東京地裁でAIは発明者たり得ないという判決が出ており、日経(アプリ版)で速報が出るなど世間的には一定のインパクトがあったようなので、それについて書いていきます。
- 「原告は、特願2020-543051に係る国際出願(以下「本件出願」という。)をした上、特許庁長官に対し、特許法184条の5第1項所定の書面に係る提出手続(以下、当該提出に係る書面を「本件国内書面」という。)をした。そして、原告は、国内書面における発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した。これに対し、特許庁長官は、原告に対し、発明者の氏名として自然人の氏名を記載するよう補正を命じたものの、原告が補正をしなかったため、同条の5第3項(中:184条の5第3項)に基づき、本件出願を却下する処分(以下「本件処分」という。)をした。本件は、原告が、被告に対し、特許法にいう「発明」はAI発明を含むものであり、AI発明に係る出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではないから、本件処分は違法である旨主張して、本件処分の取消しを求める事案である」。
- なお、出願却下処分は審判制度の対象となっていないので、出願却下処分自体の取消訴訟を地方裁判所に提起することになる。通常の行政事件訴訟であるので、被告は特許庁長官ではなく、国となる。
- 裁判所は、①(a)知的財産法2条1項、(b)特許法36条1項2号、(c)特許法29条1項の文言、②AI発明については、「その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方」であること等から、発明者(「発明をした者」)は自然人をいうとし、特許庁の処分を適法とした。①が直接の理由であり、②は裁判所が文言を乗り越えて拡張解釈すべき場面ではないことを確認する趣旨と理解できる。
- このような結論は、特許庁「発明者等の表示について」(2021)、「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ (案)」(2024)、各国特許庁・裁判所の判断と整合的であり、穏当なものである。もっとも、そのことからも分かるとおり、そもそもAIは発明者たりうるかという問題は、現在においてはそれほど重要ではない。
- 現在より重要なのは、AIを使用して行われた発明はどのような場合に特許の対象となりうるかである。この問題については、米国特許商標庁が、今年2月、"Significant Contribution"を行ったかどうかで判断する旨のガイダンスを公表しており、日本においても、「中間とりまとめ(案)」が同様の考え方を示しており(なお、「AIと著作権に関する考え方について」は、AIを使用して創作された物の著作物性について、先行して同様の考え方を示していた)、関心はその当てはめに移りつつある。