの表示をしている行為を速やかに取りやめること。/イ 前記⑵アの表示は、前記⑵イのとおりであって、本件役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあるものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること。/ウ 再発防止策を講じて、これを祐真会の役員及び従業員並びにクリニックの医療従事者及び従業員に周知徹底すること/エ 今後、同様の表示を行わないこと。」
前提
景表法関係
- 「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」「三 前2号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」(景表法5条3号)
- 「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」(令和5年3月28日内閣府告示第19号)
- 「景品表示法は、第5条において、事業者の表示の内容について、一般消費者に誤認を与える表示を不当表示として規制するものであるところ、外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合である。」(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準)
- 上記運用基準6頁は、「事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合。」を挙げている。
医療法関係
- 「前項に規定する場合(注:何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(以下この節において単に「広告」という。)をする場合)には、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を阻害することがないよう、広告の内容及び方法が、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。」「四 その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定める基準」(医療法6条の5第2項4号)
- 「第1条の9 法第6条の5第2項第4号及び第6条の7第2項第4号の規定による広告の内容及び方法の基準は、次のとおりとする。」「一 患者その他の者(次号及び次条において「患者等」という。)の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告をしてはならないこと。」(医療法施行規則1条の9第1号)
- 「省令第1条の9第1号に規定する「患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告をしてはならないこと」とは、医療機関が、治療等の内容又は効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談を、当該医療機関への誘引を目的として紹介することを意味するものであるが、こうした体験談については、個々の患者の状態等により当然にその感想は異なるものであり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえ、医療に関する広告としては認められないものであること。/これは、患者の体験談の記述内容が、広告が可能な範囲であっても(注:医療広告においては広告可能事項が法定されている。)、広告は認められない。/なお、個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ及び第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合は、広告に該当しないこと。」(医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)9頁)
- 「Q2-11 フェイスブックやツイッターといったSNSで医療機関の治療等の内容又は効 果に関する感想を述べた場合は、広告規制の対象でしょうか。」「A2-11 個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ及び第三者が運営するい わゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用 負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合 は、広告に該当しません。」(医療広告ガイドラインに関するQ&A)
コメント
- 2023年10月から施行されたステマ規制の初の執行例である。
- ステマ規制を適用するためには、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」(告示)に該当する必要があり、そのためには、「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない」こと(運用基準)が必要である。措置命令では、「第三者に対し、本件星投稿を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝え、これに応じて当該割引を受けた第三者が、別表1及び別表2「表示期間」欄記載の期間に、同表「表示箇所」欄記載の表示箇所において、同表「表示内容」欄記載のとおり投稿している又は投稿していたこと」が、「関与」として位置付けられている。
- 措置命令においては、(ア)表示の取りやめ、(イ)表示がステマである旨の周知、再(ウ)発防止策、(エ)今後同様の表示を行わないことが命じられている。このうち(ア)表示の取りやめについて、今回の事案では投稿は個々の来院者のGoogleアカウントで行われており、違反者の権限で一括して削除することはできないと思われるが、どこまでのことをすれば命令を履行したことになるのかは1つの論点であると思われる(なお、措置命令違反については役員、従業員等に最大2年の拘禁刑が、法人には最大3億円の罰金刑が科される。46条1項、49条1号)。
- ステマ規制は「自己の供給する商品又は役務の取引について」行う表示について適用される。言い換えれば、広告主にのみ適用されるということであり、メディアやインフルエンサーには適用されないが( 〔座談会〕景品表示法の改正および運用改善について | 有斐閣Online、令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。 | 消費者庁)、同様の理由で、今回実際に投稿を行った人々には適用されない。仮にステマ規制に直罰規定が存在するとすれば、共同正犯が成立しうるところであるが、実際には直罰規定はステマ規制を対象としていない(48条)。
- なお、ステマ規制は、課徴金の対象ともならない(8条1項括弧書き)。
- 医療広告として見た場合、
- 第1に、体験談に該当しそうであるが、体験談の禁止は、「治療等の内容又は効果に関する体験談」(医療法施行規則1条の9第1号)であることが要件とされている。ステマと思われる投稿は、ワクチンが安価であること、内装がきれいであること、待ち時間が少なかったこと等を内容とするものが多く、上記の体験談に該当するものは少なそうである。
- 第2に、広告可能事項(医療法6条の5第3項)については、Google Mapsの口コミ欄に書かれていることを考えると、医療法施行規則1条の9の2第1号、2号を満たしてしまいそうであるが、予防接種は自由診療なので、3号、4号の違反を捉えて広告可能事項違反とする余地はあると思われる。